第68話(97/07/18 ON AIR) | ||
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『プロポーズ』 | 作:松田 正隆 |
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…ある日、どこかでの男と女の会話です。
例えばセックスを終えた男女がベッドの上から 天井を見つめつつ何気なくかわす会話かもしれない。 場末の汚れたラブホテルなんかで。 |
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女 |
なあ…。…なあ…。 |
男 |
…。 |
女 |
なあて…。 |
男 |
うん? |
女 |
ねてんの? |
男 |
…うん…。 |
|
…間。 |
男 |
あ、そうや…。 |
女 |
うん? |
男 |
結婚しよう。 |
女 |
うん。 |
男 |
え?…ほんまに? |
女 |
ほんまや。 |
男 |
ええの、オレで。 |
女 |
ええよ。 |
男 |
何で。 |
女 |
何でって。 |
男 |
何で、オレでええのやろか。 |
女 |
何でやろ…。 |
男 |
他の人でもええのとちがう? |
女 |
うん…そうやね…。それもそうやけど…。 じゃ、何であんたは私でええの? |
男 |
うん…何でやろな…。 |
女 |
何や…あんたも言えへんやん。 |
男 |
そうやな…。 |
女 |
別にええやん、…あんたで…。 |
男 |
別にええやんで結婚するんか? |
女 |
うん、しゃあないやろ。あんたかて、私で別にええ ねんから…お互いさまやん。 |
男 |
そういうもんなんか? |
女 |
そういうもんや。 |
男 |
人はそういうふうに結婚するもんなんやろか。 |
女 |
ほな人はどういうふうに結婚するもんなん? |
男 |
えっと、そうやな…。 |
女 |
考えなあかんのやったらええやんもう、結婚しよう。 |
男 |
ちょっとまてや。 |
女 |
もうええやんか、結婚するねんから、私たち…。 |
男 |
ま、そうやけどな…するんやけど…。 …するんやな、ぼくら、結婚。 |
女 |
するんやろ何言うてんの、する、言うたやん。 せえへんのか?ええ? |
男 |
するよ。 |
女 |
何や。怖気づいたんか? |
男 |
何で怖気づくねん。 |
女 |
何べんもそんなこと言うから。 |
男 |
確認してんのやないか。 |
女 |
確認せなあかんほど不確かなんか、私たちの結婚は。 |
男 |
いや、そうやないやろ、確認して、より確かなもんに するんやないか…。 |
女 |
そんなことせんでも確かなもんなんやろ。何べんも ごちゃごちゃ言わんでもええやんか。 |
男 |
じゃあ、ごちゃごちゃ言わなあかんほど、確かなこと ではないんやオレらの結婚は。 |
女 |
そんなことないわ。確かなことやんか。私がいて、 あんたがいて、それだけでええやん…結婚しような。 …ええやろ。 |
男 |
…うん。 |
女 |
ええねんな。 |
男 |
うん…。…確かな、ことか…。 |
女 |
確かなことやん。 |
|
…間。 |
女 |
…結婚したらどうすんのん? |
男 |
え?どうするって…。 |
女 |
生活すんのやろ…子供産んだりして。 |
男 |
そうやなあ…。 |
女 |
私、先に死ぬ思うわ、…あんたより。 |
男 |
何で。 |
女 |
何でやろ、わからへん、そんな気がすんねん。 |
男 |
オレの方が先やろ。 |
女 |
いや私やねん。 |
男 |
え、何で。 |
女 |
そやし理由なんてあらへんねん。…私の方が先にいくような 気がすんねん。 |
男 |
何やそれ。 |
女 |
ええな、あんたは、…長生きして。 |
男 |
ええ? |
女 |
私が死んだら、他の女つくって再婚すんのやろ、いやらしい。 |
男 |
何でやねん、そんなことせえへんわ。 |
女 |
いや、そうやねん。あんたなら、そうするに決まってるわ。 |
男 |
何でや。 |
女 |
また、ワケを聞く。そやから理由なんてない言うてるやろ。 …もう、それは決まってることやねんから…。淋しいわ…。 私…。 |
男 |
お前が勝手に決めてるだけやないか…。 |
女 |
そうや…。勝手や…。私が勝手に決めてんねん。 |
男 |
何やそれ。 |
女 |
私、死んでもどこへも行かへんねん。 |
男 |
…どういうことやねん、それ。 |
女 |
あんたの近くにおる思いますわ…。 |
男 |
近くにおってどうすんねんな…。 |
女 |
見てんの…あんたんことを…。 |
男 |
オレを? |
女 |
ええやろ? |
男 |
ええけど…。オレからはお前が見えへんのやろ。 |
女 |
時々、見えるようにしたるわ。 |
男 |
したるわって…ええわ、そんなん…。 |
女 |
コワイんか? |
男 |
別にこわないわ…。 |
女 |
こわいんやろ。 |
男 |
それで、お前と俺は話でもすんのか? |
女 |
そう、話しすんねん。いろいろと。 |
男 |
そやけど…そんとき…お前は幽霊なんやな…。 |
女 |
こわいんやろ。 |
男 |
こわないって…。 |
女 |
…幽霊になんのは、いややね。 |
男 |
いやか…。 |
女 |
うん。 |
男 |
お前、自分でこわいんやろ…。 |
女 |
うん。 |
男 |
何や、それ。 |
女 |
だって幽霊ってほんまにおるんやで…。 |
男 |
へえ。 |
女 |
おばあちゃんが死んだとき見たような気がすんねん。 |
男 |
見たような気ってどういうことやねん。 |
女 |
障子のかげのとこで、何か、見たんよ…。 |
男 |
…。 |
女 |
おばあちゃんは私を一番可愛がってくれたんよ。 そやし、今でも眼をつぶると、おばあちゃんの 笑っとる顔が見えるんよ。 |
男 |
それが幽霊なんか? |
女 |
…うん…。 |
男 |
何や、それ…。あ、そうや。 |
女 |
え? |
男 |
思い出した。 |
女 |
何を。 |
男 |
何でお前と結婚しよう思うたんか…。 |
女 |
何で? |
男 |
オレな…ここに来るまで…こうしてお前に会うまで… ちょっと考えたんや…。人のいっぱいおるとこ歩きながら…。 この人ごみの中から友だちや恋人を探し出すのんは、ごっつう 大変なことやなあ…て…。 そんなことより、つまり、友情や恋愛なんてしみったれこと、 あーだ、こーだ考えるより、そんなことに区別ない方が ええのんとちゃうかなて思うたんよ。…この人ごみの中の 人々が、みんなお前と同じような顔してたらええのになあ…て…。 な、そうやろ、オレかて、みんなと同じような顔してたら、 オレと結婚すんのも楽やで…。そう思わへん? |
女 |
…何言うてんのかわからへん。 |
男 |
…そうか…。そうやな…。とにかく、まあ…結婚しよう。 |
女 |
うん…。 |
…二人は…だまって、天井を見つめている。 |
|
女 |
…なあ…。なあ…。 |
男 |
…。 |
女 |
…なあて…。 |
男 |
うん? |
女 |
ねたん? |
男 |
…うん…。 |
女 |
ねてんのに答えてんの? |
男 |
そうや…。 |
女 |
何で? |
男 |
何でやろ…知らんわ…。 |
女 |
…ほんまにねてんの?… |
男 |
うん…もうずいぶんまえから眠ってんねん。 |
女 |
じゃ、これはねごとなん? |
男 |
そうやなあ…。ねごとなんやろか…。 |
女 |
ほな…おやすみ…。 |
男 |
おやすみ…。 |
|
…間。 |
女 |
なあ…。 |
男 |
何やねん…。 |
女 |
…。(フフフ…と笑っている) 終 |
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お断り ※一部、尾形亀之助詩集より、参考にしました。 |