- 舞台はまろみのワンルーム。今日は女だけのクリスアスパーティーである。
チャイムの音。ドアの開く音。
- まろみ
- いらっしゃーい!
- 田中
- ごめん、遅くなって。
- まろみ
- 全然いいよ~。
- 田中
- これ、チキンの丸焼きね。
- まろみ
- うわ。ありがと!!
- 田中
- あと、シャンペンね。
- まろみ
- やったね!
- 田中
- あと、ひじきの煮物。
- まろみ
- ありがと!・・・ひじきの煮物?
- 田中
- おかんが大量に作ったのよ。余るだろうけど、また食べて。
- まろみ
- ありがと。
- きよこ
- 遅いよ田中ー!
- 田中
- ごめんごめん。まろみ、洗面所借りるね。
- まろみ
- あいー。
- 田中、うがいをし始める。(以下、田中の台詞までずっとうがいが続いている。)
- きよこ
- 何それ。
- まろみ
- チキンの丸焼きとシャンペンとひじきの煮物。
- きよこ
- なるほど。テーブルの上には私の持ってきたクラッカーとチーズ、
まろみの用意したフランスパンと生ハム。そこにひじきの煮物が入ったことによって、我々のクリスマスが揺らいでいるね。ていうか、うがい、なげーな!!
- きよこ
- さすが薬剤師!!
- 田中
- はー、スッキリ。きよこ、久しぶりじゃん。
- まろみ
- イェーイ!
- きよこ
- (心の声) 田中・・・、ちょっと見ない間にしわが増えたな。
- 田中
- (心の声) きよこ、髪の毛に艶がないな。年か・・・。
- まろみ
- (心の声) 田中もきよこも、肌に透明感がなくなっているわ。
- 三人
- (心の声) 私も、気を付けよう・・・!
- きよこ
- どれぐらいぶりよ?
- まろみ
- 確か・・・きよこが男に騙された時だから、お盆の時じゃない?
- 田中
- そうだそうだ。
- きよこ
- やめてー。
- 田中
- なんだったっけ、すごい騙され方だったよね。街でナンパされたんだよね。
- 回想。
- 男
- ちょっと待てよ。
- きよこ
- えっ。どちらさまですか?
- 男
- 俺だよ。坂本龍馬だよ。お前、おりょうだろ?
- きよこ
- えっ。
- 男
- まさか、現世で会えるなんて・・・。もう、離さないよ。
- 回想、終わり。
- 田中
- で、現代の亀山社中を作るとか言って、500万持ってかれたんだよね。
- まろみ
- 28歳の女が騙されるにしてはでかい金額だよね。
- きよこ
- でも、騙されてたって気が付くまでは素敵な体験だったの。幕末にいたって感じかな・・・。
- 田中
- 高いタイムスリップ代だよ。
- きよこ
- まあね。まあでも、親の土地売ってなんとかなったから。おかげで勘当されちゃったけど。
- 田中
- 大問題だけどなー。
- きよこ
- まあでも、夏は終わったからね。
- まろみ
- 軽いなあ。
- きよこ
- 二人はどうよ。ラブの方は。
- 田中
- あればここにいないよー。
- きよこ
- たしかに。
- まろみ
- 実はそのことで二人に折り入って相談が。
- きよこ
- 何何―?
- 田中
- 恋愛相談?
- まろみ
- まあ。
- きよこ・田中
- まじでー?
- まろみ
- へへ。
- きよこ
- 誰誰?
- まろみ
- 上野しげはるさん。
- 田中
- 名前聞いてもな。
- まろみ
- 仕事の関係で知り合ったんだけど、ちょっといい感じになっててー。
あさって、二人で飲みにいくんだよね。
- きよこ
- いいじゃん!
- まろみ
- でね。多分流れでうちにくると思うんだよねー。流れでっていうか、強引にでも連れてくる。で、その時冷蔵庫にあったもので、ぱぱっとおいしいものを作るの。そしたらさ、きっとね、
- まろみの脳内ヴィジョンが流れる。
- まろみ
- おまたせ。
- 男
- えっ。冷蔵庫のあまりもので、こんなものを簡単に作れるなんて・・・!
- まろみ
- そんな。
- 男
- ヨメに来いよ。
- 脳内ヴィジョン、終わり。
- まろみ
- って感じになると思うの!
- きよこ
- なるかなあ。
- 田中
- ていうか、まだ付き合ってもないのに、ヨメとか。
- まろみ
- えー、でも、男は胃袋でつかめって草薙小春先生も言ってたし。
- 田中
- 誰よ。
- きよこ
- ていうかまろみ、料理できるっけ?
- まろみ
- できない。きゅうりにマヨネーズをかける行為を料理と呼ぶならできるけど。
- きよこ
- ダメじゃん。
- まろみ
- だから頼んでるんじゃない。一緒に冷蔵庫見てよ。そんで、何ができるか考えてよ。
- 田中
- えーっ?
- きよこ
- ていうかさ、なんかあらかじめ用意しとけばいいじゃん。
こう、手作りって押し通せるお惣菜を買っておくとか。
- まろみ
- そんなの詐欺じゃない。私は正々堂々と勝負したいの!その時、冷蔵庫にあるもので!!
今日はね、その予行演習として実際作ってみたいんだよね。
- 田中
- クリスマスパーティーじゃないのかよー。
- きよこ
- いいじゃん。親友の恋の応援しようよ!
- まろみ
- きよこ・・・。ごめんね、
中学の時、「あんたは親友じゃなくて、ただの友達だよ。」って言って。
- きよこ
- そんなこと言われたっけ?
- 田中
- あー、なんかあたしは覚えてるわ。きよこが「あたしたち親友だよね。」とか言って、
それに対してなんかキレたみたいで。
- まろみ
- あの時は親友だと思ってなかったから・・・。ごめん。
- きよこ
- いいよ。なんか、今つらい気分だけど。
- まろみ
- 大好きだよ。
- きよこ
- わかったわかった。
- 田中
- で、冷蔵庫に何があんの?
- まろみ
- えーっと。きゅうりと、マヨネーズと、いちごジャムと、からしだね。
- 田中
- 終わったな。
- まろみ
- えっ。
- 田中
- こんなんで作れるか!!
- まろみ
- あっ、レトルトのごはんもあるよ!
- 田中
- あったとて!
- まろみ
- できれば家庭の味、みたいなものがいいんだけど。
- 田中
- どうやって出すんだよ。
- きよこ
- うーん、・・・例えば、中華だしがあったらさ、
それでごはんを煮て、ごま油かけて、中華がゆ、とか?
- 田中
- ああ。・・・キュウリはそえものにして、
- まろみ
- で、いちごジャムをデザートにすると。
- 田中
- あんたにとっていちごジャムってデザートなの?
- まろみ
- あっ、でもダメだ!中華だしなんて上級者向けのものはないよ~。
- きよこ
- どちらかといえば初心者向けだと思うけど・・・。
- まろみ
- ん~、あっ、スルメがあったよ!
- きよこ
- 完全に酒のあてじゃん。
- まろみ
- スルメから味って出ない?
- きよこ・田中
- スルメから?
- まろみ
- だって、噛めば噛むほど味が出てくるっていうじゃん。
- 田中
- 無理でしょ~。
- きよこ
- いや、いけるかも。
- 田中
- ウソ。
- きよこ
- ほら、やってみないとわからないしね。まろみ、鍋に水いれて。
- まろみ
- ラジャー!
- 鍋に水を入れて、コンロにかける音。
- きよこ
- そこにごはんを入れまして・・・。
- 田中
- ゴキブリ!!
- まろみ
- えっ!
- 田中
- そこ、そこ!!
- きよこ
- うわっ!!殺虫剤ないの?
- まろみ
- あるある!
- 田中
- カベに上った!!
- きよこ
- ゴキブリって飛ぶんでしょ?
- ぶーん、という音。
- 田中・きよこ
- きゃー!
- 田中
- ドア閉めて!
- カツン、という音。
- きよこ
- 何、今の!!
- 田中
- ゴキブリがドアにあたったんでしょうよ!
- きよこ
- いやだー!
- まろみ
- 殺虫剤、あった!!
- 田中
- そこよ!
- シューっという音。
- 田中
- 棚の後ろに逃げ込んだよ!!
- シューっという音。
- まろみ
- しぶといな!!
- きよこ
- うわ、もう一匹出た!!
- まろみ
- えっ!
- きよこ
- ここ、ここ!!
- シューッ!
- きよこ
- (むせる)あたしにかけてどうすんのよ!
- まろみ
- ごめん!
- 田中
- ・・・ゴキブリ、もう大丈夫みたいよ。
- まろみ
- よかった・・・。
- 田中
- ほんとよかったよ。料理がいくらおいしくても、ゴキブリが二匹でた時点で男はひくからね。
- まろみ
- ちゃんとゴミはすてるよ。
- 田中
- 基本だね。
- きよこ
- あっ、このなんと言っていいのかわからないおかゆ、できてるんじゃない?
- まろみ
- ほんとだ!
- きよこ
- 食べてみようよ。
- 火を止め、おかゆをつぐ。
- 三人
- いただきまーす。(食べる)
- 田中
- ・・・こりゃだめだ!!
- まろみ
- まずいね!!
- クリスマスっぽい曲。
(きよこの声) こうして、今年のクリスマスは終わった。今年は三人で祝えたけど、
誰かに彼氏ができたら、その子は彼氏と過ごすから一緒に祝えなくなる。
そんな悲しい宿命の、女同士のクリスマス。来年は、どうなるかなー。
さて、三日後、まろみからメールがあった、
(まろみの声) ハロー。私、おかげさまで上野さんと付き合うことになりました。
- 田中
- まじか!!
- まろみ
- 彼をあの手この手で家に連れ込んだの。そして・・・。
- まろみの回想。
- まろみ
- どうぞ。冷蔵庫にあるもので簡単に作ったんだけど。
- 男
- ありがとう。・・・すっごいおいしいね、このひじきの煮物。
- 回想、終わり。
- まろみ
- そんなわけで、付き合うことになりました!
- 田中
- まろみめ!うちのおかんの味で男を捕まえおって!
- きよこ
- ともあれ、彼氏ができてよかったね!みんなが幸せになりますように。
- きよこ・まろみ・田中
- 女の友情、123!
- 終わり。