- シーン1「居間では」
- 武夫くんと父がいる。
- 父
- こらこら武ちゃんは未成年だろ。
- 武夫
- でもさっきのチョコにもウィスキーはいってましたよ。
- 父
- あーゆうのはどうなんだろ?
- 武夫
- ミチルも顔真っ赤になってましたもん。
- 父
- あいつは弱いからな。
- 武夫
- ほんとおじさんそっくりですね。
- 父
- ジュースにしなさい。
- 武夫
- はい。
- ジュースを注ぐ音。
- 父
- では、今年もサンタ大成功を祝って。
- 武夫
- はい。
- 父
- かんぱーい!
- 二つのグラスが静かに「カチン」
- 父
- いやー。武ちゃんのおかけだよ。
- 武夫
- おじさんの情熱ですよ。
- 居間のドアが開く。
母が入ってくる。
- 母
- あらまだいたの?
- 武夫
- はい。
- 父
- 手伝ってもらったんだよ。ミチカの。
- 母
- 飲ましちゃだめよ高校生なんだから、
- 父
- わかってる。
- 母
- 少しは心配したらどうなんです?
- 父
- 何?
- 母
- ミチカ。電話もないんですよ。
- 父
- どうせ駅前だろ。
- 母
- まだ高校生なんだから、
- 居間の電話がなる。
- 父
- 俺はもう飲んでるからな。
- 母は電話にでる。
- 母
- はい。…で、どこ?駅前?わかった。
- 母は電話を切る。
- 父
- な、
- 母
- 武ちゃん。
- 武夫
- はい。
- 母
- どうなの?
- 武夫
- え?
- 母
- ミチルとミチカ。
- 武夫
- 元気ですよ。二人とも友達多いし。
- 父
- 心配ないよ。
- 母
- おかしいでしょミチル。
- 父
- 何が?
- 母
- 高校生にもなってサンタクロース信じてるなんて。
- 父
- いいじゃないか、
- 母
- ミチルは男の子ですよ。
- 父
- 早く、ミチカ、迎えに行けよ。
- 武夫
- ミチカちゃん、クラスでカラオケじゃないかな、駅前の。
- 母
- どうしてミチルは行かないのよ。
- 武夫
- ミチルはカラオケとか苦手だし。
- 父
- クリスマスは家族と過ごすものだろ。ミチカのほうがよっぽどおかしいよ。
- 母
- …、もっとミチカを心配したらどうなんです。
- 父
- 大丈夫だよ、
- 母
- 女の子ですよ、ミチカは。
- 父・武夫
- (笑う)
- 母は居間のドアを閉める。
- 武夫
- あ、いってらっしゃい。
- シーン2「車内で」
- ここは駅前。小ぶりな繁華街。
通りはクリスマス一色。
- 母
- (車の窓をあけ)ミチカ!
- ミチカ
- サンキュー。
- ミチカをのせて車は動き出す。
ミチカは女の子だが、男のような口ぶり。
- 母
- 飲んでないでしょうね。
- ミチカ
- 飲んでねーよ。
- 母
- スカートは?
- ミチカ
- うるさいなー。だって寒いんだもん。
- 母
- お父さんがね、クリスマスくらい家にいろって。
- ミチカ
- は?バカじゃねーの。
- 母
- 心配してるのよ。
- ミチカ
- 気持悪。
- 母
- 今年もお父さんプレゼント渡してた。
- ミチカ
- うわー。
- 母
- ミチル。本当に信じてるのかな。
- ミチカ
- 信じてるっていうか、そういう性格だから、
- 母
- は?
- ミチカ
- サンタクロースを信じてるっていう性格だから、あいつは。
- 母
- …お父さんが悪いのよ。全部。ミチルをあんな風に育てたから、
- ミチカ
- ミチルは失敗作なの?
- 母
- 失敗なんていわないで。でもミチルは男の子なのよ。
- ミチカ
- 俺だって女の子だよ。
- 母
- だから、それもお父さんが悪いのよ。
- ミチカ
- ゲ。
- 母
- 何?
- ミチカ
- 飲んでる?
- 母
- 武夫くんが来てるわよ。
- ミチカ
- は????
- 母
- お父さんのサンタクロース手伝うって。
- ミチカ
- うわー。
- 母は思いつめた表情で乱暴に車を止める。
- ミチカ
- どうしたの?
- 母
- あの子、何?
- ミチカ
- …。
- 母
- あの子、ミチルの何なの?
- ミチカ
- 聞きたい?
- 母
- …。
- 母は深いため息をつくと、再び車を発進させる。
- 母
- そのジャージのズボン、やめてよね、恥ずかしくないの?
- ミチカ
- サンタクロースにお願いすればいいんだ。
- 母
- は?
- ミチカ
- ミチルとミチカ、二人を逆にしてください。
- 母
- …。
- ミチカ
- そう思ってるんだろ?
- シーン3「再び居間では」
- 武夫
- お父さん!それは偏見です!
- 父
- お前にお父さんと呼ばれる筋合いはないわ!
- 父は武夫に殴りかかる。
しかし武夫はラグビー部。
父はすぐに手首をひねられて、
父「アイタタタタ」
- 武夫
- すいません。
- 父
- (押し殺した声で)出ていけ!
- 武夫
- 僕の話を聞いてください。
- 父
- うるさい!
- 武夫
- 気づいてるでしょ、お父さんだって、
- 父
- 警察を呼ぶぞ。
- 武夫
- ほっとけないんです。僕、
- 父
- …。
- 武夫
- ミチルはほんとは女の子なんです。
- 父
- なに言ってるんだ君は。
- 武夫
- お父さん。ミチルは、
- 父
- だから君にお父さんと呼ばれる筋合いはない!
- 父は武夫に殴りかかる。
しかしすぐに手首をひねられ
父「アイタタタタ」
- 武夫
- すいません。
- 父
- 出てゆけ!
- 武夫
- 僕、高校をでたらすぐに働くつもりです。もちろん今すぐにとはいいません。でも、いずれまた、改めてご挨拶させてもらいます。
- 父
- なに言ってるんだ君は、
- 武夫
- お父さん。
- 父
- お父さんはやめろ。
- 武夫
- 間違ってますよ。お父さんだって思うでしょ?
- 父
- …。
- 武夫
- 逆ですよ。ミチカとミチル。
- 父
- …。今日はもう、帰りなさい。
- 武夫
- …お邪魔しました。
- 武夫は居間のドアを開け、去ってゆく。
しばらくして玄関の扉が開いて閉まる音。
父は苛立ち、ラジオをつける。
石川さゆり♪「天城越え」
しだいに父は口づさむ。
居間のドアがあいてミチル登場。
- ミチル
- 何してるの?
- 父はラジオを切る。ミチルは男の子だけど、女の子みたいな口調。
- ミチル
- ミチカは?
- 父
- いまママが迎えにいってる。
- ミチル
- もう一時だよ。
- 父
- なぁ。
- ミチル
- パパもね。
- 父
- え?
- ミチル
- うるさい。
- 父
- ごめん。
- ミチルは窓際により、
- 父
- 雪降らなかったな。
- ミチル
- これ渡してくれない?
- ミチルは父に手紙を渡す。
- 父
- え?
- ミチル
- 今年はサンタさんに手紙かいたんだけど。枕のよこに置いといたんだけださ。気づかなかったみたい。
- 父
- …。あのな、ミチル、
- ミチル
- パパから渡してよ。
- 父
- サンタクロースなんていないんだ。
- ミチル
- …
- 父
- プレゼント、全部パパが買って渡してたんだ。
- ミチル
- (居間のドアを開け)手紙渡してよ。
- 父
- おい。
- ミチル
- じゃ親父がサンタクロースなんじゃないの?
- ミチルは居間から出てゆく。
- シーン4 ミチルとミチカの部屋
- 真っ暗の闇の中。ミチルとミチカが仰向けになり、真っ暗な天上を見つめている。
- ミチカ
- オレンジ
水色
群青
赤紫
深緑
灰色
クリーム色
小豆色
ピンク
山吹色
白
金
銀
ショッキングピンク
ターコイズブルー
サマルカンドブルー
- ミチル
- 水族館行きたい。
- ミチカ
- エイ
マンタ
ペンギン
サメ
イルカ
シャチ
海亀
かわうそ
- ミチル
- 遊園地
- ミチカ
- 観覧車
コーヒーカップ
メリーゴーランド
ジェットコースター
- ミチル
- 手紙を書いた。
- ミチカ
- 誰に?
- ミチル
- サンタ。は、いないからパパに渡した。
- ミチカ
- なんて書いたの?
- ミチル
- 願い事。だから内緒。
- 沈黙
- ミチカ
- スカート。返せよ。
- ミチル
- 明日ね。
- ミチカ
- 今すぐ返せ。
- ミチル
- どうしたの?
- ミチカ
- …。俺は今のままでいいから、ずっと俺のままでいたいから、
- ミチル
- は?
- ミチカ
- なにお願いしたの?
- ミチル
- …。
- ミチカ
- 別に願いがかなうとか思ってないけど、ミチルも自分のこと間違ってるって思ってるなら、俺、
- ミチル
- 違うよ。
- ミチカ
- …。
- ミチル
- 私たちは間違ってない。
- シーン5 「再々居間では」
- 父と母。
- 母
- (手紙を読んでいる)
「…ずっとパパがサンタのフリをしてくれるから、言い出しにくくて、でも僕も高校生だし、サンタさんがパパだってこともちゃんと知ってます。憶えてますか?最初のクリスマス。僕らが三歳の時、プレゼントはお人形と電車の玩具で、ミチカはまよわず電車をとって、僕は人形をとりました。あの頃から僕らの今の性格は始まっていて、パパとママの心配も始まりましたね。僕は男の子が好きです。武夫くんじゃなくてクラスの別の人です。その人も僕のことが好きなら嬉しい。パパは応援してくれますか?応援してくれたら、とてもとても嬉しいです。
サンタクロースへ」
- 母は手紙を折りたたむ。
父は黙ってグラスを傾ける。
- 父
- さて。
- 母
- ね。
- 父
- さてさて。
- 母
- ね。
- 父
- どうしよう。
- 母
- 話し合いましょうよ。夜は長いんだから。
- ご両親の話し合いは続く。
- おわり