- クリスマスソングに男1の声が被る
- 男1
- おい、おい
- 男3のイヤホンから流れるクリスマスソング
- 男3
- 何?
- 男1
- 旅行中に一人の世界に入るな
- 男3
- バスの中くらいいいだろ
- 男1
- せっかく4人で来てるんだから。トークしよう、トーク
- 男3
- (音楽止めて)何か、しゃべりにくくない? 他の人、みんな静かだし
- 男1
- 電気消えるまでは別にいいだろ
- 男3
- あとさ、車内、寒くない?
- 男1
- 別に
- 乗車口のステップを駆け上がる足音(男2登場)
- 男2
- おい、買ってきた
- 男1
- おお、ありがと
- 男2
- サービスエリアって色んなもん売ってるな
- 男3
-
<みきちゃんは?/p>
- 男2
- トイレ
- 男1
- 待っといてやれよ
- 男2
- いや、だってトイレだもん
- 男1
- おまえ、アレだろ?
- 男2
- え?
- 男1
- みきちゃんにアレなんだろ?
- 男2
- ああ
- 男3
- みきちゃん、サイン出してるよ
- 男2
- え?
- 男3
- サインを出してるよ
- 男1
- 早く言った方がいいんじゃない?
- 男2
- 何を?
- 男3
- 出た、鈍感力
- 男1
- 決まってんじゃん
- 男2
- 着いたら言う
- 男1
- いつ言うんだよ
- 男2
- スキー場で言う
- 男1
- 何を躊躇してんの?
- 男2
- いや、何かさあ、メールがなかなか返って来ないんだよ。彼氏いるっぽいし
- 男1
- 何で分かるんだよ
- 男2
- メールがなかなか返って来ないから
- 男3
- あのさあ、ちょっと寒くない?
- 男1
- うん、サムイ。おまえ、サムイわ!
- 男3
- そうじゃなくて、バスの中、寒くない?
- 男1
- え? そう? まあ、今、ドア開いてるし。あ、みきちゃん帰って来た。走り方、可愛い~(男2に)おまえ、後ろでみきちゃんといちゃいちゃすんなよ
- 男2
- しないよ。おまえも運転手さんに話かけるなよ
- 男1
- 話しかけねえよ
- 男2
- ちょっと可愛かったらすぐに
- 男3
- 運転手さん、美人だよね
- 男1
- そうなんだよ
- 男3
- 柴咲コウに似てる
- 男1
- そうなんだよ。見てるなあ
- 乗車口のステップを駆け上がる足音(女1登場)
続いて、ステップを上がる足音(女2登場)
- 男1
- みきちゃん、遅い。出発しちゃうよ?
- 女1
- メチャクチャ混んでて
- 男1
- 女の子は大変だよね
- 女1
- 何、聴いてんの?
- 男1
- こいつ、音楽ばっかりだよ
- 男3
- 夜景を見ながら音楽聴く幸せ、分かる?
- 女1
- 分かる。一番前の席でよかったね
- 男3
- みきちゃんも、前来る?
- 男1
- おい、俺はどうなるんだよ
- 女1
- 私、ココでいい
- 男1
- 私、ココ「が」いい(と、男3を笑う)
- 男3
- (悔しい)
- 運転席と客席の間のカーテンを閉める音
- 男3
- えっ、えっ、あの、すみません
- 女2
- はい?
- 男3
- カーテン、閉めるんですか?
- 女2
- はい
- 男3
- 開けといてもらえませんか
- 女2
- この後、車内の電気を消しますので。外の明かりが入らないように
- 男1
- そうだよ。結構眩しいんだよ。高速道路の明かりは。ねえ
- 女2
- ええ、すみません
- 男1
- いえいえ~
- カーテンを閉める音
- 男1
- 柴咲コウ
- 女1
- ああ、柴咲コウだー。誰かに似てるなと思ってたのよ
- 男1
- あ、思ってた?
- 男2
- 声は全然違うけどね
- 男3
- これで電気消えたら、拷問だよ。寒いし
- 扉の閉まる音
バスの発車音
車内放送
- 女2
- それでは出発致します。このあと、長野に到着まで降りることは出来ません
- 男3
- 拷問だ…
- 女2
- お手洗いは車内中央の階段を下りた所にこざいます。このあと、11時になりましたら、車内の電気を消させていただきます。それでは、安全運転で参ります。到着までごゆっくりお休み下さい
- 男1
- 消灯するまで何か話そうよ
- 男2
- おまえ、子供みたいに後ろ向くなよ
- 男1
- 柴咲さん、可愛いのに声がお疲れさん
- 男2
- クリスマス勤務だもん。ブルーになるって
- 女1
- ねえねえ、さっきね、見たんだけど
- 男1
- 何、何?
- 女1
- さっき、サービスエリアで運転手さん、顔こうやってパチパチしてた
- 男1
- それ、どういうこと?
- 女1
- こうやって頬っぺた叩いて、ふぅ(と、気合入れる)って
- 男2
- それって
- 女1
- それって、眠いってことじゃない?
- 男2
- だよね
- 男1
- おいおい、そんなところ、乗客に見せるなよ
- 女1
- 何か、不安になるよね
- 男2
- 頬を叩かないと寝てしまうみたいな?
- 女1
- それくらい眠いみたいな
- 男1
- おいおい、大丈夫かよ(男3に)おい、聞いた? 柴咲、眠いって
- 男3
- いや、そこはさあ、信頼しようよ。心配しても仕方ないって
- 男2
- でも、ごく稀にニュースでやってるもんね。居眠り運転で衝突とか
- 女1
- そう、だから、ちょっと怖いなと思って
- 男1
- みきちゃん、そんな話したら、眠れないじゃん
- 女1
- ごめん。見ちゃったから
- 男2
- うん、顔パンパン見たら、そりゃ言いたくなるよ
- 女1
- ごめん、おやすみ
- 男1
- ああ、おやすみ…
- 車の走る音
缶から飴の出す音
- 男1
- おい、おい
- 男2
- 何だよ
- 男1
- 聞いた?
- 女1
- 聞いた
- 男3
- 聞いた
- 男2
- 何を
- 男1
- 飴、食ってる。柴咲、飴食ってる
- 男2
- 食ってもいいだろ、別に
- 男1
- いや、そういうことじゃなくて
- 男3
- 仕事中に飴食っていいのかって話
- 男1
- そうじゃない。飴を食べるってことは?
- 男3
- 口さみしいんだよ
- 男1
- 眠気を覚ましてんだよ!
- 男2
- おまえ、声が大きいよ
- 女1
- やっぱり、眠たかったんだ
- 男2
- 飴食うくらい、眠いってこと?
- 男1
- そう。ヤバくない? あの音はきっとサクマ式ドロップだよ。コレで、フルーツ味じゃなくてハッカとか食べてたら、もうすぐ衝突だよ
- 男2
- おまえ、大げさなんだよ
- 男1
- いや、命に関わる問題だから
- 男2
- じゃあ、言って来れば?
- 男1
- 何て
- 男2
- 寝たら死にますよって
- 男3
- 寒いしね
- 男2
- それは関係ない
- 女1
- 寝たら全員死にますよって
- 男2
- それだね
- 男1
- 言ってくる
- 男3
- ダメだよ
- 男1
- え?
- 男3
- 声かけたらダメなんだよ
- 男1
- ダメって言われても
- 男3
- いや、ホントに。条例で禁止されてるから
- 男1
- 条例?
- 男3
- そこの入り口に書いてあった。以下のことをしたら、罰せられますって
- 男1
- 以下のことって?
- 男3
- 運転中、みだらに話しかけること
- 男2
- みだりに
- 男3
- あ、そうそう。みだらに
- 女1
- それ、条例やぶったらどうなんの?
- 男2
- 罰せられるんでしょ?
- 女1
- 罰金ってこと?
- 男3
- だろうね
- 男1
- いや、でも、寝ないでって言うくらいいいだろ
- 男3
- どうだろ
- 男1
- だって、命かかってんだから
- 男3
- 声かけたいんでしょ? 可愛いから
- 男1
- いやいやいや
- 男2
- その口実作ってんの?
- 男1
- いや、今、そういう話じゃなくて
- 女1
- 声、かけた方がいいと思う
- 男1
- だろ?
- 男2
- でも、条例は?
- 女1
- 罰金っていくらくらいなの?
- 男3
- それは書いてなかったけど、例えば、大阪の御堂筋っていう道路は、路上喫煙が禁止されてるんだって。もし、道でタバコ吸ったら1000円取られるらしいよ
- 男1
- それ、全然参考にならないんだけど
- 女1
- 1万円くらいかなあ
- 男1
- え、話しかけるの、そんなに悪いこと?
- 男2
- 危険だもんね。命かかってるし
- 女1
- じゃあ、10万とかもありえる?
- 男2
- ありえるよね
- 男1
- じゃあ、割り勘な
- 男2
- は? 何で
- 男1
- これはみんなの問題だから
- カーテンの向こう側から女2のくしゃみ
- 男1
- 柴咲?
- 再び女2のくしゃみ
- 男1
- 柴咲、くしゃみした。ヤバイ!
- 男2
- くしゃみはいいだろ
- 男1
- いや、何言ってんだ、おまえ。くしゃみする時ってどうなる
- 男2
- どうなる?
- 男1
- 一瞬、目を瞑るだろ
- 男2
- 瞑るか?
- 女1
- ヘックシュン。瞑らない
- 男1
- みきちゃん、それ、ホントにくしゃみしてないから
- 男2
- 確かにヤバイけど、だからどうしたらいいんだよ
- 女1
- だから、アレでしょ? もう、噂するのやめよって
- 男1
- みきちゃん、違う
- 男3
- エアコンだよ! だから言ってるじゃないか。やっぱ寒いんだよ
- 男1
- 温度上げるように言った方がいいな
- 男3
- いや、その必要はない
- 男1
- は?
- 男3
- 柴咲が寒いってことは、車内も暖かくなるってことだよ
- 男1
- ああ、そうか
- 女1
- よかったね
- 男3
- よかったあ
- 車の走る音
- 男3
- 寒いっっ!どういうことだ!
- 女1
- 暖かくなってない?
- 男3
- なってない!
- 男2
- そんなすぐにはならないよ
- 男3
- いや、さっきのくしゃみから、これくらいで暖かくならなかったらおかしい
- 女1
- じゃあ、やっぱり噂じゃない?
- 男3
- それはないっ
- 男2
- まあ、クリスマスの夜だもんな。何人の男たちが噂していることか
- 女1
- 彼女、可愛いもんね。今夜、彼女の携帯にはメールが殺到している
- 男2
- かもね
- 女1
- でも、彼女は運転中。メールしてもメールが帰って来ない。そして勝手に疑心暗鬼になって終わって行く
- 男2
- うん
- 女1
- 見えない相手のことは、勝手に判断しないのが一番だよね
- 男2
- …だよね
- 女1
- …運転手さんのこと、信じよ
- 男2
- うん、そうしよう
- 車内の電気が消える
- 女1
- あ、電気消えた
- 男2
- もう寝よう
- 女1
- うん、おやすみ
- 男2
- おやすみ
- 男3
- こんなに暗くなるのか…
- 男1
- もう一段階、暗くなるよ
- 男3
- 拷問だ…。前も後ろも気になって仕方ない
- 男1
- ああ
- 車の走る音
女2の頬を叩く音
女2の「ふぅ」という気合の入れる声
- 男1
- はい、集合…
- 男3
- うん
- 男1
- 聞いた?
- 女1
- 聞いた
- 男2
- やっぱ、言おう
- 男1
- 言おう
- 眠れないクリスマスの夜は続く
- 終