第36話 (96/12/06 ON AIR) | ||
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『鳥行きのバス』 | 作:水こし 町子 |
女 |
鳥行きというバスに乗った あたりはもう薄暗くて ターミナルから バスは出ていく とてもよく知っている町のような 気もするんだけれど はじめて来た町のような 気もして |
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男 |
昨日の夢を 君は良く覚えているね |
女 |
バスの中のお客は私ひとり バスの窓から見ると 赤やみどり 黄色の ひらひらした羽の鳥たちが 私を気にしながら バスのまわりを飛んでいるの 「あら、きれいね。なんの鳥?」 |
男 |
寝ているのに声を出した? |
女 |
夢を見ていると思えないほどの 夢ってあるのよね 鳥行きのバスなんて 夢でなくて本当はどこかにあったりして アマゾンの奥ふかくに 本当にそんな鳥がいるそうよ |
男 |
君って何でも遊べる人だね おもしろい人だ |
女 |
前に手乗り文鳥を育てたの 鳥にねらわれたり 窓から飛んでいったり しっぽを足で踏んでしまったり そう、しっぽがぬけて 半年もまあるい鳥だった バスケットにいれて 旅行も一緒にしたの 汽車の中でも そう、そう 夏の夜 須磨の海岸に肩にのせて 散歩にいったとき 花火の音におどろいて すくんでしまったり 五月八日の朝 鳥かごを見たら眠っているように 死んでいたんだけれど 八年も生きていたのよ |
男 |
鳥のことを話しているときの 君はうれしそうだ |
女 |
もっと好きな物を言ってもいい? |
男 |
恐竜なんて言わないよね |
女 |
そうその恐竜 ずっと昔 サーカスに面倒見のいい にわとりのお母さんがいました なんだかわからないけれど たまごだからってえ にわとりのおかあさんが 暖めると なんとでてきたのが ステゴザウルスでした でもね にわとりのおかあさんは なめるように可愛がって ステゴザウルスも 「マミー」って 甘えていました |
男 |
すぐに大きくなってしまったんじゃあ ないのかな そのなんとかいう恐竜 |
女 |
そうなの サーカスの親方が あまりの食欲に困って ステゴザウルスを 動物園に売ってしまったの |
男 |
かわいそうに |
女 |
何年もたって 動物園の近くにサーカスが来て 大きな恐竜が 「マミー」「マミー」って にわとりのおかあさんを覚えていて 大きな身体をすりよして 涙の親子の対面をしました |
男 |
すごいね 感動するよ |
女 |
ねえ パンを持って 今度の日曜日 須磨の海岸へいかない? あっという間に 数えきれないほどの鳩が集まって こんなに鳩に私は好かれている うれしくなるんだけれど もう、なにも貰えないと さっさと いなくなる 犬だったら 待ってたら またもらえるかなという 顔をするのにね でも 冬の海は人があまり来なくて 淋しいから わたしたちが行くと きっと鳩たち喜ぶわ |
男 |
君の夢の中の 鳥行きのバスに乗って |