- 賛美歌。
街の雑踏。
男2人が、ケンカしている。(つかみ合い)
- 男1
- いや、お前がおかしいんだろうが。
- 男2
- お前がおかしいんだろう。
- 男1
- ああ?
- など、一触即発の感じ。
そこへ、パトカーのサイレンの音。
止まり、ドアが開き、警官が駆けつける。
- 警官1
- やめなさい!
- 警官2
- よしなさい!
- 警官1
- 警察です。ケンカやめなさい!
- 警官2
- 手はなしなさい!やめなさい!
- 男2
- (意に介さず)なんだよ。
- 男1
- なんだよ!
- さらにもめる。
- 警官2
- やめなさい!
- 警官1
- クリスマス!クリスマスだから!
- 警官2
- 離れなさい!クリスマスですから!
- 警官1
- 聖夜!聖夜だから!
- 警官2
- 聖夜ですから。手はなしなさい!
- 男1
- 離せよ!
- 警官、2人を、引き離す。
- 警官1
- 聖なる夜だから。ね。ケンカやめなさい。
- 警官2
- クリスマスですから。
- 警官1
- 何があったの。これ。ええ?
- 男2
- いやいや、僕が、チキン買うのに並んでたら、
なんかこいつが横から入ってきて、
- 男1
- いや、お前だろう入ってきたのは。
- 男2
- はあ?
- 男1
- お前が横から入ってきて、俺が順番抜かされて、
- 男2
- いや、お前だろうバカ。お前がチキン、横はいりして、
- 男1
- 何だよ。
- 男2
- 何だよ!
- またもつかみあう。
- 警官2
- (制して)だからやめなさい!
- 警官1
- よしなさい!ホーリーだから!ホーリーだから今夜は。
- 警官2
- ケンカはそぐわないから!やめなさい!
- どうにか引き離す。
皆、息が荒れている。
- 警官1
- ね。離れてちょっと。ホーリーナイト。ね?
ののしりあう夜ではないから。
- 警官2
- 汚い言葉やめましょう、今夜は。ね。
- ガン!(男1がクリスマスツリーを蹴る音)
- 警官1
- あっ、こら。
- 警官2
- ツリー蹴らないでください。
- 警官1
- 飾りがポロポロ落ちてくるから。
- 男2
- 直せよ。
- 男1
- はあ?
- 男2
- ツリーの飾り、落ちてんだろう。
拾って直せよ。
- 警官2
- まあまあまあ……。
- 男1
- お前が直せよ。
- 男2
- はあ?お前がやったんだろう。
お前が直せよ。
- 男1
- いや、お前が直せよ。
- 男2
- 何だよ!
- 警官2
- (制して)もうもうもう!
- 警官1
- 君ら、恥ずかしくないの。ええ?
こんな夜に。ええ?きよしこの夜に。
何を、いがみ合ってんの。一番神聖な夜でしょう。
- 警官2
- ちょっともう、1人づつ聞いていきますから。
(男2に)あなたから。どうなったんですか?
- 男2
- いや、ですから、僕普通にチキン買おうと思って、
列に並んでたんですよ。
- 男1
- (横から)普通にじゃなかっただろう。
- 男2
- いや、普通に並んでたんですよ。そしたら。
- 男1
- だから普通じゃなかっただろうお前!
- 警官1
- (制して)サイレント!サイレント。
- 警官2
- (1に)ちょっと、黙っててください。
- 警官1
- サイレントナイトに、怒号が響いてたら、台無しですから。
- 警官2
- (2に)で、どうなったんですか。
- 男2
- (イラッとして)その、何でいちいち、クリスマスを引き合いに出すんですか?
- 警官1
- 君らが、もめてるからでしょう。
- 警官2
- あなたたちが、このクリスマスムードを台無しにしてるワケですよ。
- 警官1
- 見なさいよ、この、街のイルミネーションを。ええ?
幸せそうな街じゃない。ね?今夜ぐらいは、安らかにいこうじゃない。
- 警官2
- で、どうなったの。
- 男2
- いやだからね、チキンに、並ぼうとしたら、
こいつがなんか、いちゃもんつけてきて。
- 男1
- だから違うって。
- 警官1
- (1に)君のほうは、どういう感じだったの。
- 男1
- いやだから、僕のほうが、むしろ先に並んでたんですよ。
で、ちょっとまあ、列から一瞬はずれたら、
- 男2
- ほらほら。
- 男1
- なんか、そのスキにこいつが割り込んでて
- 男2
- (笑って)そんなもんねえ、外れてるほうが悪いじゃないですか。
- 男1
- いやいや、外れてないよ。キープしつつ、一瞬、出ただけで。
- もめかける。
- 警官2
- (引き離して)はいはいはい、もめないもめない。
- 警官1
- カッカしなさんなって、いちいち。カッカしなさんな。
クリスマスだってことを、常に、念頭においときなさい。
- 警官2
- イルミネーション、あそこ光ってますから。
- 警官1
- 常に、あれを視界の端に入れときなさい。
- 男1
- まあまあ、だからね。僕は、ただ並んだだけなんですよ。そしたら。
- 男2
- だから、俺いたって言ってんだろう。
- 男1
- だから、いたっつうか、いなかったから。
- 警官2
- えー、つまり、あれだと。
両者、チキンを買おうとして、それがまあ、こじれたと。
- 警官1
- なるほど。書いといて。
- 警官2
- (書きながら)えー、チキンによる、モメである、と……。
- 警官1
- ね。確かにね、分かるけども。
チキンを、我先に、求む気持ちは分かるけども。
それで、いがみ合っちゃ、しょうがないじゃない。ね。
キリストの生誕を祝う、チキンの意味合いが、ずれてきてるじゃない。
- 男2
- いやまあ、そこまでのつもりもなかったですけど。
- 男1
- ただ、チキン買い占めようとしただけで……。
- 警官1
- 両者、ええ?クリスマスの夜に、
チキンを、食べようとしたと。買い占めようとしたと。チキンに、諸人がこぞったと。
それで何をもめることがある?
素晴らしいじゃない。主はきませりじゃない。
- 男1
- 確かにまあ、神聖な夜っていう、意識は、薄かったですけど……。
- 男2
- うん……。
- 警官2
- ……あ。
- 男2人
- (気づいて)ああ。
- いつのまにか、雪が降っていた。
- 警官2
- 雪ですねえ。
- 警官1
- ほらほら。ね。いつのまにか、ホワイトクリスマスですよ。
醜く争ってたら、こんな雪にさえ、気づかないわけですよ。
- 男1
- そう、っすねえ。
- 警官2
- とりあえずじゃあ、署まで、来ていただけますか。
- 男1
- え?
- 警官1
- 書類をね、我々作んないといけないんで。
- 男2
- え、今からですか。
- 警官2
- すいませんが、ご同行、お願いいたします。
- 警官1
- はい、お願いしまーす。
- 男1
- えー。
- 男2
- いやいや、ちょっと、僕あれなんですよ。
今からちょっと、約束あるんですよ。
- 警官1
- はい、ノーは言わない、ノーは言わない。
- 男2
- いやいや、ホントにあの、
彼女が待ってて、あの、チキン……
- 警官1
- イエスが生まれた日に、ノーは言わない。
- 警官2
- 速やかに、乗ってくださーい。
- 男1
- (ボソッと)どうせ、ぶっさいくな女だろう。
- 男2
- は!?ちょっと、今なんていった。今お前なんていった!ええ?
- 男1
- 早く乗れよ。
- 警官1
- (制して)モメなさんな。ね?
鈴の音が、聞こえなくなるから。
- 警官2
- (無線の音)もしもし。
今、ケンカおさまりました、どうぞ。
チキンの、行列の並びで、もめたみたいです……
- 警官1
- (男2を見て、慌てて)刃物やめなさい、君!ええ!
- 男1
- ちょっとちょっと!
- 警官2
- ちょっと、やめなさい!やめなさい!
- 警官1
- ホワイトクリスマス!刃物はそぐわないから!
- 警官2
- しまいなさい。
- 警官1
- ホワイトでいこう。ホワイトで。今宵は。
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- 鈴の音と、クリスマスっぽいED曲。
- END。