- アパートの部屋。
3人の男が集まっている
ところへ、ドアが開く。
4人目が帰ってくる。
- 男④
- 帰ってきた。
- 男③
- 持ってる。
- 男②
- (驚いて)でけぇー。
- 男④
- あれ、七面鳥!?
- 男①、部屋に入ってくる。
- 男①
- おっらー!(七面鳥の入った袋を、テーブルの上に)
- 全員
- うわー!(テンションあがる)
- 男③
- でっけー!
- 男①
- ターキー。
- 袋をがさがさとあける。
- 男②
- 何、七面鳥ってこんなにでかいの?
- 男③
- 予想以上のでかさ。
- 男④
- よく売ってたなー。
- 男①
- もう腕がだるい。(笑って)七面鳥が重くて腕がだるい。
- 男④
- すごいなー。
- 男②
- いいクリスマスになりそうじゃねえかよ。
- 男④
- 食いでがあるよなー。
- 男①
- あそこ、並んでたよ。
- 全員
- (軽蔑した感じで)あー。
- 男③
- 並んでた?
- 男①
- 並んでた。
- 男③
- やっぱ並んでた。
- 男④
- 予想どおり。
- 男①
- 恋人たちがこう……。
- 全員
- (笑って)うわー。
- 男②
- ああそう。クリスマスだから。
- 男③
- 何ていうの、それはもう、妥協だよね。
- 全員
- うんうん。
- 男②
- 妥協だね。
- 男④
- 確かに、商品としてはしっかりしてるけど、
- 男①
- お手軽だからね。
- 全員
- うんうん。
- 男③
- あれに逃げちゃだめなんだよ。
- 男②
- あれはね。もう逃げだからね。
- 男③
- 恋人たちの逃げだから。
- 男①
- クリスマスともう、一切向き合ってないから。
- 男②
- こっちがね、本当のクリスマスだからね。
- 全員
- うんうん。
- 男①
- 間違いない。
- 男③
- 七面鳥焼いてこそ、真のクリスマスだからね。
- 男①
- 意味ないから。そうしないと。クリスマスの。
- 男④
- もともとだって、お祭りだもんね。
- 全員
- うんうん。
- 男②
- そう。儀式だからねぇ。
- 男④
- キリストの生誕を祝う……。
- 男②
- そんな、浮ついたもんじゃないからねぇ。
- 男①
- 悪い癖。日本人の。
- 全員
- (笑って)うんうん。
- 男①
- なんか、恋人と過ごしてこそ、みたいなのは。
- 男②
- ずれちゃってるからね。本来の意味と
- 男④
- これでも、どうやって焼く?
- 全員
- うーん。
- 男③
- それが問題だなー。
- 男①
- 焼くは焼くよな。
- 男②
- 焼くは焼くとして……。
- 男①
- ちょっとじゃあ、持っていこうよ。
- 男②
- キッチンに。
- 全員、キッチンへ。
- 男③
- (持ち運んで)重い!
- 男②
- 何、こんなにでかいの?赤子を抱いているかのような……
- 男①
- (男④に)キッチン、散らかってんだろ。
- 男④
- ちょっとごめん、スペース作るわ。(鍋などを動かす)
- 男②
- お前、片付けとけよ。
- 男③
- 重い。
- 男②
- ターキー置くスペース、ねえじゃねぇかよ。
- 男③
- 重い。
- 男①
- 何、自炊してないの?
- 男④
- してない。
- 男②
- 汚いキッチンで……。
- 男④
- (片付け終わって)このじゃあ、まな板の上に。
- 男③、置く。
- 全員
- わー。
- 男①
- (笑って)でけー。
- 男②
- 改めてでかいなあ。
- 男④
- すごい、存在感を放ってるよねえ。
- 全員
- うんうん。
- 男③
- 肉感的だー。(ピタピタ触る)
- 男①
- 叩くなよ。(男④に)ちょっとじゃあ、オーブンとか、ないの?
- 男④
- ない。
- 男③
- オーブンないの?
- 男④
- ないよ。
- 男②
- オーブンなくておまえ、どうやって七面鳥焼くんだよ。
- 男①
- オーブンなかったんだ。
- 男④
- ないよそんなの。レンジならあるけど。
- 男②
- レンジでお前、どうやって焼くんだよ。狐色に。
- 男③
- あったまるだけじゃねえかよ。
- 男④
- そっか。
- 男①
- オーブンないんだ。もうじゃあ、切って、フライパンで炒めて……。
- 全員
- いや……。
- 男②
- 切るのは、違うだろ。それは。
- 男④
- せっかく丸ごとあるのに。
- 男③
- 切ったら値打ちがなくなるから。
- 男①
- なるほどな。
- 男②
- このでかさを、生かしていきたいから。
- 男③
- もうじゃあ、丸焼き。こう、くしに刺して、コンロでこう……。
- 全員
- おー。
- 男②
- いいねえ。豪快だねぇ。
- 男③
- こう、肉汁がしたたり落ちてきて。
- 全員
- おー。
- 男①
- いいねぇ、カバブ的なのね。
- 男③
- カバブ方式で。
- 男②
- 男の料理みたいな感じで。
- 男①
- (男④に)串は?
- 男④
- 串ないよ。
- 男①
- 串ないの?
- 男②
- 串もないの?
- 男④
- 串なんてないだろう、そんな長いの。
- 男②
- あー……。
- 男①
- じゃあもう、鍋に入れて、蒸し焼きにするみたいな。
- 全員
- あー。
- 男②
- ふたしてね。
- 男①
- オーブン効果を狙うみたいな。
- 男③
- 周りから熱を加えて
- 男④
- できんの?
- 男①
- 分かんないけど、なんかそれが一番近そうだから。
- 男②
- 本来の形にねえ。
- 男①
- ちょっとじゃあ、洗おっか。
- 全員
- おお。
- 男③
- 丸洗い。
- 男②
- 洗った方がいいかもねえ。
- 男①、水を出して、洗う。
- 男②
- なんか、ぶよぶよしてんねえ。
- 男①
- 気持ち悪ー。なんか本当に赤子を洗ってるみたいな。
- 男②
- 産湯のような。
- 男①
- そうそう。
- 男③
- いや、これはいいね。まさにガチンコのクリスマスだから。
- 全員
- うんうん。
- 男②
- ガチだね。ガチで行ってるね。
- 男③
- 七面鳥焼いてるやつらなんてそういないから。
- 男①
- 大体なんか、あれで済ましちゃうみたいな。
- 男②
- 妥協してね。
- 男③
- それじゃ逃げなんだよ。
- 男①
- 意味を失ってるからね。
- 男④
- これだから、むしろあの恋人たちに見せてやりたいよね。
- 全員
- うんうん。
- 男①
- これがクリスマスだと。
- 男④
- そうそう。浮ついた町の恋人たちに。
- 男②
- これぞクリスマスだと。
- 男③
- 見ろと。
- 男②
- 間違いないからねえ。
- 男①
- これが正しいクリスマスだから。
- 男①、洗い終わる。
- 男②
- 洗い終わった。
- 男①
- こっからなんだよ。こっからいかにして、このでかい物体を……。
- 男③
- あれは?味付け。
- 全員
- あー。
- 男④
- 味付け。
- 男②
- 焼く前に味付けだよ。
- 男①
- 何だろう。塩コショウとかかな。
- 男③
- コショウは?
- 男④
- コショウない。
- 男②
- お前、何も持ってねえじゃねえかよ。
- 男④
- いやだって、自炊しないもん。
- 男①
- なんでここを厨房に選んだんだよ。俺たちは。
- 男②
- 俺の部屋のほうが良かったじゃん。
- 男③
- あれは?粒コショウ。
- 男④
- 粒コショウ?
- 男③
- こうなんか、擦るやつ。大航海時代に高く取引されたやつ。
- 男②
- ないだろう。
- 男①
- コショウないのに、粒コショウないだろう。
- 男④
- ・・・・・・。
- 男①
- え、あんの?
- 男②
- 粒コショウあんの?
- 男④
- ・・・・・・ない。
- 男②
- ないんじゃねえかよ。
- 男③
- なんで黙ってたんだよ。
- 男④
- あるわけないからだよ。
- 男①
- じゃああれは?醤油は、ちがうかなあ。
- 男③
- 違うねえ。
- 男②
- 和風になっちゃうからなあ。
- 男①
- あー。
- 男③
- 和風の感じは、できるだけ排除していきたいから。
- 男②
- クリスマスだからねえ。なんと言っても。
- 男④
- ソース。こう、ウスターソース。
- 全員
- いやいや・・・・・・
- 男②
- お前ソースは違うだろう。
- 男①
- ソースは話が変わってくるからなあ。
- 男④
- 話?
- 男③
- ソースの味になるから。
- 男①
- ソースがうまいみたいな。
- 男④
- あー。
- 男③
- ソース最高説。
- 男②
- 今回は、どっちかっていうと、素材の味を生かしていきたいので・・・・・・。
- 男①
- ま、塩だな。
- 全員
- うんうん。
- 男②
- それしかないからねえ。
- 男①
- 塩をこう、七面鳥に刷り込んで。
- 男②
- あー、あらかじめ。
- 男③
- それじゃあ、俺やるわ。
- 男①
- おお。
- 男④
- 塩これ。(渡す)
- 男④、刷り込む。
- 全員
- (見て)あー。
- 男①
- いいねえ。いい感じだねえ。
- 男②
- なじませてね。
- 男①
- そう。その感じ。いいねえ。
- 男③
- こうだろう。(もみ続ける)
- 男④
- 七面鳥って、なんで七面鳥って言うんだろう。
- 男①
- あー。
- 男②
- なんだろう、七面?
- 男①
- 七つの顔。七つの顔ね。
- 男②
- (笑って)なんか、七面性があったんじゃねえの?
- 男④
- 七面鳥に?
- 男②
- 七つの顔を持ってたんじゃねえの?
- 男①
- (ノッて)すごいね。人間でも、大体2面性までなのに。
- 男③
- 大体、やさしさと、厳しさみたいな。
- 全員
- うんうん。
- 男①
- そのぐらいだよね。
- 男②
- (笑って)さらにあと5面あるからねえ。
- 男①
- 何だろう。ずるさとかかな。
- 全員
- (笑う)
- 男②
- ずるさね。
- 男①
- ずるい鳥。
- 男③
- あと。純粋さ。
- 全員
- (笑う)
- 男①
- 逆にね。
- 男②
- ずるさと純粋さを併せ持ってるっていう。
- 男③
- そういう鳥。
- 男④
- あとあれ。あの少年っぽさ。
- 全員
- あー。
- 男②
- 意外だねえ。意外な一面をもってる。
- 男④
- 元気に飛び回るっていう。
- 男③
- そういう一面ね。
- 男①
- それでいて、渋さな。
- 全員
- うんうん。
- 男②
- 渋さもあるよね。
- 男①
- なんか、思慮深い感じの。
- 男④
- 大人の魅力がこう・・・・・・。
- 男③
- 最後、エロさ。
- 全員
- (笑う)
- 男①
- 最後な。
- 男②
- エロさ。
- 男③
- ベッドの上でも魅力的っていう。
- 男②
- 夜の顔を持ってるっていう。
- 男①
- 最高の鳥じゃん。
- 男②
- 実にさまざまな魅力にあふれた・・・・・・。
- 男④
- 食べるのがもったいないぐらいの。
- 男②
- それに引き換え、俺たち何にもないからねえ。
- 全員
- (笑って)うーん。
- 男①
- なんもない。
- 男③
- エロさだけあるからねえ。
- 男④
- (笑って)そこだけ。
- 男①
- あと何もない。
- 男②
- 七面鳥の方がよっぽど、魅力にあふれているっていう。
- 男③
- まあまあ、反省してもしょうがないから。
- 男②
- まあね。
- 男③
- 今日は聖なる日だから。
- 男④
- そうだね。
- 男①
- キリストを祝う日だから。
- 男④
- エロさとか、そんなのあれだから。
- 男②
- 煩悩はね。今日はおいといてね。
- 男④
- (男③に)とか言いつつおまえ、手つき怪しくない?
- 男③
- 何が?
- 男④
- 七面鳥をもむ手つき、怪しくない?
- 男③
- そんなことないよ。普通だろう。
- 男②
- ちょっとやらせろよお前。俺にも。
- 男④
- 俺もやりたいよ。
- 男③
- この辺なんかねえ、すごいいいんだよ。
- 男②
- どこ?
- 男④
- この辺。
- 全員
- (触って)あー。
- 男①
- いいねえ。
- 男②
- 実にいい弾力返してくるねえ。
- 男①
- 肉感的なこう・・・・・・。
- 男②
- 劣情をもよおしてくんねえ。
- 男④
- バターとかいる?
- 男③
- バターあんの?
- 男④
- バターある。(取りに行く)
- 男①
- バターはあるんだ。
- 男②
- ぐっちゃぐちゃになってんじゃん。
- 男①
- 何のクリスマスだよ。
- 終了