X'mas Special (97/12/23 ON AIR) | ||
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『恋はいかが?』 | 作:飛鳥 たまき |
(繁華街の中程の小さな公園。真ん中の仕掛け時 計の針はもう少しで午後4時。 植え込みの柵に腰掛けている若者達、ギターを 手に歌う二人組、パントマイムのお兄さん、 ビラをくばる人、手品をする人…… せわしく行き交う車、アーケード街から聞こえ てくるクリスマスソング……) | |
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恋売りの男 | 「…恋はいかがー今日限りのバザールだよー楽し い恋、激しい恋、かわいい恋…よりどりみどり、 あらゆる恋がそろってるよ。なんてたって今日 はイヴイヴ。今ならクリスマスに間に合うよー。 甘い恋、暖かい恋、ロマンチックな恋、お好み のまま。そんな恋は要らない?OK。 そんな人も、もちろん、ご心配なく。なんてたって、 今日はイヴイヴ、特別大バザールだよ。 結ばれない恋、悲しい恋、孤独な恋…… さあさあ、クリスマスがやってくるよー 今日がラストチャンス、イヴイヴ大バザールだよー そこのお嬢さん、いかがですか」 |
女の子 | 「?……」 |
男 | 「そうそう、赤いコートのお嬢さん、恋はいかが ですか」 |
女の子 | 「…いらない」 |
男 | 「お好みはどんな恋?」 |
女の子 | 「どんな恋もいらないわ」 |
男 | 「おや、それは大変だ……うーん、赤いコートの お嬢さんには……星の恋?…」 |
女の子 | 「……星の恋?」 |
男 | 「それとも、モミの木の恋?」 |
女の子 | 「…ふふ…クリスマスだから?」 |
男 | 「うーん…トナカイの恋がいいかなー。首の鈴が なるとねー」 |
女の子 | 「鈴がなると?」 (恋売りの男、片目を閉じて人指し指を小さくふ りながら) |
男 | 「tutututu…そこから先は買ってのお楽しみ…」 |
女の子 | 「……いいの、恋なんか」 |
男 | 「おや、恋なんか?聞き捨てならないねぇ」 |
女の子 | 「ええ、恋なんかいらないわ。あんなもの、なくっ たって生きていけるもの」 |
男 | 「ははーん、まだ、お好みの恋を手に入れたことがない」 |
女の子 | 「(少しむっとして)お好みってなによ」 |
男 | 「ご安心ください。今日はイヴイヴ、ラストバザール。 お嬢さんのお好みの恋、お望みの恋、なんなりと」 |
女の子 | 「私の望み?私の恋?……」 (ざわめき遠のいていく) |
ぼく | 「『あっ、雪』かすかなつぶやき。思わず空を見上げた。 灰色の雪雲から、ゆっくり雪は降りて来る。 ざわめきの中でぼくはつぶやきの主を探す。 たき火色のコートを着た君が、じっと空を見上げていた。」 |
女の子 | 「『雪…』つぶやくと、雪が降ってきた。 空を見上げる男の人の枯葉色のマフラーに、雪 はふんわり舞い降りた」 |
ぼく | 「公園の隅、手品仕掛けの紙のピエロ売り。 『立って!』『座って!』 うすっぺらのピエロは号令のままに立ったり、座ったり。 君はよほど不思議だったんだー瞬きもせずみていたね」 |
ぼく | 「ピエロ、あげよう」 |
女の子 | 「えっ!?私?」 |
ぼく | 「少し早いけど、プレゼント」 |
女の子 | 「ありがとう!」 |
ぼく | 「君の顔がぱーっと輝いた。」 |
女の子 | 「『立って!』『座って!』 何度やっても言うことをきかない手品のピエロ。 公園ではあんなにうまくできたのに…せっかく のプレゼントなのに…」 |
ぼく | 「バイトの行き帰りに横切る公園。知らず知らず、 ぼくは、赤いコートをさがしていた。 『ピエロ、ありがとう!』 突然目の前に黄色いセーターの君がいた。」 |
女の子 | 「予感はあったわ。公園にいけば、いつか、きっと、会えるって。」 |
ぼく | 「待ち合わせは自然に公園の時計台のところ。 ぼくはゆっくり歩きながら、一人で賭けをする。 30秒すると君が飛び出してくる。ハズレた時 はまた30秒。賭けはいつもぼくの勝ち。木も れ日の中で君は大きく手をふっている」 |
女の子 | 「あの人の姿が見えた。私はいそいで物陰にかく れる。そして、1、2、3、…数えていく。 99、100、101、…まだまだ……297、 298、299、そして、300。私は飛び出す。 あの人は全速力でかけてくる」 |
ぼく | 「君は問いの名人。そして、とりとめのない話がお気に入り」 |
女の子 | 「愛に言葉は要らないって?」 |
ぼく | 「そう」 |
女の子 | 「まちがってるわ」 |
ぼく | 「遠い星には言葉のない国だってあるってさ」 |
女の子 | 「だったら、恋人たちはどうやって愛を語るの?」 |
ぼく | 「想いは想いのまま、伝わるんだって」 |
女の子 | 「そんな星、きっと、楽しくない」 |
ぼく | 「そうかなー言葉にしなくても気持ちがわかるっていいと思うな」 |
女の子 | 「よくないわ。言葉のない愛は、きっと、内は空っぽ」 |
女の子 | 「『そんなことないと思うな』そう言って、あの 人は私を抱きよせる。私は、あの人の腕の中で、 それでもつぶやく。言葉のない愛はどうして愛 を告げればいいの? あの人と話すたびに、言葉は私の心に積もっていく」 |
ぼく | 「風が落ち葉を舞上げる。君のコートはたき火の色。
『コートだけじゃないわ。心も燃えてます』 君はいたずらっぽく笑う」 |
女の子 | 「気が付くと公園の木々は燃えるような赤。 やがて冬がやってくる。自然の流れ。その中に あの人も、私もいた」 |
(広場のざわめき) | |
女の子 | 「恋……私の恋……」 |
(時計の針が4時を指す。仕掛けの扉が開いて、 音楽隊の演奏が始まる。広場のざわめきとふし ぎなハーモニー。 『あっ…雪…』 一瞬ざわめきが消える。そしてすぐに再びざわめき) | |
恋売りの男 | 「……イヴイヴ特別バザールだよ。恋はいかがで すか?激しい恋をお望みですか?かわいい恋が いいですか?それとも、とびっきりロマンチッ クな恋?どんな恋でもご用意していますよー。 50億光年の彼方からやってくる星の恋だけは 予約がいります。クリスマスイヴの明日、ツリ ーのてっぺんにお届けします。 さあさあ、まだの人、お急ぎください。今日一 日だけの特別バザールだよ。 あっ、そこの君、そうそう、枯葉色のマフラー の君………思いっきり楽しい恋はいかがですか?」 |
(ジングルベル、人声、…広場はざわめきに包まれる) |