- 劇団拍手喝采「お~い、ガガ姉さん!」の公演後のロビー。劇団員たちの「ありがとうございました」「こちらでパンフレットを販売しております!」などの声が聞こえる。
- 粉川
- よっ。
- しげみ・せりな
- 粉川センパイ!
- しげみ
- 来てらっしゃたんですか!
- 粉川
- あたぼうよ。
- せりな
- (ひそひそと)あたぼうって何?
- しげみ
- あたりまえだ、べらぼうめ、の略だよ。
- 粉川
- あんたらも使ってみるといいよ。「あたぼうよ」、を使いだすと、不思議と
 「べらんめえ」も使いたくなってくるから。そしてどんどん江戸っ子に近づいていくんだ。
- しげみ・せりな
- へえ。
- しげみ
- いかがでしたか、劇団拍手喝采第20回公演「お~い、ガガ姉さん!」は!
- 粉川
- よかったよ。元劇団員の目から見てもよかったよ。
- しげみ・せりな
- ありがとうございます!
- 粉川
- まさかレディ・ガガの物語とはね。二階堂デルタもやるね。
- しげみ
- そうですね、二階堂さんはこの頃ますます筆がのってますね。
- せりな
- まあ、台本、つじつまあってないとこ、50箇所ぐらいありますけどね。
- しげみ
- それも味なんだよ。
- せりな
- ほんとモリモリは二階堂作品が好きね。
- しげみ
- じゃなかったらこの劇団にいないよ。
- せりな
- 粉川センパイ、だんなさんもお元気ですか?
- 粉川
- 元気だよ。プロジェクションマッピングの仕事で飛び回ってる。
- 二階堂
- (現れて)粉川さん!
- 粉川
- ひさしぶり、二階堂。
- 二階堂
- どうでしたか、舞台。
- 粉川
- よかったよ。
- 二階堂
- ありがとうございます。はははは。ではこれで。
- 粉川
- あいよ!・・・だけど、今回もヒロイン、井上だったなア。
- しげみ・せりな
- ああ・・・。
- 粉川
- これで何回目だ?
- しげみ
- 5回目です。
- 粉川
- いい加減客も飽きるぜ?
- しげみ
- でも、井上がずっとヒロインをやると思いますよ。二階堂さんと付き合ってる間は・・・。
- せりな
- だよね。
- しげみ
- 二階堂さん、女見る目、ないんだから・・・。
- せりな
- (ナレーション)それから、三か月がたった・・・。
- 風が激しく吹いている。
- しげみ
- ごめんね、高野山なんかに呼び出して。
- せりな
- いいのよ、モリモリ。よっぽどのことがあったんでしょ?
- しげみ
- うん・・・。
- せりな
- 前ここに呼び出されたのは、お兄さんが蒸発した時だったよね。
- しげみ
- せりな、落ち着いて聞いて。二階堂が・・・井上と別れた。
- 間。
- せりな
- ええーっ!ウソでしょ?だってあんなラブラブだったじゃん。
- しげみ
- それがさ、井上が、劇団しゃかりきアカデミーのKENJIとできちゃったらしいんだよ!
- せりな
- ウソー!KENJIってめっちゃ熱狂的なファンがめっちゃいる人じゃなかったっけ? 
- しげみ
- そうそう。井上もファンに命を狙われて、今埼玉に逃げてるらしい。
- せりな
- じゃあ井上さんは・・・
- しげみ
- 実質、退団だよ。
- せりな
- 退団?てことは・・・。
- しげみ
- ヒロインの座が空いたよ・・・!
- せりな
- でも待って!二階堂さんは井上さん以外にもこっそり劇団員と付き合ってるじゃない?
- 粉川
- (現れて) 美由紀とTokicoのことだな。
- しげみ
- 粉川センパイ!どうしてここに?
- 粉川
- たまたま通りかかったんだ。
- しげみ
- たまたま通りかかるところじゃないですよ、高野山は・・・。
- 粉川
- 不思議な場所だよね。で?
- しげみ
- いろいろ気になりますけど・・・、ええと、美由紀とTokico、
 二階堂さんと別れて結婚するんだそうです!
- せりな
- ええっ!!誰とよ!
- しげみ
- 美由紀は島根にすむ炭焼き職人と、Tokicoは和歌山に住む炭焼き職人とらしいよ。
- 粉川
- なんで二人とも炭焼き職人なんだよ。
- せりな
- てことは、今、劇団内に代表の女はいない・・・。
- しげみ
- そうなんだよ。
- せりな
- うふっ。
- しげみ
- ふふっ。
- せりな
- ははは!
- 二人の笑う声が高らかに響く。
- しげみ・せりな
-  次のヒロインは、私!
- せりな
- 正々堂々勝負しようね!
- しげみ
- 当たり前よ!実力でヒロインになってみせるわ!
- せりな
- それがあたしたちのプライド! 
- しげみ・せりな
-  私たちはいかなるときも、決して色目をつかわない!
- 粉川
- がんばれよ、二人とも!
- しげみ
- そして、一か月後。
- 二階堂
- では今から劇団会議を始めます・・・。
- しげみ
- 二階堂さん、やつれたわね・・・。
- 粉川
- 仕方ない。今までは女が彼の存在を根源から支えていたのだから。
- しげみ
- センパイ、どうしてここに!
- 粉川
- 毎日暇なんだ。
- しげみ
- もう劇団戻ってきたらどうですか。
- 粉川
- それはない。
- せりな
- 二階堂さん、お茶、です。
- せりな、二階堂にお茶を差し出す。
- しげみ
- せりな?どうして二階堂さんの隣に?
- 二階堂
- ありがとう。ああ・・・、薄めのお茶がおいしいな。
- せりな
- あなたの好み、覚えました。
- 二階堂
- すまないね・・・最近、味の濃いものは受け付けないんだ・・・。
- せりな
- また、おうちに行って味の薄い煮物作りますね。
- しげみ
- せりな・・・!誓いを破ったわね!!
- せりな
- 違う!弱った彼をほっておけないだけなの!
- しげみ
- ウソつくな!ヒロインになりたいだけでしょ!
- 二階堂
- お茶はどこだい・・・?最近目がかすんで物がよく見えないんだ・・・。
- 粉川
- 実際、かなり弱ってるようだけど。
- 二階堂
- ここは・・・どこだ・・・?
- 粉川
- あいつまだ28なんだけどな。
- せりな
- 今から次回公演について話しあうんですよ。ほら、私が主役の。
 昨日寝床で話し合ったでしょ?
- しげみ
- せりな卑怯よ! 
- 二階堂
- 君が?・・・いや、それはないな。
- せりな
- え?
- 二階堂
- 君が主役の物語を、僕は想像することができない。
- 粉川
- 正気に戻った!
- 二階堂
- だが・・・、今の僕ではとても台本を書くことは・・・。
 劇団拍手喝采はしばらく休団しよう。
- しげみ
- いやです!
- 二階堂
- ムリなんだ!僕は美女がいないと・・・!美女が僕を支えているんだ・・・!
- せりな
- 私がいるわ。
- 二階堂
- 君は違う! 触らないでくれ。
- せりな
- ああっ。
- 二階堂
- 僕は今から自分自身を見つめなおしにドトールに行ってくる。
- 二階堂、去る。
- しげみ
- せりな!
- せりな
- 何よ。
- しげみ
- このやろう!
- 粉川
- モリモリ落ち着いて!それより、どうすんの。このままじゃ休団だよ。
- しげみ
- でもあたしたちにはできることなんて。
- 粉川
- あいつ、新しく女ができればアッサリ台本書くと思うぜ。
 あいつの彼女になんとかしてなれよ。
- しげみ
- あたしが?あたしは・・・二階堂さんのことは、演劇人として尊敬してますけど、
 それ以上の感情は・・・
- 粉川
- うそつけ!
- 粉川、しげみにびんたをくらわす。
- しげみ
- ああ!
- 粉川
- あんたは二階堂に惚れてるよ!あんた以外はみんな知ってる!
- せりな
- もちろんよ!
- しげみ
- でも二階堂さん、美人が好きじゃないですか!あたしじゃあ役不足・・・!
- 粉川
- わかった。あきらめよう。
- せりな
- ちょっと!
- 粉川
- ウソウソ。でもな、かわいい子が好きだと言っていたはずの男が、顔がイマイチな女と
 結婚することも世の中にはあるんだ!その女たちはみな何かしら努力をしている!
 お前もがんばれ!
- しげみ
- でも、どうしたら。
- 粉川
- みんなで考えよう!
- 粉川、しげみ、せりな、なんかごにょごにょ言っている。
- 粉川・しげみ・せりな
- 作戦その1、男は胃袋でつかめ作戦!
- しげみ
- あたし、料理できないんだけど!
- せりな
- 大丈夫!デパ地下で買ったお惣菜を手料理だと言って出せばいいから!
- 二階堂
- これ・・・お惣菜じゃろ?
- 粉川・しげみ・せりな
- 失敗!作戦その2、メイクでごまかせ!
- せりな
- とにかく盛るの。カラコンでしょ、つけまつげでしょ、アイシャドウでしょ・・・
- 二階堂
- 今日って・・・ハロウィンだったかな?
- 粉川・しげみ・せりな
-  失敗!
- 粉川
- そのほか、とにかく誉めまくる作戦、恋愛相談のフリして口説く作戦、どこに行っても必ず
 君がいて運命を感じる作戦などいろいろ試してみたが、すべて失敗に終わった・・・。
- せりな
- もうダメだ・・・。
- 粉川
- ちくしょう・・・。
- しげみ
- あたし・・・最後に、ちゃんと告白してみます。
- せりな
- えっ?
- しげみ
- 作戦とかじゃなく、正々堂々と。それでだめなら、あきらめます。
- せりな
- モリモリ・・・。
- 粉川
- そうだよね、小手先のことより、それが一番大事だったね。がんばって!
- しげみ
- はい!
- しげみ、中之島で二階堂と向き合っている。
- しげみ
- すいません、夜遅くに呼び出して。
- 二階堂
- いいんだ・・・。年寄りには夜はきついが。
- しげみ
- わたし、二階堂さんが好きです。初めてあなたの作った舞台を見たとき、ドキドキして
 夜寝られませんでした。それからあなたの劇団に入って、でも、あなたに彼女がいると
 知って、私が好きなのはあなたではなく、あなたの作る作品だと、自分で自分を
 ごまかしました。でも、私が好きなのは、やっぱりあなたなんです。あなたと、
 あなたの作るすべてが、たまらないんです。
- せりな
- (隠れて見ていた)モリモリ・・・!あんた今、輝いてるよ・・・!ていうか、なんか、
 実際に輝いてない?
- 粉川
- よくわかったな。
- せりな
- どういうことですか?
- 粉川
- 今あの子は、白いお面のようなものをかぶっているんだ。
- せりな
- お面?でも・・・顔見えてるけど・・・
- 粉川
- それはね、彼女の顔を美人に加工した写真を、そのお面に投影しているんだよ。
- せりな
- プロジェクションマッピング?
- 粉川
- 夫の技術を総動員して作ってもらったんだ。
- 二階堂
- ・・・君はそんなに美人だったのか・・・!
- しげみ
- つきあってもらえますか?
- 二階堂
- 喜んで!
- せりな・粉川
- やったー!!
- せりな
- こうして、二人は付き合い始めたんだけど、結局、プロジェクションマッピングの魔法は
 すぐとけて、すぐ別れました。そりゃそうだよね。でも、二階堂さんの心には、
 モリモリの告白の言葉がある程度響いたのか、新しい作品を書き始めました。モリモリ、
 振られたけど、まあ、よかった、かな?
- 終わり。