第137話 (98/11/13 ON AIR)
『披露宴がはじまる』  作:飛鳥 たまき

登場人物
男 新郎の友人 良介
女 新婦の友人 直子

(開演前の披露宴会場。
司会を担当する新郎、新婦の友人二人。
落ち着かない気持ちでお客さんを待っている)。
良介 「ふぅーーーーーー(大きく息を吐く)」
直子 「ふううーーふふふ」
(お互い顔を見合わせて、ぎこちなく笑う)
良介 「俺、なんか、緊張するわ」
直子 「わたしも」
良介 「なんで俺らが緊張するねん」
直子 「そりゃ、緊張するよ。83人やろ、一生に一回のこと
   やろ。『すんなりいくも、いかんも、司会にかかっと
   る』言うて、陽子、脅かすねんよ」
良介 「ほんでも、頼まれたらやらんわけにはいかんわな。俺
   も一緒や。耕平のやつ、『これはチャンスやで』って
   なんやわけわからんこと言うとったけど頼まれたらな
   あ」
直子 「要はわたしら見込まれたいうことやろ」
良介 「そやな。厚い信頼を背に、ハッピィ&ハートフルな披
   露宴にしてやろやないか、なあ」
直子 「ふふふ…耕平くんのいう通りやわ。『良平はすぐ調子
   にのる』言うとったわ」
良介 「もう、あいつろくなこと言うとらんなあ。まあ、当たっ
   とるけど。そういえば、直子さんは『募集中』なんや
   て?」
直子 「まった!」
良介 「ちゃうん?」
直子 「ちゃう。そんなん募集するもん違うやろ」
良介 「そっかー…募集中かぁ」
直子 「あっ、変な気い起こさんといてよ。披露宴の司会をちゃ
   んとするのがわたしらの役目なんやからね」
良介 「あたり前や。…終わってからや」
直子 「もう!練習や、練習。最初のとこ、合わしとこ」
良介 「よっしゃ」
(二人、深呼吸)
良介 「新郎」
直子 「(少し遅れて)新婦」
二人 「(声がそろわない)入場!」
(二人笑う)
良介 「もう一回や」
直子 「うん」
良介 「気い合わせて決めようぜ。(小さく)せーのー」
良介 「新郎」
直子 「新婦」
二人 「入場!」
(二人、小さく拍手)
直子 「それから……えーと…(メモをくる)ここ、ここ」
良介 「(のぞき込んで)キャンドルサービス」
直子 「各テーブルの紹介。ーー次に新郎新婦が参りますテー
   ブルは、ミッキーにユッコ、ターちゃんにのんこ、ピッ
   ピにカニさん。新婦、陽子さんの高校時代の友人たち
   です」
良介 「あはははーーーー」
直子 「何よ、それ」
良介 「お客さん、みんな笑うで」
直子 「ええの。この方がみんなにわかるの。ほら、次は自分
   やろ」
良介 「続いてのテーブルは新郎、耕平の悪友たち。自称魚釣
   りのプロ、沢田。一直線に突っ走るだけの村上。仕切
   りたがり屋の高木。腹芸の持ち主、阿部。酒は底無し
   の畑山。ヘタなパントマイムが得意な清水。サークル
   の仲間たちでした」
直子 「で、良平さんはどうなん?」
良介 「えっ?俺?俺は…」
直子 「本番に弱い。」
良介 「なんでやねん」
直子 「ちゃうん?」
良介 「ちゃう。……ちゃうちゃう」
直子 「ほんまぁ?…あっ、お客さん入り始めた…」
良介 「う、うん」
(ドアが開き、会場は披露宴が始まる前の華やいだ雰囲
   気につつまれていく)
良介 「(軽く手を挙げて)おう!……ゼミの仲間。久しぶり
   やわ…卒業以来やわ」
直子 「ええ感じの人やね。紹介してな」
良介 「ええっ、あんなんが好み?」
直子 「うん。(小声で)掘りだちのじゃがいもみたいなん好
   きやねん」
良介 「じゃがいも?それなら、俺のほうがじゃがいもらしいっ
   て。(自分で突っ込みを入れて)なんちゅうてんねん
   !」
直子 「えっ?なんか言うた?」
良介 「いや、直子さん、変わとるな思うて」
直子 「外見やなくて、ちゃんと中味を見とるいうことや」
良介 「へぇーーー。それにしても陽子ちゃんの友達みんなき
   れいやなあ。あの着物着てる人は?」
直子 「ピッピ。残念でした。この春結婚しました」
良介 「あの黄緑のドレスの人は?」
直子 「裕子。だめよ、純情な子なんやから」
良介 「ええ感じや」
直子 「そやろ。わたしらの仲間、みんなええ感じやし、純や
   し…けど、変な気い起こしたらあかんよ。もう、みん
   ないい人がおるんやからね」
良介 「みんな?ほんまに?」
直子 「そう」
良介 「ほんで、直子さんだけ募集中?なんでやろ」
直子 「知らん。男がみんなアホやからやろ」
良介 「はっはあー、そこやな。陽子ちゃんが言うとった。ちょ
   っと強がりで生意気やいうて」
「あーー陽子のやつ」
良介 「おう、そろそろやないかー。様子見てくるわ」
(良介、ドアの所へ行く。
   ざわめき大きくなる。
   良介、もどってくる)
良介 「準備OKや。時間どおりスタートできる。……ああ、
   どないしよう。緊張してきた…手のひらに人の字書い
   て飲み込もう…」
直子 「あー、自分だけ?わたしも」
(二人、『人』を飲み込む。
   音楽、BGMから入場の音楽へ。ざわめきが止む)
良介 「新郎」
直子 「新婦」
二人 「入場!」
 (音楽大きくなる。拍手がかぶさる)