第176話(99/08/13 ON AIR)
『再会の時』 作:黒澤 忍


学生時代、達川(たつかわ)は恵美(めぐみ)にフラれた。でもク
ラスメートとして付き合い卒業。そして10年後、2人は大学の近
くの喫茶店で再会する。
(俺のナレーション)
卒業して10年ぶりの初めての同窓会。俺は出席の返事を出しながら行
かなかった。そして先日、クラスの住所録が届いた。
(間)
電話の呼び出し音「プープープープープー」(5回呼ぶ)
留守番テープ「ただいま留守にしておりますピッと鳴りましたら」
(一般的な留守番テープ本人が吹き込んだものではない)
電話を切る音「ガチャ」
俺「いないかー」
(間)
(俺のナレーション)
それから俺は大学まで歩いた。街並みはすっかり変わってしまっていた。
坂道を上がり、裏門から入った。すべて新しい校舎に建て替えられ、昔の
面影はどこにもなかった。俺たちの頃とは違う髪型の、違う色の、違う服
装の学生ばかりだった。「もう来るところじゃないな」。何故かそう思っ
た。正門から出て駅のほうへ歩いた。
(間)
電話の呼び出し音「プープープープー」(4回呼ぶ)
彼女 「ハイ、もしもし」(瞬間間)「もしもし」
「あっ俺」
彼女 「はっ」(誰かわからない)
「恵美ちゃんでしょ」
彼女 「ハイ」(誰だろうという言い回しで)
「わかんないの冷たいなぁ」
彼女 「えぇ達川君?」(「えぇ」をひょっとしたらという声で)
「そうよ達川君よ」(「そうよ」を強調口調で)
彼女 「どうして来なかったのみんな待ってたのよ」
「行きたくてもいけねぇのが渡世人の辛ぇところよ」
彼女 「何まだ寅さんやってるの変んないなぁ‥‥‥(「何」は小
さく軽く)(間)ユキちゃん覚えてる?達川君のこと好
きだった会いたかったみたいよ」
「あぁユキちゃんかぁなつかしいなぁ」
彼女 「ねぇねぇそれからねみんなもびっくりしたんだけど(瞬間
間)スゴイ話があるのよ」
「何?」(次の言葉を期待しながら」
彼女 「タケダ君とレイちゃんていたでしょう」
「あっあのシェイクスピア気違いの?」
彼女 「そう今は故郷(ふるさと)に帰って家の仕事継いで電器屋さ
んしてるらしいんだけど」
「あいつ秋田だったよな」
彼女 「ほら誰が誰を好きだったってそんな話になるでしょう(瞬
間間)タケダ君はレイちゃんが好きだったんだよねって
ユキちゃんがゆったの」
「うん」(次の言葉を期待しながら)
彼女 「そしたらレイちゃん(間)私も好きだったのよって」
「へぇー」(驚き)
彼女 「じゃぁ結婚してたら今頃電器屋の奥さんになってるんだって
あたし思わずゆっちゃったのよ(瞬間間)そのあとシー
んとしちゃって(間)終わってからみんな久しぶりに感動
というものが心の中で甦ったなぁとかゆっちゃってその話で
持ちきりだったのよ」
「でタケダはなんて言ったの?」
彼女 「無言(間)ただどうしてその時にゆってくれなかったの
って感じで(瞬間間)呆気にとられてボケーとしてた」
「そぅやっぱり行けばよかったなぁ」
彼女 「そうよゆっくり話もできたのに(間)今どこにいるの?」
「大学の近く」
彼女 「出てきてるの?(驚いて)(瞬間間)いつ帰るの?」
「わからねぇ(間)よかったらちょっとだけでも会えないかな
渡したい物もあるんだけど」
彼女 「うん会いたい(是非ともという感じ)どこで?」
「学校の道沿いにシネマハウスって喫茶店があっただろう」
彼女 「あそこまだあるよ」
「本当ぉ?(瞬間間)30分ぐらいでゆけるからそこで待っ
てて」
彼女 「オーケィ」
電話の切れる音「ガチャ」
(間)
(喫茶店シネマハウス)
エデンの東か風と共に去りぬのテーマかカサブランカのAS
TIMEGOESBYかが流れている)
‥‥‥‥‥BGM低くなって
彼女 「よく来たわねぇ授業が休講になると(瞬間間)あの時のま
まねこのお店(壁とか天井を見渡しながらしみじみと)
(瞬間間)映画の話ばかりしてたわね(間)卒業してか
ら一度も連絡くれないしみんなに聞いても知らないってゆうし
住所録には電話番号書いてないし」
「だって電話なんかないもん」
彼女 「手紙出したのよ届いた?」
「いつ?(瞬間間)こないだから旅に出てるから」
彼女 「どこまでゆくの」
「足の向くまま気の向くまま(瞬間間)いつもの気ままな旅よ
(笑)
彼女 「またーっ寅さんみたいなことゆうんだから(笑)でもいい
なぁ(瞬間間)いっしょにゆきたいなぁ(想いめぐらす
ように)(間)ねぇ10年の間どうしていたのよ」
「俺かぁ恋をしていたのよ」
彼女 「もう寅さんはいいってゆってるでしょ」(笑)
「本当だよ恋をしていたのよ恵美ちゃんに」
彼女 「ありがとうそんなことゆってくれるの達川君だけよ」(ゆっ
くりやさしく)
 (間)
「今はやりの夫婦別姓で暮らしてるの?」
彼女 「どうしてそんなこと聞くの?」
「住所録の名前変わってないもん」
彼女 (瞬間間)「結婚はしなかったの」(ちょっと寂しそうに)
(瞬間間)「そぅ」(ちょっと静かなでも嬉しそうな声で)
彼女 (瞬間間)「達川君は結婚してるんでしょう」
「俺はずぅーと独身(瞬間間)あっちょっと遅いけどこれ
誕生日プレゼント」
彼女 「えぇっあたしの誕生日覚えてるの?」(驚いて)
「忘れるわけないって(静かな口調で)だってずぅーと好き
だもん」
彼女 (間)「なあにこれ」
「あの時に2人で行こうと言って約束したけど行けなかったちひろ
美術館(瞬間間)もう恵美ちゃんは忘れてるだろうけど
(間)絵本」(静かな口調で)
BGM圧倒的に盛り上がって‥‥‥‥‥‥‥
end