- 時計の針がカチカチッと規則正しく響く音。
- 俺
- ツリーも用意したし・・・・「可愛い」って言ってた、
パンダとウサギのぬいぐるみなんかも用意しちゃったし・・・・・
ぷ、プレゼントもばっちりだし・・・・・・絶対、喜んでくれるはずだし!
ああ・・・・これがリアル充実ってやつなんだよなあ・・・・・。
まだかなあ・・・・・早く来ないかなあ・・・・・。
- ドンドンとガラス窓を叩く音。
- 俺
- あっ・・・・・・!
- ガラリと窓を開ける音。
- 彼女
- ごめんね・・・・・待った?
- 俺
- ぜ、全然・・・・・・寒いだろ、早く中、入んなよ。
- 彼女
- うん。
- 俺
- 寒っ・・・・・・なんか、すっごく寒い。
- 風が窓から流れこむ音。
- 俺
- 寒っ・・・・・!?
- 時計の針がカチカチッと規則正しく響く音。
俺、空いているガラス窓をピシャリと閉める。
- 俺
- (溜息を付いて)・・・・夢かあ。
- 電話をかけるとコール音の後に繋がった。
- 俺
- あっ、もしもし・・・・・。
- 話しだした途端に留守番電話のガイド音声。
- 俺
- あ・・・・・・えーと・・・・・・えーと・・・・・・。
- 俺、言葉が続かず電話を切る。
- 俺
- なんで・・・・・・出ないんだよぉ・・・・・神様・・・・・助けて・・・・・うう。
汗か涙か分かんないけど・・・・俺の顔、なんか・・・・・びっしょびしょ。
なんか、世界が歪んで見えてきた・・・・・
ぬいぐるみも、なんか笑ってるように見えてきたし・・・・・・。
- 突然、笑い声が聞こえる。
- パンダ子
- 見えてるんじゃ、ないよー。
- ウサ子
- 思いっきり、笑ってるよー。
- ピョコピョコと動きまわる音。
- 俺
- はは・・・・なんか・・・飲み過ぎたかなあ・・・・
それとも、風邪ひいたのかなあ。
- パンダ子
- 大丈夫・・・・・至って、正常。
- ウサ子
- 至って、健康。
- 俺
- じゃあ・・・・・夢だ、これ。
めちゃめちゃ長くて悪い夢、見てるんだ・・・・・・きっと。
ちょっと、ほっぺた・・・・つねって・・・・・目を覚ますし、絶対。
- ぬいぐるみ達、つねってみようとするが、
当然ぬいぐるみなので指がない。
ピョコピョコ。
- 俺
- くすぐったい・・・・すっごく、くすぐったい!
- パンダ子
- あたしたち、ぬいぐるみだから、つねれない!
- ウサ子
- ガーン!!
- 2人
- あ!!たのもー!たのもー!!
- キラキラとした音とともに天使がやってくる。
思わず見とれてしまう俺。
- 俺
- ・・・・・・君は?
- 天使
- (にっこりと)私、天使よ。
- 俺
- ですよねえ・・・・こんなキレイな子だったら夢から醒めなくてもいいかなー。
- 天使
- 夢、じゃないわよ。
- 俺
- ほんと?・・・・・
じゃあ、ほっぺた・・・・キュッってつねってくれない・・・・ふふ。
- 天使
- うふふ、ちょっとだけよ。
- 天使、思い切り俺の顔を殴りつける。
- 俺
- ギャッ・・・・・・何これ、すっごく痛い!
- パンダ子
- お見事です!
- ウサ子
- 見事です!
- 天使
- どう、しびれたでしょう?
- 2人
- しびれましたー!!
- 俺
- 何この人・・・・・・超、可愛いのに、超こわい!?
- 天使
- 助けてって言ったから来てやったのに、うっとおしいわね。
- 俺
- えっ・・・・・・助けてって・・・・・・?
- 天使
- あんたが、神様ヘルプとか抜かしたんでしょ・・・・。
そうじゃなかったら、チープなツリーとかチカチカした、こーんなシミッタレた部屋にどうして私が来なきゃなんねーのって感じよ、分かってんの?
- 俺
- す・・・・・すみません。
- 天使
- いちいち傷ついてんじゃないわよ・・・・・
今日、あたしだってホントは有休とってガブリエルとデートだったのに・・・・・あんたが泣くから、休日出勤になったんだからね!!
- 俺
- ご・・・・・ごめんなさい。
- 天使
- で、何をどうして欲しいの?
- 俺
- あ・・・・あの・・・・・今日、約束してたのに・・・・彼女、来なくって。
電話も出ないし・・・・・・どうしていいか分かんなくって・・・・・。
- 天使
- あきらめな。
- パンダ子
- そうだ!
- ウサ子
- そうだー!
- 俺
- ええっ・・・・・そんな・・・・・・なんで!?
- 天使
- ふられたの、あんた。
- 2人
- ガガーン!!
- 俺
- そ・・・・・そんなあ・・・・・。
- 天使
- とりあえず、今日は飲んで飲まれて飲んで、
泣くだけ泣いて泣きつかれて眠るまで飲んで・・・・・・・明日っから・・・・
正月、年越し出来るような誰か探せばいーじゃん。
- パンダ子
- お餅とか-。
- ウサ子
- おそば、とかー。
- 天使
- じゃ、そういうことで。
- 俺
- ま、待って!?
- キラキラと翔んでいきそうな天使の足を掴む俺。
勢い良く、こける天使。
- 天使
- いててて・・・・・・もう何すんの!?
- 俺
- 嫌です・・・・・そんなの!
- 天使
- はあ・・・・・往生際、悪いね。
- 俺
- 今日のために・・・・頑張ったんです。
掃除、苦手だけど・・・・・キレイにしてクリスマスツリー飾ったのに・・・・・・・。
- 天使
- そんな努力誰でも出来るって。
- 2人
- できるー。
- 俺
- うっ・・・貧乏だけど・・・・貧乏なりにバイトして頑張って貯めて・・・・・・。
プ、プレゼントだって用意したんです!
- 天使
- その程度?
- 2人
- そーそー!
- 俺
- だから・・・・・あの・・・・・少しでも、かっこよく見えるようにオシャレして髪も染めたし・・・・・。
- 天使
- で?
- 2人
- でー?
- 俺
- で・・・・・・あの・・・・・頑張ってギターでアルペジオ練習しちゃったりしたし。
- 天使
- はあ・・・・アルペジオ?
まさか・・・・・「禁じられた遊び」とかじゃないでしょーねー。
- 俺
- え・・・・・・何で分かるの!?
- 天使
- ・・・・・ジョーダンだったのに。
- 2人
- ・・・・・うわあ。
- 天使
- よりによって・・・・・・何でそれ?
- 俺
- 基本だって・・・・・・ギター入門書に・・・・・・。
- 俺、弾いてみせる。
- 天使
- もういい!暗い・・・・・・暗すぎ!?
- 俺
- あはは・・・・です・・・・・よね?
- 天使
- わかってんじゃん。
- 2人
- じゃん!
- 俺
- そうだけど・・・・そうかもしれないけど・・・・。
彼女に喜んでほしくって、彼女が可愛いって言ってたぬいぐるみも
買ってきたのに・・・・・なのに、ぬいぐるみは俺を笑うし、
天使は乱暴だし、諦めろって言うし・・・・こんなのってないですよ!?
- 天使
- ちっ・・・・・知るかよ。
- 2人
- かよー。
- 俺
- どうすればいいんですか・・・・・・俺。
- 天使
- もう、いっそのことラッキーだって思いなよ。
- 2人
- なよー。
- 俺
- え・・・・・・?
- 天使
- 発想の転換ってやつ・・・・・約束したのに来ないし、電話も出ない。
そんな約束踏み倒すし、シカトかますクソビッチと別れられてラッキーだって・・・・そう思いなよ。
- 2人
- そうそう!!
- 俺
- ・・・・・・・・・・・・。
- 天使
- じゃあね・・・・。
- 俺
- 待ってよ!?
- 天使
- 何!?
- 俺
- 俺・・・・・確かにカッコ悪いし、貧乏だし・・・・・・
ギターの選曲も間違ってますけど・・・・・
でも、俺の好きな人は間違ってなんかないです!?
- 天使
- はあ?
- 俺
- だって・・・・・・・好きな人・・・・・だから。
例え・・・・・・本当に・・・・・そうだったとしても、
好きなすっごく好きな人のこと、バカにされたり・・・・・・
悪く言われたくないじゃないですか!?
あんただって・・・・・好きな人、いるんでしょ?
その人のこと・・・・・そんな風に言われたら・・・・・・
きっと、俺と同じ気持ちになりますよ・・・・・・・絶対。
- 天使
- こんな目にあってんのにさ・・・・・バカみたい・・・・・
本当カッコ悪い男だね、あんた・・・・・。
- 俺
- はい・・・・・・・・カッコ悪いですよねえ・・・・・ホント。
- 天使
- 好きなんだね・・・・・彼女のこと。
- 俺
- はい・・・・・・好きです。
何の取り柄もない俺なのに・・・・・
頑張ってる姿がカッコイイって初めて言ってくれた人なんです・・・・・・・
だから・・・・・だから・・・・・。
- 天使
- もう、分かった・・・・・・・分かったから・・・・・・・泣かないでよ。
- 俺
- すみません・・・・・・。
- 天使
- さっきは・・・・・・ごめん。
- 俺
- え?
- 天使
- 言い過ぎた・・・・・・・だから、あんたにプレゼントをあげる。
- 俺
- プレゼント・・・・・・?
- 天使
- そう・・・・・とっておきのクリスマスプレゼント。
- キラキラとした効果音。
- 俺
- ハックション・・・・・・・寒っ・・・・・・あれ、夢・・・・・・?
- ガチャリとドアを開く音。
- 彼女
- ごめんなさーい!遅くなっちゃって!
- 俺
- え・・・・・・・え!?
- 彼女
- 本当・・・・・・ごめんなさい。
頑張ってケーキ作りに挑戦したんだけど・・・・・失敗続きで。
おまけに・・・・・携帯壊れちゃって・・・・・連絡できなくてごめんなさい。
- 俺
- いいよ・・・・・・そんなの全然いいよ・・・・・ほんと良かった、ありがとう・・・・。
- 彼女
- ど・・・・・どうしたの・・・・・・泣かないでよ。
- 俺
- ご・・・・・ごめん・・・・・大丈夫・・・・・・ははは。
- 彼女
- 変なの・・・・・・わあ、これ・・・・・この間、可愛いって言ってたぬいぐるみ!
- 俺
- う・・・・・うん・・・・・。
- 彼女
- 覚えててくれたんだ・・・・・・ツリーまで飾ってる、キレイ!
あれ・・・・・・天使。
- 俺
- ・・・・・・・天使?
- 彼女
- ツリーの飾りの天使・・・・・・落ちちゃってる。
あ、男の子の天使もいる・・・・・・隣に飾ってあげなくちゃ・・・・・出来た。
- 俺
- ありがとう・・・・・・お互いデート出来るね。
- 彼女
- え・・・・・・何?
- 俺
- ううん・・・・・何でもない。
- 彼女
- 変なの・・・・・・メリークリスマス。
- 俺
- メリークリスマス。
- 俺と彼女が思わず笑うと、それにつられるような、
天使とぬいぐるみたちの笑い声が聞こえてくる。
- 終わり