第91話 (97/12/26 ON AIR) | ||
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『冬の夜』 | 作:深津 篤史 |
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風の音ライターをつける | |
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女 | つけんといて |
男 |
え |
女 | 火い |
男 | けど 真っ暗やんか |
女 | ええやん |
男 | きれいな |
女 | 何が |
男 | 何がって ほら |
女 | 消して |
男 | うん |
ライターしまる | |
女 | 台風? |
男 | 冬に台風はないやろ |
女 | そうか |
男 | 電気いつつくんやろ |
女 | なんか 思い出すなあ |
男 | 何を |
女 | いろいろ |
やや間 風の音のみ | |
男 | おい |
だしぬけに携帯電話のベル | |
女 | 出たらいや |
男 | うん |
男は携帯電話を切った | |
男 | 何 思い出すん |
女 | (少し笑って)真っ暗やとな 色々うかんでくる 目えつぶった時みたいに |
男 | どんな |
女 | 手え握ったまんま ずっと座ってた時のこと 公園で夜明かしした時のこと 帰りの電車で窓に映った2人のことそれから |
男 | 何 |
女 | 写真みたいにな 思い出すねん 一瞬 一瞬 |
男 | 俺は |
女 | 何 |
男 | もうちょっと明るい方がええ |
女 | 想像してみて |
男 | え |
女 | せやから想像してみて 私は |
男 | あれ? あれ? おい 今 どこに |
女の笑い声 | |
2人 | あっ |
雷の音 | |
男 | そんなとこにおったんか |
女 | 見えた |
男 | うん 見えた |
女 | 焼き付いたやろ |
男 | (少し笑って)お前 色白いな |
女 | ふつうやで |
男 | そうか |
女 | 雷のせいや |
男 | かぜひくぞ ヒーター止まってんねんから |
女 | 大丈夫 |
窓を開ける音 どっと風が吹き込んでくる |
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男 | あっ こら |
女 | 雨降ってへんよ |
風の鳴る音 やや間 しばらくして女は窓を閉めた |
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男 | おい… |
女 | ごおお ごおお ごおお |
男 | 子供か お前 |
女 | もうすぐ30 |
男 | だいぶ先やろ |
女 | そんなこと ない |
男 | うん |
女 | 電気つかへんかったらええのに |
男 | なんで |
女 | ついてほしい? |
男 | ええと |
女 | なんか 夢見がち |
男 少し笑った | |
女 | 真っ暗やから? |
男 | うん |
女 | 散歩にいこ |
男 | え? |
女 | こうやって手 手は? (探り合う間)そう 手えつないでな 足のばしてみて |
男 | 足って… |
女 | 想像して 足がするするって伸びていくねん どんどん伸びて伸びて 今 信号のとこ 角を曲がって タバコの自販機も真っ暗 コンビニも真っ暗 |
男 | どこ行くん? |
女 | 暗いとこ 電気ついても暗いとこ 山とか 森とか |
男 | それから |
女 | 着いてから考える |
男 | うん |
女 | 今 どのへん? |
男 | ええと あっ…… |
女 | 目え つぶって |
男 | うん 電気消そか |
女 | ええねん このまま じっとしてよ もう少しだけそんで |
男 | 何 |
女 | 目 覚めるねん うちら ちょっとの間ねてただけ 夢 みてたんよ なあ そうしよ |
風の音 |