- 【1:ラブホにて】
- ラジオの声
- 繰り返します。世界は終わりません。世界は終わりません。
NASAの発表は完全なる誤報でした。
もう一度繰り返します。世界は終わりません・・・・
- 男1
- えーー!
- 女1
- まじでーー!
- 男1
- クリスマスに地球滅ぶって言ったじゃん!
- 女1
- 絶対に隕石落ちて来るって言ったじゃん!
- 男1
- なんなんだよ、誤報って!
- 女1
- ありえないんだけど!
- 男1
- ってか、お前だれだよ!
- 女1
- はーー?
- 男1
- なんでこんな得体の知れない女とラブホにいるんだよ、俺は!
- 女1
- あんたから誘って来たんでしょ!
- 男1
- お前だろーが、バカ!
- 女1
- いやいやいや、何言ってんの
- 男1
- 地球最後の日、お願い抱いてって言ったのお前だろ!
- 女1
- 言いましたよ!言いましたけど!
- 男1
- ほらみろよ!
- 女1
- 初めに抱きついてきたのあなたでしょ!
- 男1
- 明日からまた日常はじまんのかよぉ
- 女1
- 聞いて!私の話!
- 男1
- 会社行きたくないよ
- 女1
- どーでもいいけど、アタシの上から早く降りてくれる?
- 男1
- うるせえ!なえたわ!
- 女1
- 一緒に死のう!一緒に死のう!って泣きながらのしかかってきたの誰よ!
- 男1
- うるせえんだよ!
- 女1
- アタシの操、返してよ!
- 男1
- 俺の涙返せよ!
- 女1
- 最悪・・・・
- 男1
- それはこっちの台詞だよ!
- 女1
- 子供で来たらどーすんのよ!
- 男1
- めでてーよ!
- 女1
- はあ?
- 男1
- おめでたいって言ったんだよ!
- 女1
- じゃあ、一緒にお祝いしてよ!
- 男1
- 世間一般の話だよ!
- 女1
- とにかく、責任とってよね!
- 男1
- 事故だよ!事故!
- 女1
- そんな言い方!?
- 男1
- じゃあ、どんな言い方がいいんだよ!
- 女1
- なんか、もっと、愛情のある言い方あるでしょ!
- 男1
- 愛情なんてなかったよ!
- 女1
- ちょっとは気をつかってよ!
- 男1
- だって、お前に愛情なんてカケラもねーんだからよ!
- 女1
- アタシは・・・アタシはあったわよ!
- 男1
- え?
- 女1
- 無法地帯になった街角で、泣きながら誘ってくれたあなたに、
ちょっといいなって思ったわよ!
- 男1
- ええ?
- 女1
- なのに・・・なのに・・・
- 男1
- いや、あの・・・
- 女1
- タイプだったのに・・・
- 男1
- 俺も、まあ、言い過ぎ・・・・
- 女1
- チュッチュ、チュッチュしてくれたじゃない・・・
- 男1
- キス好きなもんで・・・
- 女1
- 今日、クリスマスなんだよ・・・・
- 男1
- えと、とりあえず、もう一回しよっか
- 【2:会社にて】
- ラジオの声
- もう一度繰り返します。
世界は終わりません。世界は終わりません・・・・・
- 男2
- はい。丸山商事でございます。はい、はい、いつもお世話になっております。らしいですね。世界、終わらなかったみたいで。
ええ、はあ、明日から、通常通りお取り引きさせて頂くということで、
ええ、はい。こちらこそ、どうぞよろしくお願いいたします。
はい、はい、お待ちしております(切る)
- 女2
- あの
- 男2
- わ、びっくりした
- 女2
- すいません。驚かしちゃって
- 男2
- 僕以外にもいたんだ、出社した人
- 女2
- あ、はい。なんか、どうすればいいか、分かんなくて
- 男2
- 僕もなんだよ。家族がある訳でもないし、
とりたてて世界の終わりにやりたいこともなくって
- 女2
- 一緒です
- 男2
- どこの部署?
- 女2
- 庶務課です
- 男2
- 全滅?
- 女2
- はい。誰も出社してません
- 男2
- うちも
- 女2
- タイムカード、押しました?
- 男2
- 押した押した
- 女2
- 私も
- 男2
- 習慣って恐いですよね
- 女2
- ほんとに
- 男2
- お茶、いれてもらってもいい?
- 女2
- あ、はい
- 電話が鳴る。
- 男2
- はい、丸山商事でございます。あ、社長ですか。
はい、はい、私一人でございます。ええ、そうですね。
あとは庶務課のOLが一人ですね。
はい、はい、ええ!本当ですか?私、ただいま、主任ですが・・・
はあ、では課長に。ありがとうございます。
彼女は・・・ああ、なるほど、ではそのように伝えておきます。
はいはい、ありがとうございます。失礼いたします(切る)
- 女2
- お待たせしました
- 男2
- ありがとう
- 女2
- けっこう、電話かかってくるんですね
- 男2
- まあね。今の、社長からだったんだ
- 女2
- 社長
- 男2
- そう。で、僕を営業課の課長にしてくれるって
- 女2
- すごいじゃないですか!
- 男2
- まあ、いきなりでちょっと戸惑うけど
- 女2
- おめでとうございます
- 男2
- ありがとう
- 女2
- ほんと、よかったですね
- 男2
- うん。しかも、ボーナスに給料一年分くれるって
- 女2
- すごい
- 男2
- もちろん、君にもくれるって
- 女2
- 私も?
- 男2
- 最高のクリスマスプレゼントだね
- 女2
- ただ出社しただけなのに
- 男2
- ほんとに
- 女2
- 仕事終わったら、どっかお祝いしに行きません?
- 男2
- お、いいね
- 女2
- 昇進祝いです
- 男2
- ちゃんと店やってるかな?
- 女2
- 私たちみたいな人も、世の中にはいますよ
- 男2
- そうだね。じゃあ、終業まであと4時間半、まじめに仕事するか
- 女2
- はい、課長
- 【3:路地裏にて】
- ラジオの声
- 世界は終わりません。もう一度繰り返します。世界は終わりません・・・
- 女3
- 世界、終わんないんだって
- 男3
- あららー、そりゃあ、まずいなあ・・・・
- 女3
- まずいわね・・・・
- 男3
- こいつ、誰?
- 女3
- さあ・・・・・
- 男3
- 君も、誰?
- 女3
- まあ、あなたと同じような趣味ってことだけは確かね
- 男3
- だねー
- 女3
- どうする?
- 男3
- どうしよっか
- 女3
- 隠す?
- 男3
- 自殺に見せかけるとか
- 女3
- でもまあ、この人が言ったからね
- 男3
- ネットって便利
- 女3
- ねー
- 男3
- やっぱ、
- 女3
- かもねー
- 男3
- ちゃんと地球終わってくれりゃあ良かったのに
- 女3
- ほんと
- 男3
- あーあ、どうすんだよこれ
- 女3
- どうしようもないね
- 男3
- つーかその釘バット、お手製?
- 女3
- うん。昔のヤンキー風
- 男3
- へー。俺もお手製
- 女3
- よくそんなでっかいハンマー作ったね
- 男3
- なんか、漫画っぽく
- 女3
- あ、分かるなあ、それ
- 男3
- 100万トンハンマーみたいな
- 女3
- ははは。ふるー
- 男3
- 君に言われたくないよ
- 女3
- 私のはノスタルジック。貴方のはオールド
- 男3
- そこは分かんないわ
- 女3
- ま、色んな趣味があるから
- 男3
- 結局、どっちのが致命傷だったんだろ
- 女3
- そりゃあ、やっぱり貴方じゃない?
- 男3
- いやいや、君でしょ
- 女3
- あなた、そんなでっかいのでお腹、思いっきりいったでしょ
- 男3
- 君こそ後頭部直撃しただろ
- 女3
- 先に手を出したの、あなたじゃない
- 男3
- そりゃそうだけど
- 女3
- 決まりね
- 男3
- ちょっと待てよ。
- 女3
- まあ、あなたが静かにさせてくれたおかげで
- 男3
- なんかひっかかるなあ、その言い方
- 女3
- どっちでもよくない、これ
- 男3
- まあね
- 女3
- どっちもどっちだわ
- 男3
- じゃあ、共犯ってことで
- 女3
- そうね。とりあえず、逃げる?
- 男3
- だな
- 女3
- ええ
- 男3
- その前に記念写メとっとこ。自撮りでさんにいいち・・・
- 釘バットが男2の頭を
- 女2
- メリー・クリスマス
- 【4:屋上にて】
- ラジオの声
- 繰り返します。世界は終わりません。世界は終わりません・・・・
- 男4・女4
- やったーーー!
- 男4
- ぼくらのお祈りが通じたんだ
- 女4
- ほんとだね
- 男4
- 僕らが、僕らが世界を救ったんだよ!
- 女4
- すごくない!?
- 男4
- すごいどころじゃないよ。めっちゃくちゃすごいよ!
- 女4
- 神様ってほんとにいるのね
- 男4
- そりゃそうさ。人類が滅んでしまったら、一体誰が神様にお祈りするんだい
- 女4
- 神様だって困っちゃうもんね
- 男4
- うん
- 女4
- あの
- 男4
- なに
- 女4
- 私、この屋上から飛んで死のうと思ってたの
- 男4
- え?
- 女4
- 世界が滅ぶのをこの目で見たくなかった。
まだ世界が元気なうちに死んでしまいたかった
- 男4
- 実は、僕もそうなんだ
- 女4
- あなたも?
- 男4
- けど、晴れ渡った空の下に広がる風景を眺めていたら、
この世界が滅ぶなんて思えなかった
- 女4
- うん
- 男4
- お祈りすれば、まだまだ世界は続くって思った
- 女4
- そして、その通りになったのね
- 男4
- 君と僕のお祈りで
- 女4
- ええ
- 男4
- メリー・クリスマス
- 女4
- あ、そうか。すっかり忘れてた
- 男4
- だいたい、こんな日に世界が滅ぶはずないんだ
- 女4
- そうね。神様の誕生日に
- 男4
- ほんとだ
- 女4
- メリー・クリスマス
- 男4
- メリー・クリスマス
- ラジオの声
- ・・・もう一度繰り返します。世界は滅びません。
この奇跡を祝って、みなでお祈りしましょう。
なんたって今夜は聖なる夜。メリー・クリスマス
- (了)