| 第212話 (2000/04/21 ON AIR) | ||
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| 『春の宴』
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作:深津 篤史 | |
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街のざわめき |
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| 女 | 父さんやっぱり遅れるって。 |
| 男 | うん。 |
| 女 | 予約12時だったよね。 |
| 男 | まあ、30分くらいだったら |
| 女 | 30分か |
| 男 | 今どこだって |
| 女 | ええとねえ |
| 男 | 駅ついてんの? |
| 女 | どうしよ |
| 男 | え、何? |
| 女 | 先、食べちゃおっか。 |
| 男 | 何いってんだよ |
| 女 | だって |
| 男 | 今日はその、あいさつだろ。俺ら2人でメシ食ってどーすんだよ。 |
| 女 | うん |
| 男 | 結納とか、そういうカタくるしいのはなしにして、とりあえず食事でもくって、だから、今日は君のお父さんがメインなわけでしょ。 |
| 女 | そんなにポンポンいわないでよお |
| 男 | あ、ごめん |
| 女 | うちのお父さんってね、ついてない人なの |
| 男 | え、何 |
| 女 | ここ一番って時に失敗する人なの |
| 男 | 何の話? |
| 女 | でもお父さんのせいじゃないのよ |
| 男 | 何? |
| 女 | 今朝はね、おフロがこわれちゃったんだって |
| 男 | フロがどうしたの |
| 女 | 父さん、ここんとこ仕事忙しくって2日くらいおフロ入ってなくて |
| 男 | それで |
| 女 | 近所のおフロ屋さんが朝ブロやってるからってそこに行ってね。 |
| 男 | うん |
| 女 | おじいちゃんと2人っきりだったんだって |
| 男 | うん |
| 女 | 息子さん、最近交通事故でなくされてね |
| 男 | 知りあい? |
| 女 | ううん、全然知らない人。でも、話しかけられたらムゲにするわけにもいかないでしょ |
| 男 | まあ、そうだよな |
| 女 | でも、まだ間に合う時間だったのよ、新幹線にのったら |
| 男 | 新幹線のってんの |
| 女 | だって早いでしょ |
| 男 | そりゃまあ、そうだけど |
| 女 | ここからは父さんが悪いんだけど |
| 男 | 何、何 |
| 女 | こだまのつもりがひかりにのったんだって |
| 男 | え |
| 女 | 止まんない、止まんない |
| 男 | って、どこにいるの? |
| 女 | んなにポンポン言わないでよお |
| 男 | いや、ごめん。 |
| 女 | て、あわてて、ひきかえしてね |
| 男 | ああ、良かった |
| 女 | そしたらね |
| 男 | まだあんの? |
| 女 | こっちにはついたのよ、ここから先は父さん悪くないのよ、地下鉄がね |
| 男 | 地下鉄が |
| 女 | 何か、事故で動かないって |
| 男 | で |
| 女 | タクシーでこっちくるって、さっき電話で |
| 男 | じゃあ、向かってんだ |
| 女 | うん |
| 男 | 良かった |
| 女 | ごめんね。 |
| 男 | いや、いいって |
ケータイ電話の音 |
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| 女 | …もしもし、あ、お父さん、今どこ。え、何、…どこだろう?聞きにいってる?誰が?運転手さん?…そうなの。うん。それは性がないよねえ うん、うん。私だって 春だもんねえ しようがないねえ …うん、まってるから、じゃあね |
| 男 | 一体何がおこってんの? |
| 女 | ええとね |
| 男 | 春だからどうしたの |
| 女 | 運転手さん、道わかんないんだって |
| 男 | え、だってここ誰でも知ってる… |
| 女 | タクシーのりはじめて一週間なんだって |
| 男 | は? |
| 女 | 最初にちゃんとわからないって断られたんだけど |
| 男 | じゃあ、別のにすればいいじゃん |
| 女 | だって、だってね。今日はめでたい席だからカタイことはいわないでって、ゆっくり急いでいってくれって |
| 男 | 何だそれ |
| 女 | 君もこれからだ。うちの娘もこれからって、だからおいわいの席だから…ごめん |
| 男 | 春か |
| 女 | うん |
| 男 | 春だもんなあ。 |
了 |
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