第229話 (2000/08/18 ON AIR)
『チョウセンスズガエル』

  

作:腹筋善之介

(アクアテラリウムの中。コオロギの声がよく聞こえる。)

なあ、自分俺のこと好きなん?

……

どうなんよ?

わからへん。

マジ?……きつー!(コオロギの声がいっそう大きくなる)
…今頃そんなん言うなや。わからへん?どういうことやねん。
信じられへんわ。どうすんねん?え!これから!

……

なんか言えや!

何で逆ギレされなあかんのよっ!しゃーないでしょ、わかれ
へんねんから。

…いや、キレてる訳じゃないねんけど…

非常識やわ。今この状態でそんなこと聞くなんて!最低!
もう、あっち行って!

あっち行ってって、それこそ非常識やろ。どうやっていくねん?
飛び出せって言うんか?

そうや、また、出ていったらいいねん。

アホっ!この間出て行ったらえらい目に遇うたわっ!

フフンッ(と、鼻で笑う)!えらい乾燥して帰ってきたもんね。
びっくりしたわ。

自分なあ、人ごとや思って笑うなや。自分かて、飛び出たら
わかるわ。

自分自分、言いなや。

しゃーないやろ、名前ついてないねんから。

あっ、来たっ!子供も来た。

子供3人もおるのに、よう俺ら飼う気になったな、ほんま。
ちゃんと世話してくれるんかいな?

子供に、喜んでもらおうって魂胆でしょ。フフッ、ほら子供、
私達観て喜んでるわっ。

でっかい顔して、ふん!観んなっ!こっち、観るなやっ!くそっ!

何怒ってるのよっ。

見せもんにされて、誰がいい気すんねん。

そやな。

餌入れても、観てる前では、食べませんっ!おっ、コオロギ2匹
入れよったか。

あっ!いただきっ!(むしゃむしゃ)

自分、節操ないな、ほんま。子供、びっくりしとるやないか。
見せもんになってるやん。

もう一匹、いただきっ!

ちょう待て、それ、俺の、あっ!……

(ムシャムシャ)グズグズしてるからでしょ!早い者勝ちっ!

(溜息)

ねえ、子供が私達の名前付けてるわっ!えーっと、私が、ぴょんで、
あんたが、スズ子だって。あはははっ!

ちょう、待てよ!俺は男!オスなのっ!オス!ちょう待てっ!

あんたが、私よりだいぶ小さいから、メスや、思ったんとちがう。

俺は、オスやっ!ほら、この親指の所の出っ張り観てくれ!ほらこれっ!

聞こえてへんわ。

観てくれーっ!ああっ、行くなっ。ちょう待てよ、もっとよう考えてくれよっ!

あーあ、行っちゃった。

最悪や。何で、俺がスズ子やねん。ああー、もう最悪っ!最悪最悪!
(コオロギの声が、大きくなる。)

ねえ。

……。最悪や。

ねえってば。

なんやねん。

ほら、そこの虫かご。観てごらんよ。

ん?

虫かご。

ああ。

あのコオロギ、全部私達に食べられるために飼われてるねんで。

あんな養殖コオロギ、美味しないわっ。

そうやなくて、最悪なんは、あっちやろ。食べられるために飼われるのと、
鑑賞のために飼われるのとどっちが最悪なんよ?

ああ、わかってる。はいはい、ぴょんさん。

もうっ!

……

……
(コオロギ達の声)

ねえ。

何?

何でさっき、好きかって聞いたん?

なんでも。

何で?

何でよ?

俺らな、

うん

あと何年か生きるわけやん。

うん。

ほんで、あいつら

あいつらって?

3人子連れのファミリー!

ああ。

あいつらって、俺ら今年で死ぬと思ってるやん。

うん。そやね。

つまり、餌、何年間か、要るわけやん。

うん。

あいつら、大変やろ!餌の飼育で。

まあね。で、それが好きかどうかに関係あんの?

いや、つまり、この夏では、くたばらんやろ、俺ら。

そんなんわからんワ。いつ死ぬか、誰にもわからんやん。

まあ、聞けや。秋になっても俺ら生きてて、そして冬になったら、冬眠するやろ。

うん。

ほんで春になったら、産卵期がくるわけや。

はあ?

産卵やで。

ああ!

結構、好きかどうか、重要やと思わへんか?

まあ、そうやね。

いや、別に嫌いでもええねんけどな。…ただ。

ただ?

産卵成功したら、あいつらめちゃくちゃびっくりするやろなあーって、思って。

フン。(鼻で笑う)

餌、めちゃくちゃ要るやん!あいつらどないすんのかなーと思って。ハハハッ!…
いや、それだけやねん。……しょうもないな、すまん。

ふんふん、…、…好きやで、…、スズ子のこと。

ほんまかっ!やっひょうー!
(アクアテラリウムの中で大喜びする、チョウセンスズガエルのオス)