- 11月。野村神社の境内。
 
        - さとみ
 
        - だから、反比例っていうはね、
            Xの値が大きくなるほど、Yの値は小さくなるっていうことなの。 
        - カズキ
 
        - そういうことかあ。
 
        - さとみ
 
        - でもね、この反比例の関係は、恋愛の世界にもみられるんだな。
 
        - カズキ
 
        - どういうこと?
 
        - さとみ
 
        - 例えばね、隣村の田中君はあたしのこと、好きなのね。
            彼はどんどんあたしのことを好きになっていく。でもそれに反して、
            あたしの気持ちは醒めていくの。これが、恋愛における、反比例の関係。 
        - カズキ
 
        - さとみ姉ちゃんは追いかけられると、逃げたくなるの?
 
        - さとみ
 
        - それは相手によりけりだよ。
 
        - カズキ
 
        - 誰ならいいの!?
 
        - さとみ
 
        - それは、その時々の私に聞いてみないと。あ、こんな時間。いかなきゃ。
 
        - カズキ
 
        - また勉強教えてよ。
 
        - さとみ
 
        - いいよ。じゃあね、カズ君。
 
        - さとみ、自転車のベルを軽快に鳴らしながら、髪の毛を揺らして去る。
 
        - カズキ
 
        - いつ見てもいい女だぜ!何かプレゼントを贈りたいものだが、
            小遣い月500円じゃなあ・・・。そうだ! 
        - カズキ、鳥居をくぐって神社に入る。誰もいないことを確認。
 
        
        - カズキ
 
        - へっへっへ。許してくれよ、神様。賽銭箱にガムテープを入れて・・・。
            よし。ついでに相合傘でも書いて行くか。お、いいところに鳥居が。 
        - カズキ、油性マジックを取り出し、鳥居に相合傘を書く。
 
        - カズキ
 
        - カズキ、さとみ。ひひひ。
 
        - 晴天にわかにかき曇り、突然の大雨、そして雷鳴が鋭く響く!
 
        - カズキ
 
        - ひいいい。
 
        - 幽霊音。
 
        - カズキ
 
        - なんだ??
 
        - 姫が現れる。
 
        - 姫
 
        - おのれよくも~!! 
 
        - カズキ
 
        - 出たあー!!!すいませんでした!
 
        - 落武者も現れる!
 
        - 落武者
 
        - これは許せませんなあ、姫!!
 
        - カズキ
 
        - ぎゃー!!お、落武者!! ひいいい、許してください!
 
        - 姫
 
        - ゆるさん!どうしてくれようか。
 
        - カズキ
 
        - 神様、助けて!!
 
        - 姫・落武者
 
        - (不敵な笑い)
 
        - 落武者
 
        - 何も知らんやつめ。この神社には我ら平家の落人が祀られているのだ。
 
        - カズキ
 
        - 平家?
 
        - 姫
 
        - そうじゃ。今から800年の昔、源氏に追われ、この地に落ち伸びてきたのよ。
 
        - カズキ
 
        - じゃあ、あなたは平家の姫?
 
        - 姫
 
        - 清盛殿から見れば、甥のはとこが嫁いだ先の次男の孫のまた従兄弟じゃ。
 
        - カズキ
 
        - 遠いなあ・・・。
 
        - 姫
 
        - お前に呪いをかけよう。
 
        - カズキ
 
        - ウソ!
 
        - 姫
 
        - この、さとみなるおなごに懸想しておるのじゃろ。一週間以内に告白し、
            うまくいけばお前の罪を許してやろう。しかしうまくいかなければ、
            お前とお前の家族は皆殺しじゃ。 
        - カズキ
 
        - 皆殺し?!
 
        - 姫
 
        - 気張れよ・・・。
 
        - 姫、落武者、消えてゆく。
 
        - カズキ
 
        - 消えた・・・。ウソだろ? 
 
        - 翌日の夕方。カズキ、下校していると、わたるが追いかけてくる。
 
        - わたる
 
        - カズキ!
 
        - カズキ
 
        - わたる。
 
        - わたる
 
        - 学校に教科書、忘れてたぜ?
 
        - カズキ
 
        - (溜息)
 
        - わたる
 
        - 悩み事か? 
 
        - カズキ
 
        - なんでもないよ。
 
        - わたる
 
        - お前は、何かあるときほど何も言わないからな・・・。
            いつもそばに俺がいることを忘れるな。じゃあな。 
        - カズキ
 
        - 告白・・・告白・・・。
 
        - さとみが木の下で泣いている。
            カズキ、びびる。 
        - カズキ
 
        - 誰?
 
        - さとみ
 
        - カズ君?
 
        - カズキ
 
        - さとみ姉ちゃん?・・・泣いてるの?
 
        - さとみ
 
        - 泣いてなんかないよ。・・・泣いてなんかないよ。
 
        - カズキ
 
        - 何があったの?
 
        - さとみ
 
        - 何も。・・・何も。
 
        - カズキ
 
        - 何かあんじゃん!
 
        - さとみ
 
        - へへ。父さんがね、見合いしろって言うの。
 
        - カズキ
 
        - 見合い?
 
        - さとみ
 
        - 隣村の金持ちと。
 
        - カズキ
 
        - そんな・・・。見合いとか、昨今はやらないんじゃない?
 
        - さとみ
 
        - いや、最近見合いも見直されてきてるよ。
 
        - カズキ
 
        - そうなの?
 
        - さとみ
 
        - でも私は愛媛大学に行きたいの!そして伊予銀行に就職したいの!
            でも父さんはそんなこと許さないって・・・。(泣く) 
        - カズキ
 
        - 今だ!・・・お、俺と結婚しようぜ!
 
        - さとみ
 
        - えっ?
 
        - カズキ
 
        - 俺、さとみのこと、愛してるんだ!結婚しよう!
 
        - 無言の間。
 
        - さとみ
 
        - (首を振って)ない。
 
        - カズキ
 
        - え?
 
        - さとみ
 
        - タイプじゃない。
 
        - カズキ
 
        - 嘘だ!
 
        - さとみ
 
        - ほんとだよ。あたし、カズ君のこと、タイプじゃないんだよ。
 
        - カズキ
 
        - じゃあ誰がタイプなんだよ!
 
        - さとみ
 
        - 藤井総太くんだよ。
 
        - カズキ
 
        - なにい?お前、藤井総太とはつきあえないよ?
 
        - さとみ
 
        - そんなの70%は分かってるよ!
 
        - カズキ
 
        - 俺と付き合えよ!
 
        - さとみ
 
        - ないない。(携帯をいじりながら)告白されナウ。
 
        - カズキ
 
        - ツイートしてんじゃねえよ!この不細工が!!
 
        - さとみ
 
        - ええ?
 
        - カズキ
 
        - お前の顔なんかな、はっきり言って、そこまでかわいくないからな。
            お前なんか、一生独身だあ! 
        - カズキ、走り去ってゆく。
            鳥居。カズキ、大泣きしている。姫と落武者がいる。 
        
        - 姫
 
        - 見苦しいものよ。不細工とか言って。
 
        - 落武者
 
        - じゃあなんでコクったんだって話ですな。
 
        - カズキ
 
        - ほっとけよ!!
 
        - そこへわたるが自転車でやってくる。
 
        - わたる
 
        - カズキ。
 
        - カズキ
 
        - わたる。
 
        - わたる
 
        - お前、振られたんだってな。ツイッターで見たよ。
 
        - カズキ
 
        - あのクソ女・・・!
 
        - わたる
 
        - 元気出せよ。泣くのは今夜だけにしようぜ。
 
        - カズキ
 
        - おう。
 
        - わたる
 
        - (ツイッターの着信音)あ、新しいツイートだ。
            「でも、あんなに私のことを愛してくれてただなんて意外!
            次会ったらドキドキしそう。」 
        - カズキ
 
        - え?どういうこと?
 
        - 落武者
 
        - やっぱり好きといわれたら悪い気はしませんからな。
 
        - 姫
 
        - そこから意識しちゃったりしてな。
 
        - カズキ
 
        - もしかして、ここからなのか?・・・わたる!協力してくれ!
 
        - 次の日。村の公民館。屋上にカズキがいる。わたるがさとみを連れて現れる。
 
        - わたる
 
        - さとみさん、こっちです!
 
        - さとみ
 
        - ああ、カズくん!どうして公民館の屋上に!
 
        - カズキ
 
        - さとみと付き合えないんだったら、生きていても仕方がない!
 
        - さとみ
 
        - カズ君、死なないで!夢見が悪くなる! 
 
        - 落武者
 
        - あの屋上、高さ3Mくらいですな。
 
        - 姫
 
        - 落ちても死なんわな。
 
        - わたる
 
        - あいつと付き合ってやって下さい。
 
        - さとみ
 
        - 無理だしー。あたし帰るね。
 
        - さとみ、去っていく。
 
        - カズキ
 
        - ああ!こうなったら、プレゼント作戦だ! さとみ!
 
        - さとみ
 
        - 何?うざいんだけど。
 
        - カズキ
 
        - 受け取ってくれ!
 
        - さとみ
 
        - (受け取って)何コレ。
 
        - カズキ
 
        - リズリサの花柄ワンピさ。
 
        - さとみ
 
        - はっ。
 
        - わたる
 
        - (カズキに)これ、高いんじゃないのか。
 
        - カズキ
 
        - 大丈夫。金なんて賽銭箱からいくらでもでてくる。
 
        - わたる
 
        - ばかやろう!(殴る)
            そんなんで買ったプレゼントなんて、喜ばれるわけないだろう! 
        - 姫・落武者
 
        - (拍手)よく言った!
 
        - さとみ
 
        - ・・・物に罪はないわ!
 
        - わたる
 
        - なんだと?
 
        - さとみ
 
        - でも別に付き合わないし、これは返さない!
 
        - さとみ、逃げ出す。
 
        - カズキ
 
        - ちくしょう、プレゼント作戦も失敗だ!俺と家族は死ぬ運命なのか??
            しかしその夜! 
        - さとみ、やってくる。
 
        - さとみ
 
        - カズ君!
 
        - カズキ
 
        - どうしたの?こんな夜中に。
 
        - さとみ
 
        - 家の中で花火してたら、じゅうたんに引火しちゃったの!
 
        - カズキ
 
        - なんでそんなことを!
 
        - さとみ
 
        - どうしよう、あたし、怒られちゃうよ。
 
        - カズキ
 
        - ・・・大丈夫、俺がやったってことにすればいいよ。
 
        - さとみ
 
        - ほんとに? 
 
        - カズキ
 
        - どうせ、ボヤ程度だろ?これでさとみに恩を売ればきっと・・・!ところが!
 
        - 落武者
 
        - めちゃめちゃ燃えてますぞ!! 
 
        - 姫
 
        - 裏山にも燃え広がってるぞよ!! 
 
        - カズキ
 
        - ちょっとお!じゅうたんが燃えただけじゃないの?
 
        - さとみ
 
        - さては、灯油に引火したな?
 
        - カズキ
 
        - 結局火は翌日の明け方まで燃え続け、
            村のおよそ半分の家と田畑を灰にしたところでようやく沈静化した。 
        - 焼け跡に呆然と立ち尽くすカズキ。さとみ、やってくる。
 
        - さとみ
 
        - カズ君、ごめんね。全責任をひとりでかぶってもらって。
            賠償金でカズ君の家破産だね。 
        - カズキ
 
        - いや、いいよ・・・。
 
        - さとみ
 
        - ありがとう。
 
        - カズキ
 
        - さとみ姉ちゃん。いや、さとみ。俺とつきあってくれ。
            俺、今回のように、さとみが何かやらかした時は、身を挺して守るよ。
            だから、俺とつきあってください!お願いします!! 
        - さとみ
 
        - ・・・ない。
 
        - カズキ
 
        - (言葉にならない)
 
        - さとみ
 
        - ないわ。
 
        - カズキ
 
        - なんで。
 
        - さとみ
 
        - 言ったじゃん。タイプじゃないって。
 
        - カズキ
 
        - 俺、ここまでしたんだよ! 
 
        - さとみ
 
        - それとこれとは、別ジャン?それにうち、松山に引っ越すことになったの。
 
        - カズキ
 
        - え?
 
        - さとみ
 
        - お父さん、この火事で人生観変わったらしくって、都会で一旗あげたいんだって。
            私、その気持ち、わかる。だって愛媛に住む人間にとって、松山って、夢の住む町だもんね。 
        - カズキ
 
        - そんな。
 
        - さとみ
 
        - じゃあね、カズ君!
 
        - さとみ、去る。
 
        - カズキ、慟哭する。
 
        - 姫
 
        - 人というのは、こんなにもふられるものなんじゃな。
 
        - 落武者
 
        - そうですな。
 
        - 姫
 
        - 彼を見ていると、この世への恨みなど、どうでもようなってきた。
 
        - わたる、現れる。
 
        - わたる
 
        - カズキ。
 
        - カズキ
 
        - ・・・。
 
        - わたる
 
        - そのままでいいんで聞いてくれ。
            今回のことで気づいたんだけど、俺・・・お前を愛してるんだ! 
        - カズキ
 
        - え?
 
        - 姫・落武者
 
        - なんと!! 
 
        - わたる
 
        - 俺と付き合ってくれ!
 
        - カズキ
 
        - ・・・抱きつくんじゃねー!!
 
        - わたる
 
        - 一生離さない。
 
        - 姫
 
        - いいものを見た・・・。 
 
        - 落武者
 
        - 姫様、体が透けてきてますぞ。
 
        - 姫
 
        - おぬしも。はっ。初雪が降ってきたな。
 
        - 姫と落武者、成仏する。 
 
        - カズキ
 
        - さとみー!
 
        - おわり。