第13話 (96/06/28 ON AIR) | ||
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『家出』 | 作:松田 正隆 |
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都市近郊の小学校。放課後の教室。 ひとりの大学生風の男が、片隅にすわっている。 いそいで、廊下をかけて来た女が教室のドアをあける。 |
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先生 | 「あ、どうも。」 |
兄 | 「あ。」(と、立ち上がる) |
先生 | 「担任の吉沢です。」 |
兄 | 「間宮です。…あの…妹が…お世話になって…」 |
先生 | 「いいえ、どうぞ…おかけ下さい。」 |
兄 | 「はい。」(と、すわる) |
先生 | 「お待ちになったでしょう。」(と、すわる) |
兄 | 「いえ。」 |
先生 | 「さっき、学校に連絡入れたら、お兄さんがみえてるって聞いて。」 |
兄 | 「そうですか。…何だか、妹が迷惑かけちゃった みたいで…。」 |
先生 | 「私の不注意でこんなことになってしまって。」 |
兄 | 「でも、急にいなくなったんでしょう。仕方ないですよ。 …。何か、あったんでしょうか。学校で。」 |
先生 | 「いや…、それがわからないんです。朝のホームルームの ときは元気な様子だったし…。」 |
兄 | 「そうですか…。…じゃ、今も、さがしに行って来られた んですか?」 |
先生 | 「ええ、このへんだけでもと思いまして…」 |
兄 | 「そうですか…。すいません、本当に…。」 |
先生 | 「それで、明子さんは…」 |
兄 | 「はい?」 |
先生 | 「見つかったんですよね?」 |
兄 | 「え、そうなんですか?」 |
先生 | 「え?…じゃ、会ってないんですか?明子さんと」」 |
兄 | 「ええ、…」 |
先生 | 「え?あ、そうなんですか?…てっきり、私、お兄さんが見えてるって 聞いて、居場所がわかったんだと…。」 |
兄 | 「あ、すいません。」 |
先生 | 「あ、いえ、そんな、私もちゃんと確かめなかったから…。」 |
兄 | 「大学の寮に電話があって、直接こちらに来たものですから…」 |
先生 | 「そうですよね。」 |
… 間。 |
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兄 | 「…私があとは、探します。」 |
先生 | 「いえ、…私にも責任があるんです。学校でお預かりしてるんですから。」 |
兄 | 「…はあ…」 |
先生 | 「3時間目の終わりなんです…。クラスの生徒たちが、 間宮さんがいないって知らせに来て、学校中さがしたん ですけど、どこにもいなくって…。」 |
兄 | 「そうですか…」 |
先生 | 「そんな、何にも言わずに出ていっちゃう生徒じゃないし、ただ…、 今年の春に、お母さんが亡くなられて、ご親戚の家に預けられる事に なったっていうことは聞いてたから、その事がやっぱりあって…。 明子さん…、ほら、いつもおしゃべりで元気があるから…。 どっかで無理してたのかな…。 それで、こんなことしたのかも…。 やっぱり、お母さんのことがあるんでしょうか…。」 |
兄 | 「はあ…。それは、ちよっとは、あるかも知れませんね。 しかし、私たちも、覚悟はしてたことだったから…。」 |
先生 | 「覚悟って…、まだ、六年生ですよ。」 |
兄 | 「もう、六年生ですよ…。」 |
… 間 |
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兄 | 「そういえば…。この前、久々に明子とあったら、先生の話をして ました。…吉沢先生と百葉箱をそうじしたって…。」 |
先生 | 「ああ、そうですか…。間宮さん…美化委員だから…。」 |
兄 | 「…明子、…先生のこと好きみたいですよ」 |
先生 | 「え?…ああ…そうですか…。」 |
… キーン コーン カーン コーン と、下校のチャイムが鳴る。 |
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先生 | 「本当、どこ行っちゃったのかしら…」 |
… 間。 |
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兄 | 「明子は、電車に乗ってるんだと思うんです。」 |
先生 | 「電車に?」 |
兄 | 「ええ。」 |
先生 | 「…。」 |
兄 | 「去年の夏だったか、母が、まだ、生きてた頃、病院の屋上で 私たちに話をしたことがあるんです。 母が、まだ、小学校の六年生だったときに、電車に乗って 一日中、街を走りまわったことがあるって…。 みんなが学校に行ってるときに、自分だけそんなことを してるのが、とても新鮮で、窓の外の街の風景がとても まぶしかったって…。それが、母にとっての最初の 家出だったそうです。」 |
先生 | 「…明子さん、それを聞いたから…。」 |
兄 | 「でも…。真剣に聞いてたかどうか分かりませんよ。」 |
… 夕暮れの街の雑踏が聞こえてくる。 |
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兄 | 「ただ、ときどき妹の顔に母の面影がよぎるとき、 母がながい、ながい、家出から戻ってきたような、 そんな気がすることがあるんてす。」 |
… 夕暮れの教室。…遠くで、街を周回する電車の音。 |