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第223話 (2000/07/07 ON AIR) | ||
『ビターカフェ』
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作:花田 明子 |
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大通りに面したコンビニ前。タバコの自販機にお金を入れる高岡。 |
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石川 |
うーっす。 |
高岡 |
ああ。 |
石川 |
珍しい。 |
高岡 |
何が。 |
石川 |
時間通りじゃん。 |
高岡 |
なーに言ってるんだ。俺はいつも時間通りだよ。 |
石川 |
よく言うよ。 |
高岡 |
いやいや。 |
石川 |
いつから? |
高岡 |
何が。 |
石川 |
禁煙、やめたの? |
高岡 |
あーあ。いや、実は会社ではまだ禁煙をしているということになっ |
石川 |
相変わらずだなあ。 |
高岡 |
何が。 |
石川 |
禁煙は人のためにしてるんじゃないんだから。 |
高岡 |
もちろんさ。 |
石川 |
だったら会社の人が見てないところでもやらなきゃ、 |
高岡 |
気持ちはね、もちろん。でも実は会社でもこっそり屋上で吸ってる。 |
石川 |
ああ、そうですか。そうですか。 |
高岡 |
何、喰う? |
石川 |
え? |
高岡 |
何か喰うだろ? |
石川 |
ああ、そだね。 |
高岡 |
じゃあ、この先のうどん屋。 |
石川 |
あ、いやそこは…。 |
高岡 |
うどんは嫌か?あそこ、うまいぞ。ちょっと変に元気なお兄ちゃん |
石川 |
うんと、でも…。 |
高岡 |
値段も手ごろだしさ。 |
石川 |
いや実は私今あそこでバイトしてるんだよ。 |
高岡 |
うそ。 |
石川 |
うん。 |
高岡 |
あそこ、確か河合さんも前にバイトしてたんだよ。 |
石川 |
え? |
高岡 |
知ってるだろ?河合さん。クラブの先輩だよ。 |
石川 |
うん…。 |
高岡 |
学生のころ、お金ないとき、よく河合さんのおごりで喰ったなあ。 |
石川 |
高岡さんらしいね。 |
高岡 |
いや河合さんていい人でさあ。お前、金ないんだろ?だったらいい |
石川 |
何か河合さんなら言いそう。 |
高岡 |
みんなしょっちゅう河合さんのおごりで喰ってたよ。 |
石川 |
へーえ。 |
高岡 |
もう10年近くになるけど。 |
石川 |
やっぱり他の店。 |
高岡 |
え? |
石川 |
何となく。 |
高岡 |
…。 |
石川 |
何となく、あそこはあれだから。 |
高岡 |
…まあいいけど。 |
二人、歩き出した。 | |
高岡 |
でもこの辺てあんまり店ないからなあ。 |
石川 |
いいよ、どこでも。 |
高岡 |
よし、じゃあちょっと言ったところに喫茶店があるんだが。そこで |
石川 |
うん。じゃあそこ。 |
高岡 |
よし、「サバンナ」な。 |
石川 |
え?「サバンナ」? |
高岡 |
うん。あ、知ってる? |
石川 |
うん。だってうちのすぐ近くだもん。 |
高岡 |
ああ、そっか。 |
石川 |
うん。 |
高岡 |
確か河合さんも近いんだよな。 |
石川 |
うん、半年くらい前かな、引っ越してきたの。 |
高岡 |
あ、そうか。 |
石川 |
うん。 |
高岡 |
じゃあ河合さんも呼んじゃうか。日曜だし。 |
石川 |
いや、 |
高岡 |
何で。お前あんまり会ってないだろ?河合さん。 |
石川 |
そんなこともないよ。 |
高岡 |
え、そうなの? |
石川 |
うん。 |
高岡 |
え、会ったりすることあるの? |
石川 |
うん、まあ…。 |
高岡 |
ああ、近所だしあれか。偶然会うわな、そりゃあ。 |
石川 |
…。 |
二人、「サバンナ」に着いた。 「カラン、カラン、カラン」 |
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サバンナのママ | あ、いらっしゃい。 |
石川 |
はい。 |
高岡 |
…。 |
石川 |
ええまあ。 |
二人、座った。 | |
石川 |
コーヒー。 |
高岡 |
(小声で)…俺も。 |
ママ | え? |
石川 |
ホット二つ。 |
ママ | はい。 |
ママ、去る。 | |
高岡 |
河合さんとよく来るの、ここ。 |
石川 |
うん…よくってほどじゃないけど、まあ。 |
高岡 |
ふうん。 |
ちょっとの間 | |
石川 |
さっきのうどん屋さんもね。河合さんがバイト紹介してくれたんだよ。 |
高岡 |
そっか…。 |
石川 |
うん…。 |
高岡 |
そっか…。 |
石川 |
うん。 |
高岡 |
石川、話って河合さんがらみか? |
石川 |
うん…。 |
高岡 |
そっか。 |
石川 |
何かね、河合さんいい人なんだよ。 |
高岡 |
知ってるよ、河合さんがいい人だってことは。 |
石川 |
何にも聞かない何にも言わないんだよ。 |
高岡 |
…ふうん。 |
石川 |
でもね。いつ電話しても機嫌よく話してくれるんだよ。 |
高岡 |
回りくどいなあ。何なの?石川。 |
石川 |
前にさ、酔っぱらった話したことあったでしょ? |
高岡 |
酔っぱらった話? |
石川 |
覚えてない? |
高岡 |
どんな話だったっけ? |
石川 |
友達と。帰り道。私、今までなったことないくらい酔っぱらっちゃって。 |
高岡 |
ああ、自転車に乗れなくて大変だったって話? |
石川 |
その時ね。一緒に私の横で自転車引いてくれたの、河合さんなんだよ。 |
高岡 |
…へえ。 |
石川 |
そのとき一緒に月を見たんだ。 |
高岡 |
月? |
石川 |
私、覚えてないけどそのとき、河合さんと見た月を一生忘れないって言 |
高岡 |
それ、そんな話だったっけ? |
石川 |
高岡さんには月の話はしなかった。 |
高岡 |
…。 |
石川 |
何かね、そういうことだなって気が突然したんだ。 |
高岡 |
そういうこと? |
石川 |
河合さんとは同じ月を見られる。けど高岡さんとはそうじゃないんだよ。 |
高岡 |
何それ。石川酔ってるの? |
石川 |
酔ってないよ。何かねそうだったんだなって気が付いたんだよ。 |
高岡 |
…。 |
石川 |
だからね。なんかよく分からないことはやめようと思って。 |
高岡 |
…それってそういうこと? |
石川 |
うん。 |
高岡 |
河合さんと付き合ってるの? |
石川 |
付き合ってないよ。 |
高岡 |
ふうん。 |
石川 |
ほら。 |
高岡 |
何? |
石川 |
「ふうん。」「さあ。」「へえ。」高岡さんの返事はいつもどこか遠い。 |
高岡 |
そんなことないよ。 |
石川 |
ううん、そう。 |
高岡 |
…癖なんだよ。 |
石川 |
知ってる。 |
高岡 |
35年そうだったから、多分変えられないんだよ。 |
石川 |
うん。 |
高岡 |
なあ。 |
石川 |
ん? |
高岡 |
何か言いたいんだけど何を言えばいいのかよく分からんよ。 |
石川 |
うん。 |
高岡 |
こういうとき男気のある奴なら何かすごいこと言ったり、バカにすんな |
石川 |
そうなると高岡さんらしくはないなあ。 |
高岡 |
ひどいこと言うなあ、石川。 |
石川 |
だってそうじゃない。 |
高岡 |
うん…。 |
と、コーヒーを持ってママがやってきた。 | |
ママ | お待たせしました。 |
ママ、コーヒーを二つ置いて、去る。 | |
高岡 |
(コーヒーを一口すすって)あ。本。 |
石川 |
え? |
高岡 |
お前に本を借りてたろう? |
石川 |
ああ、いいよ。 |
高岡 |
いや。 |
石川 |
高岡さんにあげるよ。 |
高岡 |
そうか。 |
石川 |
うん。 |
高岡 |
返すついでに今日、うちに来るか? |
石川 |
…もうだめだよ。 |
高岡 |
そうだな…。 |
石川 |
うん。 |
高岡 |
ジョークだよ。 |
石川 |
うん。 |
高岡 |
なあ、石川。 |
石川 |
はい。 |
高岡 |
今日のコーヒーは何かやけに苦い気がするぞ。…苦いなあ。 |
石川 |
…はい。 |
おしまい |
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