- 街の賑やかなざわめきが聞こえてくる。
- 課長
- 「俺は、このショッピングモールの企画部課長。
ここいらでは、なかなかの規模を誇るショッピングモールだ。
今年は若年層をターゲットにした新企画、名づけて「サンタde デート」!
最近は一人寂しいクリスマスを過ごすという層を敢えてターゲット!
参加者には、ヘアメイクもつけてファッションアドバイスコミコミのセット料金。
サービス良すぎないかって?勿論、サンプルの化粧品も服や小物もここで扱ってるもの…決してハイブランド過ぎず、気に入れば無理なく即お買い上げ頂けるシステムだ
…お陰で早くも売上は上々!
後はパーティーが盛り上がって、カップルがドンドン誕生すれば大成功…!
ひょっとしてひょっとすると…課長から、次長になっちゃたりして…!?」
- 女
- あの…課長。
- 課長
- もう、次長って呼んでいいから。
- 女
- は?
- 課長
- なんでもない…ははは。
- 女
- パーティーの確認と打合せ始めていいですか?
- 課長
- おお、そうだったな…ははは。
- 女
- こちら、広場でクリスマスライブを担当しているディノさんです。
- 課長
- あ、えーと…ハウ・ドオ・ヨー?
- DJ
- 日本語で大丈夫です…初めまして。
- 課長
- 初めまして…ははは。
クリスマスライブ…評判いいみたいで、頼みますよ。
- 女
- 今回、パーティの選曲もやっていただくことにしました。
- 課長
- いいね!いいんじゃない。
- DJ
- 選曲のリクエストなどは?
- 課長
- ああ、そうだな…クリスマスソングとかでいいんじゃないかな。
ワムの「ラスト・クリスマス」とか!
- 女
- えーと…それ失恋ソングです。
- 課長
- (焦りながら)え…。
- 男
- それ、ディノさんに合わせたアメリカンジョークですよね。
- 課長
- オチを言う前にバラすなよ…ははは。
- 男
- そろそろモデルさんと、打合せ宜しいでしょうか?
- 女
- 何かショーでも?
- 課長
- 違う違うパーティーの参加者なんだよ。
- 女
- え?
- 課長
- 参加者は多くても、ルックスの程は分からんだろう?
そんな時の保険としての美男美女でもいないと皆のテンションもあがらないからな。
- 女
- それはいいんですけど、その人達に告白が殺到したらどうなるんです?
- 課長
- 君は鈍いなあ…こちらの2人がカップル成立したら全て丸く収まるだろ。
- 女
- えーと…それって…サクラ。
- 課長
- (遮って)皆まで言うな…サクラはサクラでも高嶺の花同士くっついてしまえば、
誰も傷つかないし、終わればキラキラしたクリスマスの想い出として
昇華されてしまうんもんだ。
- 女
- でも…。
- 課長
- 本当、君はダメだなあ…。
- 男
- (遮るように)課長、隣の会議室抑えておきましたのでお願いします。
- 課長
- じゃあ、明日の本番に備えてしっかり準備しておくこと。
- バタンとドアを閉めて課長出て行く。
- 女
- あの…先輩。
- 男
- 課長の事は気にするなって…イベント前だから。
- 女
- あの…あの…色々ありがとうございます。
- 男
- 明日頑張ろう。
- 女
- はい。
- 女、男を見送って思わず溜息をつく。
- DJ
- ねえ、相談いいかな?
- 女
- あ、はい…何でしょう?
- DJ
- 明日に相応しい曲について…リクエストしてもらえたらなって。
クリスマスソングもいいけど、出会いにぴったりの曲もないと盛り上がらない…だろ?
- 女
- (少し笑って)そうですね…これから出会う人達にぴったりな曲…。
- シャンシャン。クリスマスのメロディが鳴り響く。
- 課長
- 何だって…サクラの女の子がインフルエンザ!?
で、代わりは?
- 男
- 用意できない…そうです。
- 課長
- 女性が足りないと…男性が余ってしまうし。
- 女
- では、サクラの男性を出すの辞めたら…。
- 課長
- それじゃあ、女性参加者のテンションはあがんないだろ。
誰か女の子…あ!いた!
- 女
- えっ…何処ですか?
- 課長
- 君だよ…君!
- 女
- む、無理ですよ、仕事があるし。
- 課長
- 君の仕事は俺がやる…だから、出なさい。
- 女
- でも…。
- 課長
- これは、上司命令!
人数合わせと言っても、きちんとメイクとオシャレもして華やかにしてくれよ。
ハンサムとカップル成立して、やらせなんて疑われたら困るからな!
- 女
- …どうしよう。
- DJ
- いいじゃない、せっかくだからこのハプニングも楽しまなくちゃ。
- 女
- でも…こういうパーティーって経験ないし…それに。
- DJ
- それに?
- 女
- 華やかにって…どうしていいか。
観たとおり地味で冴えないし…オシャレもわからないですし。
- DJ
- 何事も楽しまなくちゃ。
- 女
- でも…自信ないです。
- DJ
- じゃあ、その「自信」プレゼントさせてもらっていかな?
- 女
- え?
- 華やかなクリスマス・ソングが聞こえてくる。
会場付近で課長と男が様子を見ている。
- 課長
- 本当…あいつに代役とか務まるのか…。
- 男
- 課長、落ち着いて下さい…大丈夫ですよ、多分。
- 課長
- 多分って。
- 男
- そろそろ始まります。
- 女
- (入ってきて)すみません、遅れちゃって。
- 男
- あ。
- 課長
- あの声…本当ダメだなあ…どうだ、少しは変身出来てるのか?
怖くて見れないよ…まるで我が子の発表会に来た親の気分だ。
- 男
- 大変身…です!
- 課長
- 何…どこだ、何処にいる?
- 男
- ほら、あの白のワンピース。
- 課長
- ええっ…魅惑の変身…だな、おい!
- 賑やかな会場。司会のアナウンスが聞こえる。
- 司会
- 「それでは今からフリータイムです!各自お話したい方の前にお集まり下さい」
- 女
- ちょっと…お化粧直しに…すみません。
- 女、輪の中から抜けだす。
- 女
- (溜息を付いて)…。
- 男
- …お疲れ様。
- 女
- わっ、先輩…おどかさないで下さい。 あの…サクラの人って結構いるんですか?
- 男
- え?
- 女
- だって、何人もの男の人が私のところに。
- 男
- サクラは一人だけ…。
- 女
- えっ!?じゃあ、あの人達は?
- 男
- 種も仕掛けもない参加者の人達。
- 女
- どういうことですか?
- 男
- 君が…その…素敵だから…じゃないかな。
- 女
- え?
- 課長と歌手がやってくる。
- 課長
- おお、サンタ姿とは、まさしくサンタ deデートにぴったりだ!ダンディだ!
- DJ
- ええ、サンタから…皆さんの出会いに相応しい曲をプレゼントしますよ。
- 課長
- 頼みますよ…ほら、お前こんなとこでさぼってないで行くぞ。
- 男
- は…はい。
- 課長と男、行ってしまう。
- 女
- あ…。
- DJ
- どう、僕のプレゼント?
- 女
- 何といっていいか…驚くことばっかりで…自分なのに自分じゃない誰かみたいで…。
- DJ
- どうしたの…なんだか浮かない顔だね?
- 女
- いえ、こんなに変身させてもらって…嬉しいです、本当に…でも…。
- DJ
- でも?
- 女
- 好きでもない人と…例えウソでもカップルになっちゃうなんて。
そんなことしたら、私のこの気持ちが、変わっちゃうんじゃないかって…。
- DJ
- あの先輩…だね?
- 女
- はい…もし、気持ちが変わらなくても…私から何にも出来ないんですけど。
どっちにしたって何も出来ないのに…バカですよね。
- DJ
- 誰でもいつか誰かと恋をする…。
恋は待ってるよりも、したほうがいいじゃないか。
- 女
- …それって。
- DJ
- 君からのリクエスト。
- 音楽(everybody loves somebody)が流れてくる。
拍手。
- 司会
- 「誰でもいつか誰かと恋をする。今日の日にぴったりな一曲ですね」
- 課長、感激して拍手している。
- 課長
- いいぞ!アンコール!アンコール!
- 司会
- 「それではいよいよ告白タイムです!」
- ドラムロール。ジャジャーン。
- 司会
- 「まずは1番の女性への告白タイムです」
- 大勢の男性が「お願いします」と口々に女の前に並ぶ。
- 課長
- 大人気じゃないか…出来レースって分かってても、なんか緊張するなあ。
- 女
- あの…ごめんなさい!
- 課長・男
- え!?
- 女、男のもとに走ってくる。
- 課長
- ちょっと、君…段取り違うでしょ!?
- 女
- 課長すみません…1分だけ静かにしてもらえませんか
- 課長
- (押されて)わかった…。
- 女
- 先輩…私…
今まで自分が誰かのこと好きになったり出来るのかなってずっと思ってました。
それと…その誰かに…私を好きになってもらうことってあるのかなって。
好きになってもらうことがなかったら、好きになんてならないほうがいいのかなって…
でも、やっぱりどんなにメイクや洋服で自分を変えたって、
気持ちを変えるのって出来ないもんなんですね。
いつかはって思ってたけど、そのいつかって今だって分かったから言います。
あの…私…私…先輩のことが…。
- DJ
- (肩を叩いて)課長さん!
- 課長
- わっ!いいとこなのに!
- DJ
- 本当あなた、アイディアマンですね。
- 課長
- まあ…まあね…でしょう?
- DJ
- おかげで僕の仕事もはかどりました。
今日は10組のカップルが誕生…いや、彼女達もいれると11組か。
なかなか恋のプレゼントってのは、骨が折れる仕事でね。
- 課長
- えーと?
- DJ
- 全世界の人に恋をプレゼントするのが、僕の仕事なんですよ。
- 課長
- 何、サンタクロースみたいな…えっ、ちょっと…そうなの!?
- DJ
- でも、あんまり「コイ」は「こい」でも「恋」でお金を釣ろうとしすぎるのは感心しませんね。
- 課長
- はい…気をつけます。
あ、あの…お願いが…私にも「恋」のプレゼント…。
- DJ
- え、まだでしたっけ?
- 課長
- …はい。
- DJ
- うーん…では…また来年。
- 課長
- ええっー!!
- シャンシャンと音と共に音楽が流れてくる。
- おしまい。