- ブランコに乗っている少年と少女
公園の片隅からギターの音と歌声が聴こえる
遠くで“オリジナルソング”の練習をしているお姉さん
- 少年
- この公園、楽器演奏していいんだっけ
- 少女
- ダメなの?
- 少年
- だって前、リコーダーの練習してたら怒られたから
- 少女
- それは、下手だったからでしょ? あの人は上手いもん
- 少年
- ブランコ、グルグル巻きにすんぞっ
- 少女
- 私もあんなギターほしいなあ。クリスマスプレゼントに買ってもらおっかな
- 少年
- もう遅いだろ
- 少女
- 何で?
- 少年
- 何でって、サンタクロース来るの、今晩じゃん。一週間前には頼んでおかないと
- 少女のブランコが止まる
- 少年
- 俺はもうゲーム頼んだから、明日の朝には(と、期待に悶えて)え、ひょっとしてまだ頼んでないの?
- 少女
- …
- 少年のブランコが止まる
- 少年
- …何?
- 少年
- 今から先生に聞いて、もし、サンタいたら、おまえ、罰ゲームだからなっ
- 少女
- はあ?
- 少年
- 先生がもし、サンタいるって言ったら…あの公園のグルグル回るやつで10回転して、ジャングルジムのてっぺんで手放し10秒!
- 少女
- 死ぬわっ、そんなのっ
- 少年
- お父さんがサンタクロースとか、意味分かんねえしっ
- 少女
- 罰ゲームとか、意味分かんないしっ
- 少年
- 嘘ついた罰だろ
- 少女
- 嘘じゃないって
- 少年
- 嘘に決まってる
- 少女
- じゃあ、砂川くんも罰ゲームやってよ? 先生がいないって言ったら
- 少年
- ああ、いないって言ったらな!!
- 教室のドアの開閉の音
静まりかえった教室
- 先生
- どうぞ
- 少年
- はい
- 先生
- 冬休みなのに、よく先生いるって分かったな
- 少年
- 終業式の日に言ってましたよ
- 先生
- あ、そうだっけ
- 少年
- 仕事が溜まってるからナントカって
- 先生
- ああ
- 少年
- で、相談なんですけど
- 先生
- おお、どうした
- 少年
- 実は…
- 少女
- ちょっと待った。私が聞く
- 少年
- え?
- 少女
- 実は…C組の友達のことで相談なんですけど
- 少年
- は?
- 少女
- はあっ?!
- 少年
- …何だよ
- 少女
- C組でしょ?A組?
- 少年
- C組…
- 先生
- C組の誰?
- 少女
- あ、それは…
- 先生
- ああ、まあ、いいけど。で?
- 少女
- で、実は、その友達、まだサンタクロースを信じてるみたいなんです。いないのに
- 先生
- ほお…
- 少女
- それで、ホントのことをどうやって教えてあげたらいいのか、砂川くんと話し合ってたんですけど、難しくて
- 先生
- ほお…
- 少女
- 言ってあげた方がいいですよね?? もう3年生だし
- 先生
- 坂上は、いないと思うの?
- 少女
- はい。私も砂川くんも、もうサンタクロースはお父さんだと分かってます
- 先生
- そうかあ…でもなあ、ホントのこと言う必要ないと思うなあ。その、3年生だからってのも、別に大人になっても信じていてもいいと思うしなあ
- 少女
- でも、サンタなんていないじゃないですか
- 先生
- いや、そうなんだけど…何て言うか
- 先生
- でもさあ、坂上も砂川も最初は信じていたんだろ?
- 少年
- 先生、ありがとうございました
- 先生
- はい?
- 少女
- 今日は、ありがとうございました
- 先生
- えっ?
- 少年
- さようなら
- 少女
- 先生、さようなら
- 先生
- おい、待て待て待て待て、えっ??
- 教室のドアを開ける音
教室を飛び出す少年
少年を追いかける少女
廊下に先生の声が響く
- シーソーに座っている少年
公園の片隅からギターの音と歌声が聴こえる
遠くで“きよしこの夜”の練習をしているお姉さん
歌詞(1番)きよしこの夜/星はひかり/すくいのみ子は/まぶねの中に/ねむりたもう/いとやすく
(2番)きよしこの夜/み告げうけし/ひつじかいらは/み子のみ前に/ぬかずきぬ/かしこみて
- 少女
- ちょっと、シーソーに座ってる場合じゃないでしょ?
- 少年
- そっち座れよ
- 少女
- グルグル10回転してジャングルジムの上で手放し
- 少年
- 殺す気か
- 少女
- そっちが言ったんでしょ
- シーソーに座る少女
シーソーが傾く度に古い木の音が軋む(ギイ…)
- 少年
- なあ
- ギイ…
- 少女
- 何?
- ギイ…
- 少年
- お父さんがサンタってことはさあ、今まで親が嘘ついてたってこと?
- ギイ…
- 少女
- まあ
- ギイ…
- 少年
- そっかあ…
- ギイ…
ギイ…
ギイ…
ギイ…
- 少年
- 罰ゲーム、ちょっと待って。もう一人聞いてから
- “きよしこの夜”の練習をしているお姉さん
少年と少女が声をかける
- 歌手
- ♪(3番の最後)ほがらかに~
- 少年
- あの、すみません
- 歌手
- はい
- 少年
- ちょっと聞いてもいいですか?
- 歌手
- はい
- 少年
- サンタクロースっていますか?
- 歌手
- え?
- 少年
- 正直に教えて下さい
- 少女
- すみません、私たち、サンタがいるかいないかで勝負していまして、それでちょっと聞いてみようってことになりまして
- 歌手
- ああ、そういうことね
- 少年
- “サンタはいるよ”っていう歌、唄って下さい
- 少女
- そんな歌ないし
- 少年
- あるでしょ? ない?
- ギターをポロンと鳴らすお姉さん
- 歌手
- じゃあねえ、本当のクリスマスソングを唄ってあげる
- 少年
- おおっ! はい、本当のやつをお願いしますっ!
- 歌手
- “きよしこの夜”っていう歌
- ギターの弾き語りで“きよしこの夜”を唄うお姉さん
歌詞(1番)きよしこの夜/星はひかり/すくいのみ子は/まぶねの中に/ねむりたもう/いとやすく
(2番)きよしこの夜/み告げうけし/ひつじかいらは/み子のみ前に/ぬかずきぬ/かしこみて
- 少女
- あ、この歌…
- 歌に少女の回想シーンが被る
教会に響く歌声(お葬式)
- 少女
- ねえ、おじいちゃん、どこに行ったの?
- 父親
- おじいちゃんはね、サンタさんになるんだ
- 少女
- 次、いつ会える?
- 父親
- もう会えないんだ。でもね、信じて待っていれば、クリスマスの日にプレゼントを持って来てくれるよ
- 公園のベンチに座っている少年と少女
お姉さんの唄った“きよしこの夜”がまだ頭の中に流れている
- 少女
- 私、思ったんだけど…サンタクロースって“いるかいないか”じゃなくて、“信じるか信じないか”じゃないかなあ
- 少年
- え?
- 少女
- 砂川くんは信じていたからいたでしょ? 私は信じていなかったからいなかったの
- 少年
- それはつまり、いないってことだよね
- 少女
- それはつまり、いるかもしれないってことだよ
- その時、雨が降り始める
- 少女
- あ、雨…
- 少年
- うわっ…
- 少女
- どこか、屋根のあるトコに…
- 少年
- じゃあ、俺の秘密基地、来る?
- 少女
- 秘密基地? どこ?
- 少年
- あそこ。歌のお姉さーん、こっちこっちー! 秘密基地ーっ!
- 公園の遊具の“お山のトンネル”の中
トンネルの中に声が響く
- 少年
- どうぞー
- 歌手
- ありがと
- 少女
- ねえ、ココが秘密基地?
- 少年
- うん
- 少女
- お山のトンネルじゃない
- 少年
- そうだよ
- 少女
- 誰でも入れるし
- 少年
- …あの、狭いですけど、ゆっくりして行って下さい
- 歌手
- ありがと。ところで、さっきの勝負どうなったの?
- 少年
- 勝負は…引き分け
- 歌手
- 引き分け?
- 少女
- はい、引き分けです
- ギターの弾き語りで“ホワイトクリスマス”を唄うお姉さん
ギターの音色と歌声がトンネルに響く
歌詞(1番)I'm dreaming of a white Christmas/just like the ones I used to know./Where the tree's tops glisten/and children listen/to hear sleigh bells in the snow.
(2番)I'm dreaming of a white Christmas/with every Christmas cards I write./May your days be merry and bright./And may all your Christmases be white.
- 歌にモノローグが被る
- 少女
- 「お姉さんは“大人になった二人に”って、歌のプレゼントをくれました」
- 少年
- 「僕らは、外が雪になるまで語り合いました」
- 先生
- 「そして私は、冬休みの職員室で一人、子どもたちの相談がいったい何だったのかフワフワしながらも、サンタクロースのいた頃を思い出していました」
- 終