- ロマンチックな冬を思わせる音楽がなっている。
- るみ子
- その日、約束は舞い降りた。
- 音楽、高まる!イメージとしての雄一が現れる。
- 雄一
- るみ子。あの日の約束を、覚えているか・・・?
- るみ子
- 覚えているわ、雄一・・・!ああ、今年初めての雪・・・。
- るみ子のオフィス。お昼時、休憩室でランチ中のるみ子。
塩屋先輩(女)がやってくる。
- 塩屋先輩
- 隣いいかな?
- るみ子
- どうぞ。
- 塩屋先輩
- 昼ごはん、サラダだけ?
- るみ子
- 食欲がなくて・・・。(溜息)
- 塩屋先輩
- 聞くよ?
- るみ子
- (すぐ)実は昨日、メッセージが届いたんです、元カレから。
フェイスブックで。あの日の約束を、覚えているかって。
- 塩屋先輩
- 約束?
- るみ子
- ええ・・・。
- 塩屋先輩
- ・・・もし言いたかったら、
- るみ子
- (すぐ)言いますね。多分あのことだと思うんです。私と彼、約束したんです。
「お互い30になっても独身だったら、結婚しようね。」って。
- るみ子の脳内に結婚をイメージさせる音楽
(結婚行進曲とか、木村カエラの「バタフライ」とか)が流れる。
- るみ子
- あー、私、結婚しちゃうのかなー。雄一と結婚しちゃうのかなー!!
- 塩屋先輩
- 落ち着きなよ。
- るみ子
- だってこんなことあります?別れて10年、ずっと連絡なかったんですよ。なのに・・・!
あ、私たち、再会の日も決めてあったんです。それが今年の、クリスマス・・・。
- 塩屋先輩
- もうすぐじゃん。
- るみ子
- そうなの。
- 塩屋先輩
- よかったね。わかるよ、忘れられない人って。あたしにもいるから・・・。
- るみ子
- いえ、忘れてはいたんです、完全に。
- 塩屋先輩
- えっ?・・・どんな人だったの?
- るみ子
- これから思い出します。
- 塩屋先輩
- 好きだったんだよね?
- るみ子
- たぶん・・・。
- 塩屋先輩
- るみ子、やめとけ。
- るみ子
- でも、もう30だし。私、この波に乗ります!
- 元町にあるバー・グレートバリアリーフ。雄一が一人で飲んでいる。
カランカラン、とドアの開く音がして、水野先輩(男)が入ってくる。
- バーテン
- いらっしゃいませ。
- 水野先輩
- 席、空いてる?
- バーテン
- ガラガラです。どうぞ。
- 雄一
- 水野先輩。
- 水野先輩
- おや、雄一選手じゃないか。隣、いいか?
- 雄一
- もちろん。
- 水野先輩
- どうした。酔ってるな。
- 雄一
- なんでもばれちゃいますね、先輩には。魔法使いかよ。
- 水野先輩
- 魔法使いだよ。
- バーテン
- はっはっはっは。何になさいます?
- 水野先輩
- ギムレット。軽く仕上げてくれ。
- バーテン
- かしこまりました。
- 水野先輩
- どうしたんだ。我が営業部のエースが。
- バーテンダーのシェーカーを振る音が聞こえてくる。
- 雄一
- 実は、ずっと愛している女性がいるんです。もう何年も前に別れたんですが・・・。
(後半、シェーカーの音で聞こえない)
- 水野先輩
- マスター!ちょい小さめで。
- バーテン
- かしこまりました。
- 水野先輩
- 男は引きずる生き物だ。かく言う俺も・・・。
- バーテン
- 乗ってた船が転覆して、生き別れになった彼女ですね。今どき。
- 雄一
- プロポーズしようと思ってるんです。
- 水野先輩
- プロポーズ?
- バーテン
- そんな!
- 雄一
- これ、見てもらえますか?
- 雄一、小箱を取り出し、開ける。キラキラという音が溢れ出てくる。
- 水野先輩
- 指輪・・・!
- 雄一
- クリスマスに、これを彼女に。
- バーテン
- 雄一・・・!
- 水野先輩
- マスター、何なの??
- 夜の三宮。るみ子が歩いている。
- るみ子
- 思い出そう。雄一との出会い・・・。たしか、大学の、同じクラスで・・・。
- るみ子の脳内。大学時代。(るみ子、雄一18才)
- るみ子
- となり、いいですか?
- 雄一
- OK牧場!どうも、面白い人でーす!!イェイイェイ!
- 脳内再生、終わり。
- るみ子
- うわ、激つまんない奴!!てか、そもそも、なんで付き合うことになったんだっけ・・・?
- 再び大学時代。雄一がるみ子に告白中。
- 雄一
- 俺こないだ、文学部の時田さんに振られたんだよね。その傷、君が癒してくれないかな。
- るみ子
- えっ、どうして私が?
- 雄一
- 君なら、俺に尽くしてくれるんじゃないかなって。
- るみ子
- (なぜかうっとりして)私が?うん、いいよ・・・。
- 脳内再生、終わり。
- るみ子
- バカ!あたしがバカ!てか超失礼じゃん雄一!!デートとかってしたんだっけ・・・?
- 再び18歳。
- るみ子
- すっごいね!ユニバのハロウィン!
- 雄一
- ケケ。ハロウィンで浮かれて、おめでたい奴。
- るみ子
- いいじゃん別に。
- 雄一
- オメー、太宰でも読めよ。かしこくなるぜ。
- 脳内回想、終わり。
- るみ子
- ダメだ、いいところが見つからない・・・!
- 塩屋先輩、現れる。
- 塩屋先輩
- そら見たことか。
- るみ子
- 塩屋先輩!
- 塩屋先輩
- 考え直しなよ。
- るみ子
- ほっといてください!きっと思い出してないだけで、雄一にもいいところはあったはず!
- 塩屋先輩
- 無理するな。
- るみ子
- してない!雄一は私の、運命の人なんです!
- 塩屋先輩
- はあ??
- るみ子
- きっと前前前世から探していたんです!
- 塩屋先輩
- 絶対違うから!あたし知ってる。運命の相手ってのは、絶対忘れられない。
その人のことだけだよ、ずっと。
- るみ子
- 何ですか、自慢ですか。
- 塩屋先輩
- 違う。あたしはあんたに不幸になってほしくなくて、
- るみ子
- 運命の恋なんて、誰もができるわけじゃないんだよ!
- 塩屋先輩
- あんた結婚したいだけでしょ!
- るみ子
- それが何か?
- 塩屋先輩
- 相手をよく見て!
- るみ子
- そんなの見てたら結婚できないでしょ!結婚と結婚するつもりでいかなきゃ!!
そして、クリスマス当日!
- 三宮の国際会館前。すごい人混み。
るみ子、走ってやってくる。
- るみ子
- よし、時間ぴったり。
まさか、こんな時に生き別れのお父さんと会うとは思わなかったけど、
適当に切り上げてこれてよかった。雄一は、雄一・・・!
- るみ子の目に雄一がうつる。雄一もるみ子を発見する。
- るみ子
- 雄一・・・!
- 雄一
- みる子・・・!
- るみ子
- るみ子よ。
- 雄一
- ごめん、間違えた。
- るみ子
- いいの。・・・久しぶり。雄一、かっこよくなったね(心は伴っていない)。
- 雄一
- これ・・・。(指輪を出す)
- るみ子
- 指輪・・・!
- 雄一
- 俺と、結婚、
- るみ子
- あああ・・・。
- 塩屋先輩
- (急に現われ)ほんとにそれでいいの?
- るみ子
- 塩屋先輩。
- 雄一
- 素敵な人だ。
- るみ子
- ちょっと!
- 塩屋先輩
- 雄一とやら。あんたに言っておきたいことがある。
- その時、水野先輩がやってくる。
- 水野先輩
- おい、雄一!お前会社に書類、忘れてたぞ。
- 雄一
- 水野先輩。
- 塩屋先輩
- (水野を見て)・・・さとし?
- 水野先輩
- (塩屋を見て)・・・みちる・・・?
- 塩屋先輩
- ウソ・・・!
- 水野先輩
- みちる!!
- 塩屋と水野、抱擁!
- るみ子
- えっ、何?
- 雄一
- もしかして、生き別れになった彼女って。
- 水野先輩
- そうだ・・・!
- るみ子
- えーっ!
- 水野先輩
- ずっと探してた。
- 塩屋先輩
- 私も・・・!
- 水野先輩
- もう離さない。結婚しよう。
- 塩屋先輩
- うん・・・!
- るみ子
- ずるい!それ、私がやるはずだったのにー!!
- 雄一
- 大丈夫、主人公は俺たちだ!
- るみ子
- そうだよね。
- 雄一
- 結婚してくれ。
- るみ子
- 喜んで!
- 雄一
- るみ子!
- るみ子
- 雄一!
- その時、女が4~5人やってくる。
- 女1
- 雄一!
- 女2
- 雄一!
- 女3・4
- 雄一!
- 女5
- 久しぶりだね!
- るみ子
- えっ?
- 雄一
- みんな、来てくれたんだ。
- るみ子
- 何、この女どもは。
- 女たち
- (口々に)あんた誰?あんたこそ誰?(とか言ってる)
- 雄一
- 俺の歴代彼女だよ。
- るみ子
- 歴代彼女がなぜ。
- 雄一
- 俺、女と別れる時には必ず約束してたんだ。
俺が30になったときお互い独身だったらクリスマスにここで会おうと。
- るみ子
- どどどどういうこと?
- 雄一
- なんでわからねえんだよ!保険なんだよ!!俺は30で結婚したい!
そのための候補は多い方がいい!みんな、一列にそこに並んでくれ。
一番いいのを選ぶから!!
- るみ子+女たち
- 最低!!
- 女たち、去っていく。
- 雄一
- みんな、待ってくれ!俺を一人にしないでくれ!(るみ子にしがみつく)
- るみ子
- 離して!
- 雄一
- 俺の10年間は何だったんだー!
- バーテンダー、柱の陰から現れる。
- バーテン
- 無駄じゃなかったさ、雄一。
- 雄一
- マスター。
- るみ子
- 誰?
- バーテン
- さ、行こうか。
- 雄一
- え、なんで。
- バーテン
- 君の傷を癒すよ・・・。
- 雄一
- え、なんで?
- バーテン
- (るみ子に)さよなら、お嬢さん。
- バーテンダーと雄一、去る。
クリスマスっぽい曲が流れてくる。
- るみ子
- はは。うん、わかってた。わかってたよ!!あー、もー、運命の相手、売ってないかな
100万までなら出す!!・・・ラスク買って帰ろ。
- るみ子、元気に街に消える。
- 終わり。