フィナーレ
拍手・喝采 アンコール。 

おつかれさまでした。

おつかれさま。

あれ、ゆりこさん、まだ帰らないんですか。

うん。さみしくて。

明日にはなくなりますものね。

いつもあっという間ね。

だれか

雪だよー!

みんな

どよめく

ふたり

雪!

笑 雪かあ。

初雪だ!

ねえ、その雪、舞台につれてきて!

みんな

笑。

あら私は本気よ。

何いってんですか。紙の雪だったら毎日ふってるじゃないですか。

溶けるやつがいのよ。

それはダメです。いろいろ大変です。

大変なのがいいのに。

ダメったらダメです。まったく。 あした最終日でしょう。

だからよ。

だれか

おーい。みんな出ますよー。

わたしもう少しここにいるわ。

だれか

はあい、また明日!

おつかれさまー。

おつかれさまでしたー!

さて。あなたも帰る?

いいえ。主演俳優を残して帰れません。
なんてったって、舞台監督でありますから。

まあ。お父様と同じこという。

えっ。そうですか。

やあね。そっくり。

そうかなあ。

まだ半人前なのにね(笑う)

やりづらいなあ。

そう?

授業参観みたいで。

ふふふ。

もう少し、ここにいますか。

うん。

じゃあ僕も。

クリスマスは?

いいんです。クリスマスは。

おや。何かありましたか。

なんにも、ありません。

みんな

おつかれさまでーす。

ふたり

またあしたー。

扉が閉まる。
ふたりきりになった。
少しの間

真っ赤なベルベットの客席。

この椅子。特注品なんですよ。

座面擦り切れてる。

そう! ボロボロなんです! つくった会社はもうつぶれて。
張り替えられないんです。

それは大変。

大変なのがいいんです。何万人ものお尻の後ですよ。偉大です。

そういうところも、お父様にそっくりねえ。

そうかなあ。ほんとやりづらいなあ。

バチン! バチン! バチン! 調光器のスイッチが切れる
ふたり

わっ

まっくら。

わわわわ。守衛さんが勘違いしたんだ!みんないなくなったと思って!
ちょっとまっててください!いま!

いい。クリスマスだもの。おじさんも早く帰りたいのよ。

でも、まっくらですよ!

うん。劇場のまっくら。わたし好き。

えええ・・

まっくら。

・・・ゆりこさん。そこにいますよね。

いますよ。

怖いな。

そう? ね、みて。なにかが始まる感じしない?

えっ。なんにも見えませんけど!

そう?ほんとに?

ぼく、鳥目なんです。

舞台監督なのに?

懐中電灯がいつも頼りです。今なくて。

舞台監督なのに?

油断してました。ガムテープはもってるんだけどな。

それじゃ光らないわねえ。

残念です。お役にたてず。

声1

それは残念。

うわっ

え?

さっき、おじさんの声が。

おじさん?

えっ。聞こえなかったですか。おおおおおじさんのおばけかな。

声1

おばけとは失敬な。紳士と呼んででくれたまえ。

ひー。し、紳士??

わたし。(笑う)

えっ。え??

声1

今君のとなりにいるだろう。

えっ? となり? となりに紳士?

わたしだってば (笑う)

えっ。ほ、ほ、ほんとに本当にゆりこさんですか!

声2

ええ。ほんとうですよ。

おばあちゃん?!

声3

わたしもいるわ。

女の子だ!

声4

ぼくもいる。

うおお。高校生ぐらい?

声5

わたしもいるぞ。

おじいちゃん・・・。これ全部ゆりこさんの声ですか。

うん。子供のころから不思議とできるの。

なんで隠してたんですか!

びっくりさせたほうが、おもしろいかなって。

舞台でやればいいのに!

ううん。やらない。私の見た目には、この声がいいみたい。
だからこの声。

へえ。

声3

なんでもできればいいってもんじゃ、ないのよ。

わわわわ。慣れない。

声2

ふふふ。あなたが驚いてくれるから。つい嬉しくなっちゃう。

まっくらだからかな。いま隣に誰がいるのか、わからないな。

声1

もしかしたら、君の知ってる人じゃないかもしれないよ。

紳士!

わたし。

すごい!

声たち

ふふふふ。

そそそそ、そんなことも?

声3

子供の頃から不思議とね。すー。

声達

がっはっはっはっ。

ファントムだ。ぼく、クリスマスにファントムにあったぞ!

声達

ファントム!

声達

ファントム!

うわあ・・・すごいな。声が、ふってきますね。

雪みたいでしょう。

消えてなくなる。

いろんな声達がばらばらに

雪。ちら、ほら。ちら。ちら。しん。しん。しん。

雪だ。消えてなくなる! 雪が聞こえます。

えっへん。

すごい。

みんなには内緒よ。

どうして?

この声が一番気にいってるから。

ちょっと間。

父は知っていましたか。

声2

ええ、あの人はなんでもお見通しでしたから。

かあさんは?

声2

たいがい同じ楽屋でしたもの。隠せなかったわ。

その、ひとつ、お願いがあるんです。

声2

お願い?

ゆりこさんに。

(咳払い)はい。なんでしょう、舞台監督の、息子さんの、舞台監督さん。

大先輩の、しかも大女優の、しかも主演俳優に、
お願いするのは、なんというか、ほんとうに

どうぞお気になさらず。

しかも情けないお願いで、そのなんというか。

クリスマスでしょう。君のサンタクロースになってあげよう。

あの、なんていうか、その、クリスマスってこう、どうもこう、
さみ、いや、こい、しくなってしまうというか。
(もごもご言ってる途中で入る)

あ。わかった。

えっ 

わかったわ

えっ。なんで。えっ

だって。

声達

ファントムだから。

おーーーーーーーーい。

えっ

おーーーーい。

わ。

声達

おーーーーい。おーーーーい。

声が、ふってくる・・!

女2

しーーー。・・・舞台監督さん。

あっ

女2

ちいさな、舞台監督さん。

ああ。

女2

舞台監督さんの名前は。こうた。

まいったな。

女2

こうた。

母の声です。

女2

あんなにわすれちゃだめって言ったのに。

忘れてませんよ!忘れてないんだけど。ときどき。無性に、

女2

懐中電灯もね。

あっ

女2

まったく。あなたはいつもどこかにおいていく。
縄跳びだって、ランドセルだって。

いや。もう。

女2

いつか滑り台に忘れてきたわね。

その話は、もう。楽屋でしないでくださいっていってたのに。

女2

ふふふ。こうた。いつかおまえに恋しい人ができたなら、

えっ

女2

ゆりこさんにちゃんと紹介するように。

えっ。

女2

ちゃんと、言うように。

ちょ、ちょっと、ゆりこさん。

男2

こうた。おまえまた忘れてきたのか。

わあああああ・・・。とうさんの声だ。

男2

灯はどんなときだって大事だと、なんども言ってきたじゃないか。
グーだぞ。

とうさんだ!

男2

おまえ、あれだろう。泣きたいこともあるんだろう。
そんなときは、ゆりこさんに言うように。

そんなこととうさん言ってましたか。

男2

いってない。

もう

男2

でも、そうするといい。いつだってお前はひとりじゃないんだから。

・・・はい。ちゃんと、ちゃんと。

女2と男2

そうしなさい。

女2

いつか、ぜんぶ、消えて無くなるけれど、 こうた。

男2と女2

お前は続いていくんだから。

はい。とうさん、かあさん。

(咳払い)それから?

ゆりこさん。

バチバチ。電気ついた。
守衛

おーーーーい。なにやっとるんやー。こんな寒いなか!

あっ。

守衛

おっ。誰や思ったら、こうちゃん。こうちゃんやないか。まだおったんか。

おっちゃん!

守衛

おりゃ。主演俳優までおるやないか。なんや、だめだしか?

ふふふふ。

ちちちちちがいますよ。

守衛

なんでや。こうちゃん、監督さんやろ。

だから、なんども言ってるでしょ。監督は監督でも、

はい、監督さん。明日はもっといい芝居します!

ゆりこさん!

守衛

はっはっは。えろうなったもんやなあ。たいしたもんや。
さあ、はよ帰り。雪、積もってまうで。

はーい。帰りましょ。監督さん。

はい。あのう、飯でもいきますか。

すてき!

街の雑踏。
クリスマスの音が聞こえる。

ステージがはねて、劇場の扉から人が流れ出す。
いったいどんな物語をみたの。どんな言葉を聞いたの。
どんな顔で、どんな思いで。

あかりの消えた劇場の外。一歩ふみだして、もういちど、光のなかへ。

声達

今宵、街は、イルミネーション!

両手いっぱいの贈り物。

だきしめつける、雪道に足跡。

みんな、どんな気持ちを贈ったの。どんな言葉で贈ったの。
好きも、嫌いも、愛してるも、あなたがいるから。あなたがいるから。

おわり