街の賑やかなざわめきが聞こえてくる。
場内アナウンス 「よいこの皆さん、お待ちかねのサンタさんですよー。」
子どもたちの歓声があがる。
「わー、サンタさん!」「ママ、サンタさん!」「サンタさーん」
口々に子どもたちの賑やかな歓声が聞こえてくる。
「俺は、このショッピングモールの企画部課長代行。
今年のクリスマス商戦の目玉として、サンタクロースの握手と撮影会を企画したんだ。勿論、本物じゃないけどな。えっ・・・・写真1枚とって、せこい商売してるのかって?
違う違う・・・・全て無料・・・・
金になるのは子どもたちとサンタさんの心温まる一時にある!
どうだい、なかなかのもんだろ?
このサービスでクリスマス商戦は、好調の滑り出し・・・・・・
今回の企画が大成功すれば課長代行から課長になっちゃうかもなあ・・・・・。」
社員
あのー、課長代行。
もう、課長って呼んでいいから。
社員
は?
えっ・・・・・なんでもないなんでもない。
社員
そろそろ、サンタタイム終わるんですけど。
そうか・・・・・・サンタさん今日もお疲れ様。
それにしても堪能な日本語だ・・・・ずっとこっちで生活を?
サンタ
(笑いながら)年に一度とはいえ、世界中を飛び回っておりますから。
おお、流石だ・・・・・サンタになりきっている。
それじゃあこちらも見習って・・・・北極だっけ?お帰りの時間です。
社員
えっ・・・・フィンランドじゃないんですか?
いや・・・・スウェーデンだったかなあ・・・・・えーと。
えっ、そうなの・・・・って、どっちでもいいよ。
とにかく、また明日ってことで。
サンタ
ちょっと待って頂いてもいいですかな・・・・・あの子が。
少女が、少し離れた所でサンタを見ている。
本当だ・・・・・お嬢ちゃん、一人?
少女
(少し怯えて)・・・・・・・・・・。
社員
(優しく)えーと・・・・・・お母さんは一緒じゃないのかな?
少女
・・・・お母さんと、はぐれちゃって。
(ぶつぶつと)なんで、あいつには普通に話すんだ・・・やっぱり顔・・・。
社員
じゃあ・・・・迷子センターに一緒に行こうか。
ああ、その前に届けがないかセンターに電話してくれ。
社員
はい。
少女
ねえ・・・サンタさんなの・・・・・ほんとに?
サンタ
(笑って)そうだよ。
少女
わあ、嬉しい・・・・会いたかったよ!
サンタ
そうかい・・・・わしも、こなたちゃんに会えて嬉しいよ。
少女
わあ!
母親
こなた・・・・・探したのよ!
少女
あ・・・・・お母さん、サンタさんいたんだよ、本当に!
お母さん、見つかって良かったね・・・・
あの、良かったら記念撮影も出来ますよ、いかがですか?
母親
娘がお世話になりました・・・・・でも、写真は結構です。
サンタさんからの、ささやかなプレゼントタイムってことで
お代はかかりませんので・・・・・。
母親
(遮るように)帰りましょう・・・・・。
少女
お母さん・・・・サンタさんと、もうちょっとお喋りしたいよ。
母親
こなた・・・・・また、そんなこと言ってるの?
この人はサンタの衣装を着てる、ただの外国のおじいさん。
少女
でも・・・・・。
母親
サンタは世の中の人達が作ったおとぎ話なのよ・・・・
プレゼントならお母さんが、こなたが欲しがってた人形買ってあげるから。
少女
(泣きそうになって)・・・・違うの。
母親
何が違うの?
少女
・・・・・・。
なんて・・・親なんだ・・・。
母親
何か言いました?
(ごまかし笑いを浮かべて)いえ・・・・なんでも・・・。
少女、サンタに駆け寄っていく。
少女
ねえ、本当のサンタさんだよね。
サンタ
(笑って)正真正銘のサンタですよ。
少女
ほらね!
サンタ
明日、この広場に来てください・・・・二人にプレゼントを用意してますから。
母親
迷惑なんですけど・・・。
少女
サンタさん・・・・あたしが、本当に欲しいプレゼント分かるの?
サンタ
もちろんさ・・・・・サンタだからね。
少女
母親
さ、いきましょう・・・・・。
少女
サンタさーん、またあしたー。
サンタ
二人共・・・・・待ってるから。
少女、母親に手を引かれて帰っていく。
なんなんだ、あの母親!?
社員
・・・・・・・・・。
どうした・・・・そんなとこにいたのか。
まあ・・・・無理もないか、あんな母親見たら俺だって隠れたいよ。
社員
昔は、あんな風じゃなかったのに・・・・。
えっ・・・・・知り合い?
社員
ええっ・・・・まあ・・・・・。
何・・・・・ひょっとして、恋人だったりとか?
社員
・・・・・・・・・・・。
冗談だったんだけど・・・・・えーと、仕事に戻らないと。
男、ごまかすように笑って、その場を去っていく。
社員、溜息を付いて、サンタが側にいるのに気づく。
サンタ
コーヒーでも、どうかね?
社員
ありがとうございます・・・・。
サンタ
あの人のことが、気になってるんだね・・・・。
社員
・・・・・・はい。
サンタ
さっき、どうして声をかけなかったのかね?
社員
何て言ったらいいかとか・・・・・なんだかんだと勇気がないんですよ、僕は。
サンタ
その「勇気」・・・・プレゼントさせてもらえないかな?
社員
え・・・・・?
シャンシャン。クリスマスのメロディが鳴り響く。
何だって・・・・こんな時にサンタが来ないんだよ。
今日が一番盛り上がるのに・・・・・あいつがサンタ役をやるっていうから任せたど・・・・・大丈夫かなあ・・・・・って、ちゃんとやれてるじゃないか。
少女
お母さん、こっちこっち。
あ、昨日の・・・・・あいつ、大丈夫か・・・・。
少女
あれ・・・・昨日のサンタさんと違う。
母親
ほら言ったでしょ・・・・サンタなんていないのよ。
社員
いえ・・・・サンタです。
母親
雇われのね。
社員
見習いサンタです・・・・・今、サンタさんプレゼント持ってくる最中で。
ちょっと遅れてるんです。
母親
また、そんな話しないで。
社員
どうして・・・・・ですか?
母親
商売とか、道徳心で言ってるんでしょうけど・・・私は娘のために言ってるの。
いつか王子様が迎えに来てくれるとか、みんな幸せに暮らしましたとか、
そんな甘い話聞かされて育たって・・・・
大人になれば厳しい現実が待ってるんだもの・・・・・変な期待とかさせたくないの。
社員
でも・・・・・君・・・・あなたにも子供の時や夢見たりした時があったでしょう?
母親
(溜息を付いて)・・・・ひとつ、おとぎ話を聞かせてあげる。
昔々・・・・あるところに若い娘がおりました。
ある日、娘は王子様と出会って・・・・2人はすぐに恋に落ちました。
しかし、幸せな毎日は長くは続きませんでした・・・・
ある日、王子様は旅に出かけると言い出したのです。
娘は・・・・王子を信じて待つことにしました。
王子が旅立ってから、しばらくすると娘は子供を授かったことに気づきます。
社員
・・・・・・・・え?
母親
やがて、娘の元へ子供が誕生しましたが・・・・それでも王子は・・・・。
娘は待ち続けましたが・・・・やはり王子は迎えにはきませんでした。
だから、娘はもう待つのをやめることにしたのです。
社員
・・・・・・・・・・。
母親
この話は、ここでおしまい・・・行きましょう。
少女
でも・・・・・。
社員
待って・・・下さい・・僕の話を聞いて欲しい・・・んです。
母親
え・・・・あなた・・・。
社員
ある一人の若い男は、ある娘と恋に落ちました・・・・。
娘は男のことを王子だと信じていました・・・・・。
男は、娘に相応しい「王子」になろうと旅に出ることにしました。
でも、何も、出来なかった自分が恥ずかしかった。
娘に王子じゃないことがばれてしまう・・・・僕は、ただの見栄っ張りだから。
それでも、娘に・・・いえ、君に会いに行きました・・・・・そこには誰もいませんでした・・・・
必死にさがしたけど・・・・見つけられなくて。
そして・・・こう思いました
「娘は自分に愛想を尽かして本当の王子を見つけたんだ」って・・・・。
母親
皮肉なお話ね・・・・。
社員
(サンタのヒゲと帽子を取って)本当に・・・・・色々ごめん。
母親
どうして?
社員
あの時・・・・もう僕のことを、忘れてしまったんだって・・・・思ったんだ。
ずっと、待っててくれてたのに・・・・・君のこと信じる勇気がなくて、ごめん。
母親
・・・・どうして、謝るのよ。
社員
何も知らなくて・・・・・辛い思いさせてごめん、本当に。
もう一度・・・・僕を信じてもらえないかなって・・・・。
母親
(少し笑って)私の王子様は・・・・こんなによく泣く人だったかな。
陰で様子を見ていた男が泣いている。
なんかよく分かんないけど、良かった、良かった・・・・。
サンタ
ハンカチ、どうぞ。
ありがとう・・・・あんた、無断欠勤だめだよ。
サンタ
シーッ、静かに。
少女
お母さん・・・・・どうして笑いながら泣いてるの?
母親
なんでかしらね・・・・・思わぬプレゼントもらったからかな。
少女
あのサンタさん・・・・本物だった。
母親
え?
少女
あたし・・・・・人形じゃなくて、お父さんに会いたいって思ってたの。
ええっ・・本物なの!?
サンタ
でも、あんまり商売ばっかりも関心しないな・・・・
クリスマスは大切な人と今に感謝する日なんだから。
はい・・・・・気をつけます。
サンタ
では・・・・また来年。
シャンシャンと音が聞こえてくる。少女の楽しそうな笑い声と親子の会話。
音楽が流れてくる。
おしまい。