第136話 (98/11/06 ON AIR) | ||
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『秋の日の心中』 | 作:松田 正隆 |
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―ある部屋。 よこたわる男女。 |
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男 | 「今、何時?」 |
女 | 「知らん。」 |
男 | 「下で、3回打った思うねん。時計。」 |
女 | 「ほな、3時や」 |
男 | 「聞き違いやないやろか」 |
女 | 「知らん」 |
男 | 「3時のはずないやろ」 |
女 | 「何で」 |
男 | 「薬、呑んだん、12時やで……。2時間以上 もつはずない。」 |
女 | 「そうか」 |
男 | 「そうかやないやろ」 |
女 | 「しゃあないやろ、もってんねんから」 |
男 | 「これはもってんねんか?」 |
女 | 「えッ?」 |
男 | 「もってるんやのうて、死んでんのんとちがうか? わしら」 |
女 | 「ああ」 |
男 | 「ああやない。死んでんねん」 |
女 | 「死んでるヤツが、時計の音、聞くか?」 |
男 | 「そやし、あれは幻聴や」 |
女 | 「幻聴かて、生きてるもんが、聞くんやアホ。」 |
男 | 「そっか」 |
女 | 「……」 |
男 | 「ほな、何やねん、わしら…死んでもうたんか?」 |
女 | 「死んでんのに、会話するか、アホ」 |
男 | 「何やねん、ほんなら。わしら」 |
女 | 「生きてんのや、まだ」 |
男 | 「2時間過ぎてもか?」 |
女 | 「そうや」 |
男 | 「そんなことあるわけないやろ」 |
女 | 「現に生きてるやんか、うっとォしいな、あんた」 |
男 | 「こんなん、生きてる言わへんわ。」 |
女 | 「何で」 |
男 | 「何にも動かへんやんか。手も足も、出ェへん。」 |
女 | 「薬のんだからやないか。」 |
男 | 「そんなんわかってるわ」 |
女 | 「も、ちょっとだまりィな。うるさいわ」 |
男 | 「……」 |
女 | 「昼の3時やったりして」 |
男 | 「そんなアホな」 |
女 | 「わからへんで」 |
男 | 「何言うてんの。そこまでもつはずない。わしら 生きてられへん。あのクスリ、甘ないで」 |
女 | 「ちゃうちゃう。……昨日の昼の3時や」 |
男 | 「はァ?」 |
女 | 「トリップして過去に逆もどりや…」 |
男 | 「笑うてまうわ」 |
女 | 「笑うたらええやん」 |
男 | 「ハハハ…」 |
女 | 「…」 |
男 | 「…昨日の今ごろ、何してたやろ。」 |
女 | 「知らん、忘れてもうた…。」 |
男 | 「ヨシオのアホを、七条の橋からつきとばして」 |
女 | 「あいつ、どないしたやろ」 |
男 | 「流されて、今ごろは海の上や。」 |
女 | 「プカプカういとんのやろか |
男 | 「サメのエサや」 |
女 | 「かあいそやな」 |
男 | 「何やそれ、今さらそんなこと言うなや。 お前のため思うてやったんやないか」 |
女 | 「…ヨシオの方が、あんたよりうまかったわ」 |
男 | 「何やて」 |
女 | 「ヨシオと、こうなればよかったんやわ」 |
男 | 「…ウソやろ」 |
女 | 「ウソやない」 |
男 | 「ほんなら…何やねん、オレは…オレは何のために …お前と、こんなことまでして」 |
女 | 「…知らん」 |
男 | 「どうゆうことやねん」 |
女 | 「知らんて、わたしは…」 |
男 | 「…」 |
女 | 「何を、今さら、どうゆうたかて、とりかえしの つかんことばかりやで。そうゆうもんや、人生は」 |
男 | 「…オレは死にとない…こんなことってあるかッ。 死にとないんや。」 |
女 | 「そやし、まだ、生きてるやないか」 |
男 | 「生きてるんか?」 |
女 | 「生きてるやない。ほら…。」 |
男 | 「ほらって、何や」 |
女 | 「立って、歩いて、タバコ吸うて…。ああ、もう ホンマつかれたわ。」 |
男 | 「え?…」 |
女 | 「ちょっと、わたし買物行ってくるわ。」 |
男 | 「ちょっと、待ちいな」 |
女 | 「ほな、行って来ますわ」 |
男 | 「え?…そんな…おい!…オレは、どないすんのや…。 このまま、何しとったらええねん…。おい!…おい!」 |
―間。 | |
男 | 「今、何時や…。…なあ…誰もおらへんのか?…なあ…。 …ここは一体、どこやねん…」 |
―了 |