- 鐘の音が辺りに響き渡る。
寒そうな風が吹き付ける中、とぼとぼと女が歩いている。
- 大きな溜息。
- 魔法少女
- 大きな溜息ついてどうしたの?
- 女
- (驚きながら)え?ええっと私?・・・・・・ううん、何でもないの。
- 魔法少女
- なんでもない人が、そんな溜息なんてつかないよ。
私に良かったら、話してみて!きっと力になれるから!
- 女
- でも・・・・・・・そんないきなり、知らない女の子に・・・・・・。
- 魔法少女
- 私にまかせてっ!だって、私ってば、魔法少女だからっ!キラッ☆
- 女
- (思わず)うわあ・・・・・・面倒くさい。
- 魔法少女
- なんか、言った?
- 女
- 何でもない・・・・・・魔法少女ごっこのつもり?
悪いけど、お姉さんは忙しいの・・・・・・・じゃあね。
- 魔法少女
- 待って!
- キラキラした効果音。
- 女
- わっ・・・・・・・目の前にいきなり・・・・・どうして!?
- 魔法少女
- うふふ・・・・・驚いた?・・・・・・これが魔法の力よっ!
- 女
- 本当かなあ・・・・・・何か仕掛けでもあるんじゃない?
- 魔法少女
- まだ、疑ってるの・・・・・・・・・・嫌ねえ、大人って。
でも、私いい子だから・・・・1つぐらいお願い事、きいてあげちゃう。
- 女
- えっ・・・・・・ホント・・・・・・・・でも、そんないいわよ。
- 魔法少女
- さては、恋の悩みでしょ・・・・・・・片想いとか?
- 女
- なんで、わかるの!?
- 魔法少女
- だって、魔法少女だからっ!キラッ☆
- 女
- もういいわよ、その決めポーズ。
- 魔法少女
- お姉さんの好きな人って、どんな人?
乙女心・・・・・勇気を出して打ち明けて!
- 女
- どんな人って・・・・・・うーん。
- 魔法少女
- どうしたの・・・・・・・?
- 女
- だって、あんまり・・・・・その人のことよく分からないから。
- 魔法少女
- それって、話したことない人・・・・・通勤電車で見かける人、とか?
- 女
- 話したことあるわよ・・・・・・うん。
- 魔法少女
- えー、どんな人なのー?
- 女
- (恥ずかしくて口ごもる)コ・・・・・・・・コンビニ・・・・・・。
- 魔法少女
- コンビニの店員さん?
- 女
- 違うわよ・・・・・・コンビニ王子なの!
- 魔法少女
- コンビニ王子・・・・・・・・!?
- 漫画家
- (ナレーション的に)説明しよう。
コンビニ王子とは、彼女が2年前、とんでもない風邪をひいた時にマスク姿で「栄養ドリンク」を買いに行ったときに出会ったのである。
- 女
- ゴホゴホ・・・・・・・これ下さい。
- コンビニ王子
- 風邪、ですか・・・・・お大事にしてくださいね。
- 女
- ズキューン!ち、違う熱が出そう・・・・・・・。
- 漫画家
- それ以来、恋の病にかかったのであった。
- 魔法少女
- それだけ?
- 女
- 違うわよ。
- 漫画家
- 説明しよう・・・・彼女が正月早々、来店した時であった。
- コンビニ王子
- 明けましておめでとうございます。今年も宜しくお願い致しますね。
- 女
- それって・・・・・末永く宜しくってことかしら!?
- 魔法少女
- 新年の挨拶、じゃないの?
- 女
- いや・・・・・・・・でも、まだあるんだから。
- 漫画家
- 説明しよう・・・・・・・・・
- 魔法少女・編集者
- あの・・・・・・・もういいです。
- 女・漫画家
- えっ・・・・・・・・?
- 編集者
- もういいです・・・・・・・・。
- 漫画家
- え・・・・・・まだ、あるんだよエピソード。
- 編集者
- そういうのじゃなくって・・・・・・で、結末どうなるんですか?
- 漫画家
- ええっと・・・・・・・・・やっぱり編集者の反応見て考えようかなって。
- 編集者
- (唸る)・・・・・・・・・・・・・・・。
- 漫画家
- ダメ・・・・・・・・かなあ?
- 編集者
- だって・・・・・・・魔法少女とか、コンビニ王子とか、ちょっと。
- 漫画家
- でも「恋の魔法にかけられて」っていうテーマでしょ。
- 編集者
- そうなんですけど・・・・・・・。
テーマとかコンセプトとか含めて・・・・・グッとこないというか。
- 漫画家
- (ごまかし笑いを浮かべながら)あはは・・・・・・・えーっと。
- 編集者
- コンビニ王子は・・・・・ラブコメ、いやギャグ漫画路線でいけるかも。
- 漫画家
- (遮るように)ダメダメ絶対・・・・・・・・ダメ。
- 編集者
- えっ・・・・先生、そういうの思い切り書きたいとかも言ってたでしょ。
- 漫画家
- まあ・・・・・ね。
- 編集者
- じゃあ・・・・・・このお話、どう展開させるつもりなんです?
- 漫画家
- ええっと・・・うーん。
- 編集者
- このままでは・・・・・使えません。
- 漫画家
- ・・・・・厳しい。
- 編集者
- まずは・・・・・・・方向性をきっちり決めてくれないと。
次の打ち合わせまで詰めておいて下さいね。
- 漫画家
- ・・・・・・・・・・え、もう終わり?
- 編集者
- (照れながら)ちょっと約束が・・・・・・・。
- 漫画家
- クリスマスだもんね・・・・・。
- 編集者
- まあ・・・・・・・先生も、良いクリスマスを。
- 編集者、部屋から出て行く。
- 漫画家
- ケーキの箱持ってた・・・・・・いいなあ。
恋人と、過ごすんだろうなあ・・・・・・いいな、いいなあ。
(溜息を付いて)・・・・・・・とりあえず・・・・・・続き、描こう。
- 魔法少女
- とにかく、あなたのコンビニ王子への気持ちはよーく分かったわ。
あなたの願いは、コンビニ王子と結ばれることなのね。
その願い、私に任せてっ!
リラメルララメルランルララン、リラメルララメルランルララン!!
- キラキラした音楽と共に魔法の呪文を唱える魔法少女。
- 女
- ちょっと、待って!!
- 魔法少女・漫画家
- えっ!?
- 女
- そんな魔法の力を使ったら・・・・・ダメよ!
- 魔法少女
- 何、言ってるの・・・・・・・!?
- 漫画家
- そうよ・・・・・・・私・・・・・・そんなの描くつもりないのに。
勝手に・・・・・・・・・・・・どうして?
- 女
- 例え、魔法の力であの人に、恋の魔法をかけてもらっても全然嬉しくないもの!
- 魔法少女
- ええっ・・・・・・そんなこと言われても。
- 女
- そりゃあ・・・・私だって魔法で助けて欲しい・・・・・・・本当は。
- 魔法少女
- だったら、なぜなぜ!?
- 女
- 魔法の力で・・・・私のこと好きになってもらったら・・・・・・。
でも、そんな力を使ってしまったら、今度は、その魔法が解けたらそんなの、ちっとも嬉しくないし・・・・・・好きな人には魔法を使わなくたって・・・・・・私のこと好きになってもらいたいから。
だから・・・・・・・魔法はいらない。
- 魔法少女
- ええ・・・・・それを言っちゃあおしまいじゃない、このお話!
- 女
- だって・・・・・・・これは私の気持ちって言うより、あなたの気持ちでしょ・・・・・・漫画家さん!
- 漫画家
- え・・・・・・・あたし!?
- 女
- そう・・・・・・・・私はあなた。あなたは私。
だって、この世界はあなたの世界なんだもの。
- 漫画家
- そうだけど・・・・・・・そんな。
- 女
- 片想いしてるあなたの気持ち、よーく知ってるわ。
だからって、物語の中に逃げたりして欲しくないの。
魔法任せの物語なんて・・・・・・好きな人どころか、誰の心も動かせないって思うから。
- 漫画家
- 痛いところを・・・・・・じゃあ・・・・・・私、どうしたらいいの?
- 魔法少女
- ほんとほんと・・・・・・私もどうしていいかわかんないよ。
ヒロインそっちのけになってない!?
- 女
- ヒロインは私だから。
- 魔法少女
- ごめんなさい・・・・・・でも、私・・・・・登場した意味ないじゃない。
何のための魔法使いなの。
- 女
- だから、あなたの魔法の力を、ほんの少しだけ貸してくれない?
- 魔法少女
- え?
- 女
- 私達に・・・・・・・・「勇気」が出せる魔法をかけてくれない?
- 漫画家
- ・・・・・・・・「勇気」。
- 女
- そう・・・・・・私達に足りないのは「勇気」よ。
想いを伝える「勇気」と・・・・・・もし、フラれちゃっても頑張れる「勇気」。
- 漫画家
- あなた・・・・・・充分「勇気」あるじゃない・・・・・・・あたしは無理だよ。
- 女
- 忘れないで・・・・・・・あなたは私よ。
あなたも持っている「勇気」は誰かが背中を押すだけなんだから。
- 漫画家
- ・・・・・・・・・・・・。
- 女
- 魔法使いさん・・・・・・お願い。
- 魔法少女
- オッケー、任せて!
- 女
- 漫画家さん・・・・・・約束して欲しいの。
- 漫画家
- 何?
- 女
- この話の続き・・・・あなたが「勇気」を使った後に描いて欲しいの。
私はあなた、なんだもの・・・・・どんな続きだって受け入れるから。
- 漫画家
- うん・・・・分かった・・・・・・・約束する。
- 魔法少女
- じゃあ、いくわよ!
リラメルララメルランルララン、リラメルララメルランルララン!!
- キラキラした光に包まれる。
コンビニの自動ドアが開く音。
- コンビニ王子
- いらっしゃいませ・・・・・・・・あ、こんばんは。
- 漫画家
- こんばんは・・・・・サンタさんの格好してるんですね。
- コンビニ王子
- 今日・・・・・・・・クリスマスですから。
- 漫画家
- あ・・・・・ですよね・・・・・・・サンタさん似合ってますよ。
- コンビニ王子
- え・・・・・・・ありがとうございます。
- 漫画家
- えーっと・・・・・あの・・・・・・あの、私・・・・・・。
- コンビニ王子
- はい・・・・・・・。
- 漫画家
- えーと・・・・・・えーと・・・・・私・・・・・・・・・あなたのことが・・・・・。
- 魔法少女の呪文が聞こえてくる。
- 魔法少女
- リラメルララメルランルララン、リラメルララメルランルララン!!
- どこからか、シャンシャンシャンと鈴の音色が聞こえてくる。
彼女たちの「勇気」の気持ちを祝福するように。
- 終わり。