第38話 (96/12/20 ON AIR)
『シンパシイ』 作:み群 杏子

ね、確か今日だよね、二人が新婚旅行から帰ってくるの。
そうでしょ。あっこちゃんが昨日、そんなこと言ってたもん。
あなた、二人に早く帰って来てほしいの?
そりゃ、決まっているじゃないか。だってあっこちゃんの作るご飯ったら、
いつも同じなんだぜ。
だってしかたないわよ。あっこちゃんはただ、二人が残してくれたレシピ
通りに、私たちのご飯を作りにきてくれるだけだもの。
あっこちゃんてさ、コースケの何? 美人だね。
妹よ。ちょっとあなた、私のコースケを呼び捨てにしないでよ。
じゃ、どう言えばいいのさ。
コースケさん。 私だって、あなたのレイコさんには、敬意を表して、
レイコさんて呼ぶわよ。
あーあ、これからのこと考えると気が重いよ。俺、生まれてからずーっと、
レイコと二人で気楽に暮らしてきたんだぜ。
私だってそうよ。 私だって、コースケと二人だったのよ。
お風呂だって二人で入って、寝るときだって、いつも一緒だったんだから。
私、コースケの足の間で眠るのが大好きだったのよ。
それなのにレイコのやつったら!

レイコさんって呼ぶって言ったろ。やきもちはみっともないぜ。
ご飯だっていつも、食べやすいようにコースケが口の中で噛み砕いてから
私に食べさせてくれたのよ。
ちぇ、過保護だよなあ。 レイコと俺の関係はもっとクールだぜ。
レイコは俺のこと、ホーロー者って呼ぶんだ。かっこいいだろ。
俺、しょっちゅう出歩いてるからさ。
出歩いているって、どこ行くの?
いろいろさ。君、一度もホーローしたことないの?
ないわ。 だって、コースケは、絶対に家から出してくれないのよ。
じゃ、今度連れてってやるよ。
本当!?
ああ。ここならいつでも抜け出せるしね。もう見つけてあるんだ、抜け穴。
すごい!新築の家でも抜け穴ってあるんだ。
ああ。ここならいつでも抜け出せるしね。
すごい!新築の家でも抜け穴ってあるんだ。
きっと、レイコがコースケさんに内緒で作ったんだ。俺のために。
大工さんにこっそり頼んでさ。
人間って、どうして結婚式なんてあげるのかしら。ふしぎ…。
すっげえごちそうが出るんだぜ。君も貰ったろ。残り物。
あっこちゃんが持ってきてくれた、あのお頭付きのタイ?
うん。
でも、タイって、おいしくない。私はサンマの方が好き。
俺も。
私たちって、食べ物の好みだけは合うみたいね。
ああ。
考えたら、私たち、振られた者どうしなのね。あなたはレイコさんに、
私はコースケに。
ちょっと、オーバーじゃないか。
私、あなたに、シンパシイを感じるわ。
シンパシイ?
コースケが言っていた言葉。二人の人間が、ある種の哀しみをわかち
あうことですって。
人間じゃないだろ俺たち。でも、その、シンパシイってさ、ひょっとして、
愛に変わることってない?
君って、結構、魅力的だね。
(おもわせぶりな甘え声を発したのち)
…あ、足音がする… 帰ってきたわ!
もー、いいところだったのにぃ。ま、いいか、続きはまたこの次にしてと。
では、ご主人様のお出迎えといきますか。
二人 「ニャオーーーン」