第91話 (97/12/26 ON AIR)
『冬の夜』 作:深津 篤史

登場人物
1.男
2.女




風の音ライターをつける
つけんといて

火い
けど 真っ暗やんか
ええやん
きれいな
何が
何がって ほら
消して
うん
ライターしまる
台風?
冬に台風はないやろ
そうか
電気いつつくんやろ
なんか 思い出すなあ
何を
いろいろ
やや間 風の音のみ
おい
だしぬけに携帯電話のベル
出たらいや
うん
男は携帯電話を切った
何 思い出すん
(少し笑って)真っ暗やとな 色々うかんでくる
目えつぶった時みたいに
どんな
手え握ったまんま ずっと座ってた時のこと
公園で夜明かしした時のこと
帰りの電車で窓に映った2人のことそれから
写真みたいにな 思い出すねん 一瞬 一瞬
俺は
もうちょっと明るい方がええ
想像してみて
せやから想像してみて 私は
あれ? あれ? おい 今 どこに
女の笑い声
2人  あっ
雷の音
そんなとこにおったんか
見えた
うん 見えた
焼き付いたやろ
(少し笑って)お前 色白いな
ふつうやで
そうか
雷のせいや
かぜひくぞ ヒーター止まってんねんから
大丈夫
窓を開ける音 どっと風が吹き込んでくる
あっ こら
雨降ってへんよ
風の鳴る音 やや間 しばらくして女は窓を閉めた
おい…
ごおお ごおお ごおお
子供か お前
もうすぐ30
だいぶ先やろ
そんなこと ない
うん
電気つかへんかったらええのに
なんで
ついてほしい?
ええと
なんか 夢見がち
男 少し笑った
真っ暗やから?
うん
散歩にいこ
え?
こうやって手 手は?
(探り合う間)そう 手えつないでな
足のばしてみて
足って…
想像して 足がするするって伸びていくねん
どんどん伸びて伸びて 今 信号のとこ
角を曲がって タバコの自販機も真っ暗
コンビニも真っ暗
どこ行くん?
暗いとこ 電気ついても暗いとこ 山とか 森とか
それから
着いてから考える
うん
今 どのへん?
ええと あっ……
目え つぶって
うん 電気消そか
ええねん このまま じっとしてよ もう少しだけそんで
目 覚めるねん うちら ちょっとの間ねてただけ 
夢 みてたんよ  なあ そうしよ
風の音