第36話 (96/12/06 ON AIR)
『鳥行きのバス』 作:水こし 町子


鳥行きというバスに乗った
あたりはもう薄暗くて
ターミナルから
バスは出ていく
とてもよく知っている町のような
気もするんだけれど
はじめて来た町のような
気もして
昨日の夢を
君は良く覚えているね
バスの中のお客は私ひとり
バスの窓から見ると
赤やみどり  黄色の
ひらひらした羽の鳥たちが
私を気にしながら
バスのまわりを飛んでいるの
「あら、きれいね。なんの鳥?」
寝ているのに声を出した?
夢を見ていると思えないほどの
夢ってあるのよね
鳥行きのバスなんて
夢でなくて本当はどこかにあったりして
アマゾンの奥ふかくに
本当にそんな鳥がいるそうよ
君って何でも遊べる人だね
おもしろい人だ
前に手乗り文鳥を育てたの
鳥にねらわれたり
窓から飛んでいったり
しっぽを足で踏んでしまったり
そう、しっぽがぬけて
半年もまあるい鳥だった
バスケットにいれて
旅行も一緒にしたの
汽車の中でも
そう、そう
夏の夜  須磨の海岸に肩にのせて
散歩にいったとき
花火の音におどろいて
すくんでしまったり
五月八日の朝
鳥かごを見たら眠っているように
死んでいたんだけれど
八年も生きていたのよ
鳥のことを話しているときの
君はうれしそうだ
もっと好きな物を言ってもいい?
恐竜なんて言わないよね
そうその恐竜  ずっと昔
サーカスに面倒見のいい
にわとりのお母さんがいました
なんだかわからないけれど
たまごだからってえ
にわとりのおかあさんが
暖めると なんとでてきたのが
ステゴザウルスでした
でもね
にわとりのおかあさんは
なめるように可愛がって
ステゴザウルスも
「マミー」って
甘えていました
すぐに大きくなってしまったんじゃあ
ないのかな
そのなんとかいう恐竜
そうなの
サーカスの親方が
あまりの食欲に困って
ステゴザウルスを
動物園に売ってしまったの
かわいそうに
何年もたって
動物園の近くにサーカスが来て
大きな恐竜が
「マミー」「マミー」って
にわとりのおかあさんを覚えていて
大きな身体をすりよして
涙の親子の対面をしました
すごいね
感動するよ
ねえ
パンを持って
今度の日曜日
須磨の海岸へいかない?
あっという間に
数えきれないほどの鳩が集まって
こんなに鳩に私は好かれている
うれしくなるんだけれど
もう、なにも貰えないと
さっさと  いなくなる
犬だったら  待ってたら
またもらえるかなという
顔をするのにね
でも
冬の海は人があまり来なくて
淋しいから
わたしたちが行くと
きっと鳩たち喜ぶわ
君の夢の中の
鳥行きのバスに乗って