第140話(98/12/04 ON AIR)
『朝礼台の上のロボット』 作:冬乃 モミジ



僕はガラクタを集めた。
家の納戸、学校の倉庫。…お菓子の缶、壊れた自転車の
サドル、空気の抜けたサッカーボール、何かのチューブ、
とにかく色んなものを集めた。そして、巨大なロボット
を作った。小学校4年生の時だ。
素晴らしい出来だった。
僕はそれを、学校の朝礼台の上に置いた。夕焼けの朝礼
台に、やたらと格好良く見えたそいつを、僕はつい、連
て帰りそびれた。
次の日、先生達は何故か、それをそのままにして、始業
式を始めた。
校長先生が、〈これを作ったのは誰か?〉と、全校生徒
に問いかけた。
〈はい、僕です。〉とは言えなかった。
ロボットの出来を褒めようとしていた校長先生は残念が
った。
僕が今、こんなことを職業にしているのは、その時のせ
いだという気がする。
   (男の事務所兼アトリエらしき場所。男が座るテ
    ーブルをはさんで女が図面のようなものを広げ
    て説明をしている)
僕は、企業のビルや、公共施設、公園などに、わけのわ
からないオブジェを作ることを生業(なりわい)にして
いる。作りたいものを作りたいように作って、クライア
ントには、もっともらしいコンセプトをでっち上げる。
「あの、先生。…実は私、前から先生のファンだったん
です。」
僕は想像してみる。近代的なビルの玄関ホールに、錆
(さび)だらけの朝礼台を置いて、その上に間抜けな顔
のロボットを立てるのだ。先生達が、ゾロゾロと自動ド
アの向こうから入ってきて、僕は朝礼台の傍らで、〈こ
れ、僕が作りました〉と言うのだ。校長先生はどんな顔
をするだろう。
「先生?」
!「え?」
「私、図書館の前にある作品が特に好きなんです。円錐
(えんすい)と輪のバランスが妙にかわいらしくて、
あ、すみません。あれ、風で少しずつ動いてるんですよ
ね。人の輪を表現したものだって何かで読みましたけ
ど。」
「まず、…先生はやめてください。」
「あ、…はい。」
「それと、…あれは、投げ輪です。」
「は?」
「僕の育った町の図書館には、子供に開放している部屋
があって、…卓球台とか、マットとか積み木とか、…僕
はそこで投げ輪をするのが好きだったんで、…あれは投
げ輪です。内緒ですけど。」…僕はどうしてこんなこと
を喋っているのだろう。
「そうなんですか?」
「…〈飛翔〉っていうテーマでどうですか?次回までに
ラフあげておきますから。」
「あ、はい。お願いします。…あの、その〈飛翔〉にも
実は、内緒のタイトルがあるんですか?…ってお聞きし
てもいいですか?」
「…絶対内緒ですよ。」
「はい!」
「トンビです。」
「トンビ…私の田舎にも飛んでました。……すごく楽し
みにしています。」
「…ありがとう。…くれぐれも内緒で。」
「はい。」
僕にとって空高く飛ぶ鳥と言えばトンビだ。…その空の
下で、きっと今でもあのロボットが間抜けな顔をして、
朝礼台の上で風に吹かれているのだ。