第92話(98/01/02 ON AIR)
『ねらえ、恋のラブラブロイヤルストレートフラッシュ!!
ゴーゴーアジンララ』


作:飛鳥 たまき



SE  ボワ~~~ン

健太郎

「?……誰だ、こんなに遅く…」

(ホコリ臭いにおいがして、
マリコの磨く瓶から煙のようなものがでる)

魔法使い

「ごほっ、ごほっ(むせて)……お、おめでと
うございます………ごほ、ごほっ……」

マリコ

「……おめでとう…」

魔法使い

「……………?……???うん?」
マリコ 「…うん?えっ?」
魔法使い 「ん?…………えへん(咳払いして)…ご用は
何でしょうか」
マリコ 「…ご用?」
魔法使い 「……?うーん?…いえ、私をお呼びになった
…ということは……」
マリコ 「呼んだ?あたしが?」
魔法使い 「何か用がおありでございましょう」
マリコ 「………あのねぇ、あたし、用はないし、呼んでもない」
魔法使い 「…オホン。あなた様は…」
マリコ 「マリコ」
魔法使い 「マリコ様は…私の…ほら、そこのコバルトブ
ルーの瓶、その瓶を、きゅっ、きゅっ、と…………」
マリコ 「…これ?」
魔法使い 「そうでございます」
マリコ 「(瓶をとりあげて)暮れの『のみの市』でみ
つけたん。きれいやろ。見たとたん、気に入っ
てん、色も形も。底のところがまるうて、平
とうて、それにこの色…」
魔法使い 「コバルトブルーと言ってください」
マリコ 「ええ色やろ。海の色やねん、これ」
魔法使い 「…ははーん…マリコ様は何もご存じない。…
 …ごほん、おほん。失礼いたしました。私は、
 その瓶、美しいコバルトブルーの瓶に住んで
 いるもので、名前はスユオアジチ・ピ・オサ
 シ・ミセセコマナココ……アジンララと申し
 ます。キュッキュッと瓶をこすってお呼びく
 ださい。いつでも飛び出してご主人様のお手
 伝いをさせていただきます、です。」
マリコ 「……ふーん……なんや知らんけど…魔法使い
やな……あっ、ちょっと待って」
 (マリコ、トランプをくり、占いを始める)
魔法使い 「一人でトランプでございますか」
マリコ 「そう、新しい年のあたしの運、占うとんやないの」
魔法使い 「(のぞきこんで)スペードの7とクラブの7、
で、エースが3枚。フルハースではございま せんか」
マリコ 「……あっ、もうー、黙っといて。ポーカーし
 てんやないからね。あーーー、もう一回や」
(マリコ、トランプをくる)
マリコ 「去年、ろくなことなかってん。大晦日にはサ
イフを落とすわ、クリスマスはすっぽかされるわ…」
魔法使い 「恋人にでございますか」
マリコ 「ええやろ、誰でも、ほっといてんか…
お正月早々こけるわ…」
魔法使い 「あわてものでございますな」
マリコ 「何いうとん。うちはちっとも悪うないんよ。
初詣、すっごい人で、押されて、こけてん…
で、新しい着物どろどろ…」
魔法使い 「私がお供しておればそのような目にはお合わ
せしませんでしたのに」
マリコ 「ツいてないやろう…だから…占ってんの」
魔法使い 「なるほど。アジンララ、やっと、納得いたし
たでございます。…で、ご用は?」
マリコ 「用?」
魔法使い 「ご用がおありでないならば、私としては帰ら
せていただきたいのでございますが…」
マリコ 「……そうや!ワイン、飲もうか」
魔法使い 「はい、マリコ様」
(ワイン、グラスをもってくる)
マリコ 「一緒に飲もう」
魔法使い 「なんと、お優しい」
(お互い、グラスにワインを注ぐ)
マリコ 「1998年、ものすごくええ年になるようにかんぱい!」
魔法使い 「マリコ様に、乾杯!」
(ワインを飲む。
マリコ、再びトランプをくる)
魔法使い 「占いより、私にご用を」
マリコ 「ご用、ご用って、うるさいなぁ。別に用はないもん」
魔法使い 「いいえ、私のほうがトランプより何万倍も役
に立ちますです」
マリコ 「そ?じゃあ、かっこええ恋人、みつけてくれる?」
魔法使い 「もちろんでございます。恋は得意分野でございます」
マリコ 「得意分野?」
魔法使い 「はい、いろいろなお方、何十万人、いや、何
百万人のお方のお手伝いをさせていただきま
したことかー」
マリコ 「おおげさやなー」
魔法使い 「(思い出しながら)愛の告白をご本人のかわ
りにしたこともありますし、ラブレターは数
知れず。夜な夜な、お姫様の所に行かれる方
のお供をして、見張りもやりました…美しい
マダムがお休みになるまで…ふふふ…添い寝
もいたしました…」
マリコ 「へえー…で、どうだったの?」
魔法使い 「(うっとり)みんなうまくいきましたでございます」
マリコ 「ほんまかいな…でも、なんか古いよね。その恋のパターン」
魔法使い 「…あー、マリコ様、あなた様はとってもかわ
いくて、チャーミングであらせられますが、
少し勘違いでございます」
マリコ 「勘違い?」
魔法使い 「私、ざっと…三千年、コバルトブルーの瓶を
住家にしてからでも…千五百年ばかり。生き
て、人にお仕えしておりますが、恋は…恋す
る人の心だけは古いも新しいもございません、
です。告白以前のときめき、恋する喜び……
三千年前も、百年前も、同じでございますです」
マリコ 「ふーーん…だから、あんた、」
魔法使い 「アジンララ」
マリコ 「アジンララもずっと得意分野でやってこれてんだ…」
魔法使い 「いえいえ、まだまだ。私も未熟者でございま
す。夢は歴史に残るような恋の助っ人になることです」
マリコ 「夢?あんた…アジンララみたいな人にでも夢とかあるの?」
魔法使い 「そりゃあ、私にだって、ありますです」
マリコ 「夢なんか魔法で全部かなうんやない?
かなうってわかってるの、夢っていわへんやろ?」
魔法使い 「ところがでございます。そうはいかないんで
ございます。人間という生き物は、いいこと
ばかり望むとはかぎらないものでして。そこ
が、私、いまだ未熟なところでございまして
…つい、恋をとりまとめることばかりに一生
懸命になりまして…お相手をひどく憎んだり、
別れたいとかいう人間もおりまして…失敗す
るのでございます…」
マリコ 「魔法使いいうても、アジンララはドジなんや
……そりゃそうや。きのうはあんなに好きやっ
た思うても、今日は嫌になることあるもんな…」
魔法使い 「そこでございますよ、マリコ様。我々、魔法
族はそこいらははっきりしてますです。いい
魔法、悪い魔法と言う具合に。人間っていう
生き物はそのあたり、好きと嫌い、悪いとい
いがはっきりしませんですし、移り気でござ
いますねえ。」
マリコ 「…なんか、自分、人間をバカにしてない?
そんなん言うてほしないわ。人間って、ええ
でー。恋は、そりゃ、あんた、」
魔法使い 「アジンララ」
マリコ 「アジンララの言うみたいに、かのうてばっか
りおったら、おもしろないやろ?」
魔法使い 「おもしろない?…」
マリコ 「そう。うちのこと好いてくれるか、くれへん
か、わからへんからドキドキするんやないの
魔法使い 「それはそうでございます。大昔からその通り
でございます」
マリコ 「別れたなったり、なんやひどいこと言うたり
しても…ほんでも、うち、人間が好きや。
人間のこと信用しとう」
魔法使い 「(拍手して)マリコ様、私はうれしゅうござ
います。勘違いのご主人様でちょっぴり、がっ
かりしていましたでございますが、なかなか
どうして、私好みのご主人様でございます」
マリコ 「アジンララのタイプ?あんまりうれしゅうないけど」
魔法使い 「私は長い間、人間を観ております。人間はバ
カなこともいっぱいしておりますですが、そ
れほどバカじゃないと、私も信じております です。」
(トランプをくる音)
マリコ 「初めて、意見合うたなー。……あっ、ちょっ
と、ちょっと………見て、見て。ええカード
出たわ。キングにジャックやろ、クイーンに
10、それにエースや」
魔法使い 「ロイヤルストレートでございますよ」
マリコ 「ポーカーちゃう、言うてるやろ。それに、見
てみ、全部ハートや」
魔法使い 「ロイヤルストレートフラッシュでございますよ」
マリコ 「ばんざーい!今年こそ、ええ男出てくるでー」
(マリコひとりで浮かれてる)
魔法使い 「……ふうー、ご用がないようでしたら…
私は初夢の続きを見たいのでございますー」
(ボワッと煙が縮む音。
マリコ一人でトランプ占いをしている)