- 大山
- 俺の名前はクリス・マス大山。勿論、本名ではない。
イブとクリスマスの二日間だけ、
俺は敬愛する格闘家の名前を冠した猛者になるのだ。うあた!
(ボフと何かを殴る音)うあた!(ボフ)うあた!(ボフ)
うあたああああ!(ボフボフボフ)
- きしんだドアが開く音。
- グレート
- コジマダ君、遅くなってごめんねー。ああ、さぶー。
コタツいれてー。枕なんて殴って、もう、ヤルキまんまんだね
- 大山
- ちょっと!今日は何の日か分かってんすか?
- グレート
- イブでしょ
- 大山
- 本名禁止っすよ!
- グレート
- ああ、ごめん、クリス
- 大山
- 略さないでくださいよ!
- 大山
- この男の名前はグレート登校拒否。俺の兄貴分にあたるのだが、
別に登校拒否していた訳ではない。
「その顔、登校拒否してたでしょ」って
やたら人から指摘されてついたあだ名だ
- グレート
- (くしゃみ)甘酒とかないの?
- 大山
- グレート兄さん。目標達成まであと7匹なんすよ!
- グレート
- もうさ、なんかめんど臭くね?
- 大山
- なにいってんすか!
5年前から始めたクリスマスのカップル狩り、
我々の敬愛するマス大山先生の牛殺し47匹になぞらえ、
47組のカップルを襲うまでは
彼女作らないって決めたじゃないですか!
- グレート
- 作らないってゆうか、作れなかったんだろ
- 大山
- そんなんじゃあグレート登校拒否の名前が泣きますよ!
- グレート
- こんなあだ名だから泣かされ続けてきたんだよ、俺の人生!
- *
- 大山
- 泣きながらコタツにしがみついたグレート兄さんをようやく引きはがし、
我々は繁華街へと向かった。
キリストの生誕を祝う気もないカップルどもが
所狭しと我が物顔で闊歩している
- グレート
- いやあ、みんな楽しそうだなあ
- 大山
- ぬうう!愛のブルジョアどもめ!
- グレート
- おい、心の声がもれてるよ
- 大山
- 兄さん、今年はどんなハンティングにするんすか!?
- グレート
- 女の彼氏のふりして因縁つけるんだよ
- 大山
- 最高っす!
- 大山
- さっそく俺たちはカップルを物色しはじめた。
俺たちの仕掛けた攻撃でケンカがはじまったり、
どちらかが怒って帰れば、狩りは成功なのだ
- *
- 大山
- なんなんだよその男はー!俺とデートのはずだっただろー
- 女
- え?なになに
- 男1
- 誰なんだよ、この男?
- 女
- 知らないって、こんなやつ
- グレート
- あー、いたいたー!明日っからのラブラブ温泉旅行なんだけどさー
- 女
- マジでなにこれ!
- 男1
- やっぱお前、俺以外にも男いたんだな!
- 女
- ちょっと、やっぱってどういう意味よ!
- *
- 大山
- グレート兄さんの作戦は図にあたった。
特にフレッシュなカップルには効果テキメンだった。
俺たちはこどもシャンペンで乾杯した
- 大山・グ
- かんぱーい・・・・ぷはあ!
- 大山
- あと一組っすよ!
- グレート
- イブでこの戦績とは自分の才能が恐ろしい
- 大山
- いよいよ五年間の大願成就!
- グレート
- 明日のクリスマスからは、晴れて彼女がつくれるぞ!
- 大山・グ
- うおおおおおお!
- グレート
- あ
- 大山
- なんすか?
- グレート
- 力道さんだ!
- 大山
- 力道さん。
- グレート
- 今年も違う男と歩いてやがる!
- 大山
- 兄さん、たのんます!
- グレート
- うおいうおいうおい、俺の女と聖夜になにしてんだよ!
- 大山
- チノパン、ネルシャツなのにチンピラキャラ!
- グレート
- おい、おまえよー、この女は俺の女なんだよ!
- 大山
- 俺は対力道さん戦には毎年参加していない。
なぜなら、もろにタイプ過ぎるからだ。
その分、グレート兄さんが張り切って攻撃してくれる。
五年前の初戦から、毎年なぜか巡り合う最強の女。たのむぜ、兄さん!
- 男2
- なんだてめええ!
- グレート
- は?
- 男2
- なんか文句あんのか!
- 大山
- しまった!相手はほんとのチンピラだ!
- グレート
- えっと、なんか、人違いでした、みたいな・・・
- 力道さん
- よっくん
- 男2
- はい、お嬢様
- 力道さん
- 急用思い出したから、今日はもう帰って
- 男2
- しかし・・・・
- 力道さん
- 帰って
- 男2
- それでは、親分に・・・
- 力道さん
- 帰って!
- 大山
- 力道さんの一喝で、
兄さんの胸ぐらをつかんでいた男はすごすごとその場を去った。
と、今度はつかつかと電信柱の陰の俺の所にやってきたではないか!
- 力道さん
- ねえ、デートしない?
- *
- 大山
- その後のことはあまりよく覚えていない。彼女に腕を組まされ、
ウインドーショッピングや個室でディナーに引き回され、
今はこうして、広場に設置された巨大クリスマスツリーの
ロマンチックな輝きの前で二人並んでホットワインをすすっている
- 力道さん
- 初めて会ったの、五年前だよね
- 大山
- そ、そうです
- 力道さん
- 登校拒否してたような顔した人って友達?
- 大山
- ええ、まあ
- 力道さん
- どうして君が直接わたしの所にこなかったの?
私、待ってたんだけどな、五年も。
- 大山
- クリスマスツリーの木陰から、
グレート兄さんが鬼の形相でこちらをにらんでいる
- 大山
- あ、いや、なんか、恥ずかしくて。
それに、友達がお前は出るなってうるさくて・・・
- 力道さん
- ふうん
- 大山
- (小声)すまん、兄さん・・・
- 力道さん
- え?
- 大山
- いえ、別に
- 力道さん
- 私さ、今日生まれて初めて男の人とデートしたんだ
- 大山
- いつも男の人つれてたじゃないですか
- 力道さん
- あれはママの若い衆。うちね、極道なの
- 大山
- は、はあ
- 力道さん
- あなた、彼女いるの?
- 大山
- 俺、いや、僕も初めてのデートです
- 力道さん
- そうなんだ!よかった、初めてどうしで!
- 大山
- と言って、彼女は俺の手をつかんだ。
思わず、柔らかなその手を握り返したその時、
グレート兄さんが上半身裸でツリーの木陰から飛び出して来たのだ
- グレート
- クリス・マス大山!
- 大山
- 兄さん・・・・
- グレート
- 義兄弟の俺たちにこんな呪われた運命が待っていたとはな!
- 大山
- 違うんだ、これは・・・
- グレート
- 47匹目の獲物はお前らだ!
てめええ!俺の女に手をだすんじゃねええ!
- 力道さん
- ふん!(回し蹴り)
- グレート
- わぶし!
- 力道さん
- 人の恋路を邪魔する奴は、馬に蹴られて死んじまいな!ぶひひん?
さあ、デートの続きしよ。
- 親分
- こらーーー!うちの娘になにしとるんじゃああ!
- 力道さん
- ママ!
- 親分
- あれほど一人で出歩くなとゆうたやんか!
見てみ、案の定、変態に襲われとるやないの!さあ、帰るで!
- 力道さん
- いやよ!
- 親分
- やろーども!
- 子分たち
- ヘイ!
- 力道さん
- やめて!離して!助けて!
- 大山
- 力道さんは黒服の屈強な男たちに無理矢理黒いベンツに
のせられようとしていた。俺はベンチから立つことすら出来なかった。
- グレート
- 兄弟よ・・・いいのか、これで
- 大山
- 相手はヤクザだよ!
- グレート
- 俺たちの五年は何だったんだ
- 大山
- けど・・・
- グレート
- 47匹目にはちょうどいいじゃないか!
そんなこったあ一生彼女できないぞ!
俺の名前はグレート登校拒否!お前の名は!
- 大山
- クリス・・・
- グレート
- 略すな!大きな声で雄叫ぶんだ!
- 大山
- クリス・・・(「助けて」) クリス・マス大山!
- グ・大山
- うおおおおおお!俺の彼女に手をだすんじゃねええええ!
- *
- 大山
- 俺の名前はクリス・マス大山。勿論、本名ではない。
イブとクリスマスの二日間だけ、
俺は敬愛する格闘家の名前を冠した猛者になるのだ。うあた!
(ボフと何かを殴る音)うあた!(ボフ)うあた!(ボフ)
うあたああああ!(ボフボフボフ)いたたたた!
- グレート
- おい、病室では静かにしろよ
- 大山
- すんません
- グレート
- もうすぐ、クリスマス終わっちまうな
- 大山
- 俺のために兄さんまで・・・
- グレート
- いいってことよ。いちちち
- 大山
- 大丈夫すか。あいたたたた
- グレート
- 来年まで47匹目はお預けだな
- 大山
- はい
- グレート
- 楽しみが一年伸びたってわけだ、コジマダ君
- 大山
- グレート兄さん、あと45分の間は、俺、クリス・マス大山っすよ
- グレート
- あ、すまねえ
- (了)