第142話 (98/12/18 ON AIR)

『突然エレベーターが止まった』
作:飛鳥 たまき

 

登場人物
男 吉岡修二
女 水島ゆう





(二十一階建のビルの昼下がり。
エレベーターの中には男女二人。
キーーーーンと音がして、急にエレベーターが止まる。
電気が消える)

「キャ!」
「オッ!…」
(ガタンガタンと音。
エレベーター、少し揺れた後止まる
男非常ベルを押す。が、鳴らない)
「あれ…」
「非常ベル…鳴らない…だれか…」
(男、エレベーターの壁をたたいてみる)
「そんなにたたかないで」
(男と女、同時に携帯をとりだし、話始める)
もしもし、水島ですけど…はい…東口のエレベータ
 ー………はい、真っ暗で……いえ、もう一人…
 (男の方を向いて)
「あの、」
「吉岡、十八階のロナウド…株式会社ロナウド…」
十八階のロナウドの人が一人…はい……はい…
もしもし、青岡です。東口のエレベーターです……
いえ、非常ベルも作動しません。……はい、もう一人
 (女の方を向いて)
「水島、十一階の…」
水島さん…女性です…大丈夫です。
(女に「ケガしてないですよね」)大丈夫だそうです。
……あ、そうなんですか、そっちも……どうしましょ
うか
ビル全体?………はい、聞こえてます……はい、ちょっ
と、待って下さい。
あっ、ちょっとすいません…
「あのう、すいません、うちの課長がー代わってくれっ
て…」 (女、電話を男に手渡す)
あっ、はい。……はじめまして。ロナウド、はい、十
八階の…青岡と申します。はい……そうみたいですね。
……はい…はい…こちらこそ…わかりました。代わり
ます」
代わりました。…はい、わかりました。おねがいしま
す……(電話をきる)
すいません、ちょっと、……その、一緒にいる女性の
課長さんって方から電話に出てまして……はい…はい
…そうです。………はい。よろしくお願いします。…
待ってます…(電話をきる)
「大丈夫みたいですよ、『一時間もしたら直るやろ』っ
てうちの部長」
「一時間も」
「呑気なんですよ。まあ、ぼくたちがここにいるってい
うのはわかってるんだから…」
(女、電話がかかってくる)
はい……あーーーみきー。……そう、そうなのよ…
(男に「十二階も消えてるって」)わたし?エレベー
ター……そう。うん、大丈夫は大丈夫だけど……もう
一人…十八階の…男の人……何言ってるの………映画
ならね、そういうことも起きるかもしれないけど……
もう、冗談言うてる場合やないの。…うん………
がんばる……ありがとう……
 (女、電話をきる)
「友達?」
「同僚。課は違うんだけど…」
「…君とよくあってるよね…」
「?そうですか…」
「エレベーターにいつも飛び乗りするやろ」
「飛び乗りって…」
「この間……先週の…ドアに顔はさまれた…」
「ああーっ…」
(遠くからサイレンの響き。ビルの前で止まった様子。
しばらく、沈黙。二人に電話がかかってくる)
はい。……はい。よかったー…
 (男に「工事の車が着いたって」)
はい、そうですか……はい、了解です
 (男、女、電話をきる)
「もうすぐですって」
「よかったーいちじはどうなることかと」
「エレベーターが落ちたらどうしようって思ったでしょ」
「そんなこと…落ちたりしませんよ」
「酸素がなくなったらって思ったでしょ」
「そんなこと…」
「天井開けて脱出しようとか思ったでしょ」
「そんなこと…」
「もし、こういうとき、助けがこなかったら、どうなる
やろ…」
「一晩くらいなら…」
「寒くって凍えるかも…」
「…二人いたら大丈夫やろ…」
「…えっ…」
 (男、電話がかかる)
はい。…あっ、…いや、……ああ、あれね…うん……
………いや……うーーん…そうじゃないけど…こっち
大変やねん、会社のビル停電してて…
(突然電気がつく)
「あっ、電気ついた」
じつは、おれ、今エレベーターの中…そう、閉じ込め
られてる……大丈夫、大丈夫…大丈夫だって…いや、
もう一人………こつん、また電話する…わかった…
 (電話きる)
「…こんなん、まいるよな…」
(同時に電話がかかる)
はい、はい。こっちは電気つきました。………何言
うてるんですか……もう……わかりました。伝えてお
きます。
はい。今つきました。…こえっ?…もう……冗談いわん
とってください、もう……はい。はい。
(二人、電話を切る)