第35話 (96/11/29 ON AIR)
『まどろみ戦士』 作:腹筋 善之介

かなみ/高校生
進之介/かなみのおじいちゃん


縁側。初冬の昼。廊下を歩いて来るかなみ。 
かなみ    「おじいちゃん、ただいま!… あー、また…。 た・だ・い・ま!!」
おじいちゃん 「…んー… んんっ… (あくび)おあっー…」
かなみ    「おじいちゃん、寒くない?」
おじいちゃん 「おお、かなみ、おかえり。…今日は、ええ天気じゃから、ぽかぽかしとるぞ。こっちに、お座り。」
かなみ    「ん…うん!着がえてから…」
(自分の部屋へ歩いて行くかなみ。)
かなみ    私は制服を脱ぎ、黄色のセーターを着て、縁側に行った。
やはり、おじいちゃんは うとうと と、まどろんでいた。…
おじいちゃんは、なんてのんびりしているんだろう。
毎日、一日中、ボーッとしている。…庭向こうの塀の上には、牛のホルスタインみたいな、白と黒の模様のついたネコが,大きなあくびをしながら、眠っていた。
おじいちゃん 「んー… んー… たみ子、…んんん…。」
かなみ    おじいちゃんの寝言。…たみ子!?…2年前から入院している、おばあちゃんの名前だ。…おじいちゃんの横に座ると、私もなんだか、眠くなり、……うとうと と、してしまった。
(ジャングルのように薄暗い森の中。)
進之介    「かなみ!かなみ!!」
かなみ    「…ん?… んん?(あくび)あー…ん!?… おじい…!?」
かなみ    おじいちゃんではなかった。…いや、白髪を黒い髪に、シワもなくし、年を若くした、おじいちゃんだった。そして私は、森の中に居た。
かなみ    「あの…進之介おじいちゃん?」
進之介    「ああ!…うん?…しまった、感づかれた!!」
かなみ    「え?」
進之介    「あぶない!ふせろっ!!」
かなみ    「ええっ? きゃぁ! 痛い!!」
かなみ    地面に伏せた私の頭上を、何かものすごく大きな動物が飛び越えて行った。
(頭上を飛び越えて行く)ズォォーーーン!!」
かなみ    そいつは、振り向き、白いキバを見せて唸った。
(その動物の低い唸り声)ギャーーーオンンン!!」
かなみ    ネコの怪物だ!!
進之介    「現れよったな、ばけも物め!!はァッーーーッ!!」
(その怪物に向かって行く進之介。激しい、戦い。)
かなみ    それは、本当にすさまじい戦いだった。素早い動きで、攻撃をかわし、怪物ネコとの間合いを詰める進之介おじいちゃん。剣を振り上げて、叫んだ。
進之介    「どけっー!!」
(怪物ネコの低い唸り声)ギャーオォォン!!
かなみ    怪物ネコは、森の中へ消えて行った。私は…私は何が何だか解らず、ボーゼンと地面に座り込んでいた。
進之介    「かなみ、大丈夫か?…ああ、おまえの黄色いセーターが目立ったのか!」
かなみ    そう言って、進之介おじいちゃんは、皮袋から、白い粉を取り出し、私の セーターにふりかけた。すると、みるみると黄色が白い色になった。
そういえば、そこは…その世界は、すべて白黒にしか見えなかった。
進之介    「これでよし。さあ、行くぞ かなみ!」
かなみ    「え?」
(電話の音が聞こえてくる。)
かなみ    私は、縁側に居た。…どれぐらい眠っていたのだろう。隣で、白髪のおじい ちゃんが眠っている。
…変な夢!そう思って、クスッと笑うと、ホルスタイン模様のネコが、 ニャオと鳴いて、塀の上を歩いて行った。
かなみ    「痛っ! あれっ?… 足にアザがある!」
かなみ    それは、あの森の中で、地面に伏せた時出来たアザだった。セーターも、少し色あせて、白くなっていた。…
…私は、おじいちゃんのまどろみの中に入り込んだのかもしれない。
おじいちゃん 「…んん… ムニャムニャ~ たみ子… んん~」
かなみ    いや、きっと入り込んだんだ。そして、おじいちゃんはおばあちゃんに会 おうとしていたんだ。……… おじいちゃんが、ボーッとしはじめたのは、 おばあちゃんが入院してからだもの。
…私は、おじいちゃんをなんだか、カッコイイと思った。
進之介    「行くぞ、かなみ!!」