- ぼく
- それはクリスマスイブの夜。ヒソヒソ、声が聞こえてきた。パパと知らないおじさんの声。ぼくは眠ったフリをして黙ってじーっと聞いていた。だけど‥、
- パパ
- 困ります。
- おじさん
- でも仕事ですから、
- パパ
- でも私は父親ですよ。
- おじさん
- そう仰られても、
- パパ
- 父親として判断してるんです。
- おじさん
- いやでも誠くんがお願いしてることですし、
- パパ
- だからって何でもハイハイ聞いてちゃ、教育にならんでしょ。
- おじさん
- ですが、私のほうとしましては、
- パパ
- あなただってサンタなら、子供のこと考えてくださいよ。
- おじさん
- サンタだからこそ、子供の願いは聞き届けたいんです。
- パパ
- でも、
- おじさん
- 今どきいませんよ。私らのことを本気で信じてるお子さんなんて、ここらじゃ誠くんくらいです。どうしてもかなえてあげたいんです。こんな幼い字で、こんなちっちゃい靴下にたたんで入れて、可愛いらしいと思いませんか?
- パパ
- そりゃ、まぁ、
- おじさん
- お願いです。プレゼントさせてください。
- パパ
- でも、‥これはね、
- おじさん
- そりゃ、ま、お父さんのお気持ちもわかりますが、
- パパ
- なんでこんなものを、
- おじさん
- 今の子はわかりませんわ‥‥
- ぼく
- やった!やっぱりサンタさんはいたんだ。メチャメチャ嬉しい!けどなんかもめてるみたい。どうやらぼくがお願いしたプレゼントが問題みたいだ。もーどうしてパパに見つかっちゃうかな。ガンバレ、サンタさん!
- パパ
- 常識で考えてください。こんなの子供のプレゼントととしてふさわしいですか?
- おじさん
- いや確かに、私も初めてですよこんなものプレゼントするの。でもなんとなく子供らしくもないですか?
- パパ
- らしくないです。全然子供らしくない。もっとあるでしょ、もっと子供らしいのが、
- おじさん
- 絵本、おもちゃ、
- パパ
- そう。
- おじさん
- 女の子ならお人形。男の子なら天体望遠鏡。
- パパ
- そう。
- おじさん
- ありましたね。そういう時代も。ま、今じゃどこいってもDSP、DSPですけどね。
- パパ
- DSP?
- おじさん
- ゲームですよ知らないんですか?
- パパ
- あぁ聞いたことあります。
- おじさん
- もってないんですか?誠くん。
- パパ
- うちはテレビゲームはさせませんから、
- おじさん
- 最近の小学生はこれをもってないとたいへんなんですよ。
- パパ
- え?
- おじさん
- いろんなソフトもありますし、友達と対戦もできるんです。だからこれもってないといじめとかに遭うこともあるそうですよ。
- パパ
- へー。
- おじさん
- 誠くんほしがりません?
- パパ
- いや、まったく。
- おじさん
- やっぱり今どき珍しいお子さんだ。
- パパ
- ですかねー。
- ぼく
- ぼくはDSPなんか欲しくない。ぼくが欲しいのは一つだけだ。この一つさえあれば、他には何にもいらない。今その夢がかなおうとしてるのに‥‥
ガンバレ!サンタさん!
- ママ登場。
- ママ
- ちょっとご近所に迷惑でしょ。
- パパ
- いやこの方がね、
- おじさん
- どうも、
- ママ
- ‥どうも、
- おじさん
- サンタです。
- ママ
- (びっくりして)え?サンタさん?
- おじさん
- はい。
- ママ
- (大きな声で)まこと!
- おじさん
- (ママを制し)やめて!
- ママ
- どうして?
- おじさん
- いや規則でして。サンタは子供に見つかっちゃいけないっていう。
- ママ
- へー。
- おじさん
- はい。
- ママ
- 大人はいいんですか?
- おじさん
- ええ、大人は。
- ママ
- でも誠喜ぶわ。あの子、本気でサンタさん信じてますから、
- おじさん
- ありがとうございます。だから私どももこうしてお伺いしたわけです。
- ママ
- 嬉しいわー。早く教えてあげたい。
- パパ
- それがそうでもないんだよ。
- ママ
- え?
- パパ
- これ(紙切れ)誠の靴下に書いてあったお願い。読んでみなよ。
- ママ
- ‥(黙読し)あらら、
- パパ
- どう思う。
- ママ
- で、サンタさん今日これをお持ちになって来たんですか?
- おじさん
- ええ。もちろん。
- ママ
- 見せてください。
- おじさん
- はぁ。
- おじさんは袋をあける。
- ママ・パパ
- ホォーーーー。
- ぼく
- ぼくがサンタさんを信じてるのは、このプレゼントが欲しいから。幼稚園のころ、ぼくはちっともサンタさんを信じてなかった。だってトナカイじゃ空は飛べないし、うちには煙突はないし、もし次の朝プレゼントが置いてあっても、それはサンタさんじゃないよ、お父さんなんだよ。ぼくがそう言うと、ヒマワリ組の大石先生は「サンタさんは信じてる人のおうちにしか来ないのよ」って、そういった。あれから5年、ぼくは信じることにした。サンタさんはいるんだって。だって「アレ」が欲しいから。心のそこから信じることにした。そしたら本気で信じはじめて。いまぼくの目の前に「アレ」が、‥‥ガンバレ!サンタさん!
- おじさん
- いや、さすがに持ち運べませんので、ここに書類をもってきています。
- ママ
- ほんとうに下さるんですか?
- おじさん
- ええ。もちろん。
- ママ
- ちょっとすごいじゃない。
- おじさん
- じつは私共のほうでも問題にはなったんですがね、そんなものあげていいのかって。でも、ご存知のように、私たちサンタは心から信じてくれているお子さんのところにしか、落下することができません。あ、「落下」って言うんです。昔のなごりでね。なので、年々仕事は減ってまして、今年なんてこの地区で落下するのは、お宅だけですからね。
- パパ
- でもこんなこと、あなたがたの一存で決めていいんですか?
- おじさん
- もちろん色々協議しましたよ。上に横に、関係各所と詰め合わせました。
で、まぁ結論は、この際、あげちゃおう、と。
- パパ
- この際って。
- ママ
- じゃ、ほんとに誠のものになるんですか?
- おじさん
- ええ。プレゼントしちゃいます。
- ママ
- あの子ったら、
- パパ
- うーん。
- おじさん
- どうかもらっていただきたく。
- パパ
- でもね。
- ママ
- もらっちゃいましょうよ。
- パパ
- でも、
- ママ
- もらえばいいのよ。
- パパ
- ‥‥じゃ、いただきましょうか。
- ぼく
- やったぁ!
- 歓喜する誠くん。荘厳な音楽。
けれど次第に目覚まし時計の音がその世界をやぶる。
そして朝。
目覚まし時計を止める。
- ぼく
- …夢か…。
- ぼくはアクビをする。
- ぼく
- 変な夢。(プレゼントを発見し)あ、
- ぼくはプレゼントの紙袋をあける。
- ぼく
- 今年のプレゼントは、組み立て式の天体望遠鏡だった。あぁー、靴下にはDSPって書いといたのにな。やっぱなー。文句言ってもどうせ、うちはゲームはさせませんって、言い返されるだけだもんな。DSP。
ほんとはほしくないけど、みんなと遊べなくなるしなー。
変な夢だった‥。ぼくはサンタなんか信じてないし。本当にほしいものなんか、ほんとは無いかもしれない。
でも、今朝見た夢の中。ぼくは何をあんなにほしがっていたんだろう。DSPなんかめじゃない。もっともっと凄いもの。
何かな?何だろ?
- 階段の下からママの声。
- ママ
- マコトー。いい加減おきなさいよー。
- ぼく
- はーい。
- カーテンを開ける音。
- ぼく
- ‥あ、船。
- 窓を開ける音。
ママが階段を駆け上がってくる音。ぼくの部屋のドアをガラっとあけて。
- ママ
- 誠!飛行船だって、空、飛行船、(けれど部屋にぼくはいない)‥あれ?
どこいったの?マコトー。
- ママは窓の外にぼくを発見する。
- ママ
- あ、あ、あ、あなた!誠が、空、空!
- ママは慌てて階段を下りてゆく。
- ぼく
- ぼくは空を飛んでた。両手に翼を広げて。やっぱプレゼント貰ったんだ。
それともまだ夢の続きかな?
- ぼくはしばらく飛ぶことを楽しむ。
街の人たちの驚く声。
- 街の人たち
- 「おい、なんだあれ」
「お母さーん。人が飛んでる!」
「あれ、マコトくんじゃないの?」
「え?え?え?」
「オラも連れてってケロー」
- ぼく
- 気持ちいい‥‥。冬の陽射し。
おなかすくまで、空、飛んでよう。
- おわり