- 1
- 同僚
- 神沢、すまん。残業変わってくれねーか?
これからデートあんのすっかり忘れててさ
- 神沢
- おお、イエス
- 同僚
- ついでに、金も貸してくんねーか?手元がさみしくって
- 神沢
- イエス、イエス
- 同僚
- あ、俺のタイムカード、お前が帰る時に一緒に押しといて。
来月、いろいろ物入りでさ、ちょとでも残業代稼ぎたいんだよ
- 神沢
- イエ・・・イエス
- 同僚
- さすが神沢イエス様!恩に着るよ!
- 神沢
- イエス
- 同僚
- じゃあ、頼んだぜ!
- 2
- 神沢
- わたくし神沢雄平は、ルックスも年収も、いたって普通のサラリーマン。
ただ、人に頼み事をされるといやとは言えない性格で、
なんでもかんでも「イエス」と答えてしまう。
それでみんなが幸せになるなら、いいじゃないか
- マリア
- で、今日の私のデートすっぽかしたわけ?
- 神沢
- イエス・・・
- マリア
- イエスじゃなわよ。雄平、
あなたのこと、みんながなんて呼んでるか知ってる?
- 神沢
- 神沢、イエス・・・
- マリア
- そうよ。なんでもかんでもイエス、
イエスって言うこと聞いてくれる神沢イエス
- 神沢
- でもさ、神様の名前と同じってちょっと嬉しいかも
- マリア
- どこまで人がいいの!
- 神沢
- 君だってマリアって名前だろ。いいカップルだよ、僕たち
- マリア
- 私はあなたのお母さんじゃない!
- 3
- 神沢
- マリアとは高校時代から付き合い始め、
どんくさい僕をいつも助けてくれている。
彼女っていうよりも家族、ってか、
それがマリアには気に入らないらしい。
来月には、あいつと付き合い出して10回目のクリスマス。
腐れ縁っていわれても仕方がない年月だ・・・・
- 4
- ヤクザ
- あいて!
- 神沢
- あ、すいません!
- ヤクザ
- ちゃんと前見て歩けよ!
- 神沢
- イ、イエス!
- ヤクザ
- なんだあ?てめえ、アメリカ人か?
- 神沢
- イエス!
- ヤクザ
- はあ?なめてんのか!?
- 神沢
- イエス!
- ヤクザ
- いい度胸してんじゃねえか!ちょっとフェイス貸せや!
- 神沢
- イエス!イエス!
- 占師
- ちょっとお待ちなさい!
- ヤクザ
- なんだ、ばばあ!
- 占師
- あんたにゃね、悪霊が取り憑いているよ!
- ヤクザ
- いきなりなんなんだ!
- 占師
- 右肩にものすごいのが覆いかぶさってるよ!
- ヤクザ
- やめろよ!俺は、子供の頃からお化けが苦手なんだよ・・・
- 占師
- さては、最近なんか食べ残したね!
- ヤクザ
- 昨日、トンカツかな・・・
- 占師
- それだ!あんたに取り憑いてるのは豚だよ!
- ヤクザ
- ひーー!どうすりゃいいんだ!
- 占師
- 今すぐトンカツ食って成仏させてやりな!
- ヤクザ
- くいます!くいますー!(逃げる)
- 占師
- キャベツもしっかり食べるんだよ!
- 神沢
- すいません。助けて頂いて
- 占師
- いいんだよ。それより、どうやらあんたも取り憑かれてるようだね
- 神沢
- ええ!また豚ですか?
- 占師
- ありゃあ、でまかせだよ。あんたのはもっといいもんだ
- 神沢
- いいもの?
- 5
- 神沢
- 謎のばあさんは占師だった。
- 占師
- 人類みな兄弟なんだよ
- 神沢
- はあ。イエス、分かりました
- 占師
- あんたのそのイエスは世界を救うイエスなんだ
- 神沢
- どういうことですか?
- 占師
- 一生懸命働いても、誰からもほめられない人たち。
愚痴をいいたくても誰にも話を聞いてもらえない人たち。
世の中にゃあ、そんな人間がゴマンといるんだよ
- 神沢
- イエス
- 占師
- そう!そこで、あんたのイエスだ!
生きることすべてを肯定してくれる黄金の言葉「イエス」!
世界はあんたの登場をまっているんだよ!
- 神沢
- おお、イエス!
- 6
- 神沢
- それから、僕の生活は一変した。
人生に迷える大勢の人々が僕のもとに詰めかけたのだ。
彼らの悩みに答えるぼくの「イエス」は大評判となり、
またたくまに有給を使い果たした僕は、
敏腕プロデューサーの占師のばあさんにそそのかされ、
会社をやめ、ひたすら毎日「イエス」と言い続けた。
- 7
- 女
- でね、私、これでも一生懸命子育て頑張ってきたんですよ
- 神沢
- イエス
- 女
- なのに、旦那ったら子供がグレたのはお前のせいだって。だいたい、
家に帰ってこないあの人が悪いんですよ!
- 神沢
- イエス
- 女
- そうですよね!私、頑張ってますもんね!
- 神沢
- イエス!
- *
- 男
- 地球って終わんないですよね
- 神沢
- イエス
- 男
- 人類って絶滅しないですよね
- 神沢
- イエス
- 男
- 僕、漫画家に向いてますよね!
- 神沢
- イエス!
- 客たち、口々に悩みをぶつけて来る。
- 神沢
- イエス!イエス!みんなまとめてイエーーース!
- 携帯電話の着信音。
- 神沢
- もしもし、マリア、ごめん。連絡しなくて。今ね、すっごく忙しいんだ。
来週のクリスマス?勿論、空けてるよ。そんなことより、今の僕は・・・
- 占師
- なにしてんだ!次のお客様がつかえてるよ!
- 神沢
- いえ、ちょっと、彼女が・・・・
- 占師
- あとにしな!(携帯を切る)
- 神沢
- マリア!
- 占師
- 来週まで予約でイッパイなんだよ。
特に、クリスマスは朝から晩までびっちりだ
- 神沢
- ええ!
- 占師
- なんてったってあんたの誕生日だからね!
- 神沢
- あの、クリスマスは・・・
- 占師
- たのんだよ!
- 神沢
- イエス!
- 8
- 神沢
- クリスマス当日、夜明けとともに人々が殺到した。
あれからマリアとは連絡がとれていない。けれど、これだけ有名になれば、
少しは僕のことを見直してくれるだろう。・・・
にしても、忙しすぎる。少しは休憩させて欲しい!
- 占師
- だめだよ!もう一踏ん張りしな!
- 神沢
- イエス!
- 占師
- はいはい、押さないで!クリスマスは特別料金ですからね!
次のかたどうぞ!
- 9
- 神沢
- マリア!
- マリア
- 雄平・・・
- 同僚
- あら?神沢イエスじゃん。お前、会社やめてほんとの神様になったんんだ
- 神沢
- イエス
- 同僚
- マリアちゃん、知り合い?
- マリア
- 同級生で・・・
- 同僚
- ふーん。偶然って不思議だねー。
でも、俺とマリアちゃんが出会えた偶然の方がもっと不思議で素敵だけど!
- 神沢
- マリア、どういうことだよ!
- マリア
- 雄平が悪いんだよ!私のこと、クリスマスにほったらかしにするから!
- 神沢
- だって、これもお前と・・・
- 同僚
- 神沢!俺は客で来てるんだ!話をするのはこっちの方だよ!
- 神沢
- イ、イエス
- 同僚
- 神沢、聞いてください。このマリアさんと出会ってまだ一週間なんですけど、僕は本気で好きになっちゃたんです
- 神沢
- イエス・・・
- 同僚
- つきあっちゃってもいいですか?
- 神沢
- ・・・イエス
- マリア
- 雄平
- 同僚
- なんだったら結婚したいぐらいなんですーー
- 神沢
- イ・・・イ・・・
- 同僚
- さっさと言えよ!
- マリア
- 雄平!
- 神沢
- イ・・・
- 同僚
- なんだって?
- 神沢
- ノーーーーーーーー!
- 10
- 神沢
- 僕は、マリアの手を握り部屋を飛び出した
- 占師
- どこ行くんだい!
- 客たち
- 神沢!神沢!
- 神沢
- 人々の行列をかき分け、走りに走り、
クリスマスソングのあふれる町の中を駆け抜けた
- マリア
- 雄平、もう、いいよ!
- 神沢
- (息を切らしながら)イエス
- マリア
- 見て、雪が降ってる
- 神沢
- ほんとだ・・・
- マリア
- 高二の時、初めてのクリスマスも雪降ってたね
- 神沢
- イエス
- マリア
- イエスっていうの、もうやめてよ
覚えてる?10年前の約束?
- 神沢
- うん。でもあんな子供みたいな約束
- マリア
- たまには、私にもイエスって言わせてよ
- 神沢
- ・・・また、雪が降るクリスマスを二人で向かえられたら、
その時は結婚しよう
- マリア
- イエス!
- 11
- 神沢
- わたくし神沢雄平は、ルックスも年収も、いたって普通のサラリーマン。
ただ、人に頼み事をされるといやとは言えない性格で、
なんでもかんでも「イエス」と答えてしまう。
それでみんなが幸せになるなら、いいじゃないかって思ってたけど、
今夜はマリアの「イエス」が僕を幸せにしてくれた。
しまった!俺、会社やめちゃってた!結婚すんのにどうしよう
- マリア
- いいよ。しばらくは私にまかせて
- 神沢
- ああ、マリア様!
- マリア
- 私はあなたのお母さんじゃないからね!
- 神沢
- イエス!
- 二人、笑い合う。
- (了)