部屋。
男女、話している。
それにしてもさあ、気前いいよなあ。
ああ、サンタ?
うん、サンタ。だってさあ、プレゼントくれんねんで?
あー。
しかも、見ず知らずの子供に。
まあ、確かに、かなりきっぷのよさはあるよなあ。
あるよ。
こう、太っ腹っていうか。
うん。しかも、世界中の子供にやで。
あー。
全世界の子供一人一人に、おもちゃとか、お菓子とか……。
こう、そこそこ値がはるやつをな。
うん。もう、分けへだてなく、あげるっていう。
あー。……そう考えたら、確かに、めっちゃ気前のいいオッサンやなあ。
やろ?もうだから、「足長おじさん」やね。世界的な。
ああ、こう世界の子供たちの、パトロンみたいな。
うんうん。
メディチ家みたいな。
うん……それは分からんけど、でも、すごいよなあ。
しかも、さらにすごいのは、そんだけ色々プレゼントしといて、それの見返りを一切、求めへんっていう。
あー。
もう、あげるオンリーっていう。
そっか。向こう、一切得せえへんもんなあ。
もう、こっちはただ、ありがたくもらうだけやから。なかなかないよ?こんな世知辛い世の中に。
普通なにかしらこう、取引があるもんなあ。
ギブアンドテイクの、テイクが成立してへんから。
ギブだけや。
うん。しかもその、ギブした子供の笑顔すら、見ようとせえへんから。
あー。こう、プレゼント置いて、すぐ帰るっていう。
煙突からな。で、朝おきたら、プレゼントだけが、朝日に輝いてるっていう。
あー。じゃあもう、めっちゃええ人やなあ。
もうめちゃめちゃええ人。もうだから、完全なる善意?
あー、ボランティア。
うん、もう子供が喜ぶのを想像するだけで、オールOKみたいな。こっちはもう、ノーリスクハイリターンやから。
うんうん。
年に一度の、歳末ジャンボやから。
で、しかもそれを、身銭切ってんねんもんなあ。
あー、うんうん。
世界中の子供らの分を、全部自分で出してるっていう。
もう、マイナスを一手に引き受けてな。もうだから、そういう意味では、キリストやな。
うん……キリスト?
こう、ありとあらゆる罪を、一人で背負うみたいな。原罪を。
あー……、まあ何となく分かるけど。
うん。聖人やな。聖なる夜にふさわしいよ。
で、なおかつ、そういう苦労を、一切外には感じさせへんっていう。
こう、あくまで太っ腹に振舞ってな。
うん。粋やなー。
粋やわ。めっちゃいなせ。
うーん。
もうだからあれやな。考えうる、最高の人格やな。セイント・クロース……。
うん、だけど、おらへんねんな。
せやねん。
架空の人物やねんな。
うん。いたらどれほど素敵かと思いきや、存在せえへんねん。
うん。
実在せえへんねん。悲しいかな。
っていうか、親やねんな。
(笑って)そうやねん。
サンタの正体は。
あのごっついすばらしい人格その裏は、うちの親やねん。
うん。
だからあれやな。結局その、世界中の親が、結託して作り上げた、虚像?
うんうん。
めっちゃ夢のないこと言ってるけど。
こう、子供に夢を与えるために、
こう、親同士で示し合せて作った、理想の人物みたいな。
うんうん。
善意の象徴みたいな。(感心して)そういうことやねんな。
ほんで、それがこうじゃあ、親から子に、受け継がれていくっていう。
あーこう、世代交代してな。
うん、だまされる側からだます側にこう、シフトしていくっていう。
循環してな。(感心して)ようできてるなー。
うーん。
ものすご巧妙なシステムやな。そやねん、そういうことやねん。あの赤い服の下は、そういうからくりになってんねん。
うん。サンタの中身は。
うん。ほんで、さらに言うと、その秘密を知ることが、大人への階段になってんねん。
あーその、赤い服の下をのぞくことが、
こう、割礼みたいな。
あー。(笑って)暴いたなー。
暴いたよ。めちゃめちゃ暴いたよ。
もう、赤裸々に暴いたな。
うん。だって、おかしいもん。そんなプラスのみをもたらしてくれる存在なんて、ありえへんもん。
ふつう、どっかでマイナスが付きまとうもんな。
うん。それはだから、すべての親が、ちょっとづつ負担してんねん。こう、子供に夢を与えるために。
うん。……あんた、いつ気づいたん?
ああ、俺?
うん。サンタがそうやって、いいひんってこと。
俺は……確か小学校1.2年ぐらいの時かなあ。当時、ビックリマンって、流行ってたやん。
あの、シールのやつ。
うんうん。俺あれめっちゃ集めてて。それで、クリスマスの時に、こう、親から「今年はサンタさんから何ほしい?」みたいなこと聞かれて、「ビックリマン全種類」って答えてん。そしたら、親が、慌てて。
(笑って)あー。
リクエストしたら、なぜか親が狼狽してん。でまあ、そのときに、「ああ、サンタっていうのは、こういうことか」っていう。
気づいたんや。
システムの片鱗が垣間見えた、みたいな。お前は?
私は、かなりショックやったんやけど。
おお。
幼稚園ぐらいのときかなあ。クリスマスで、サンタさんが来るっていうから、すごい、緊張しててんな。
うんうん。
ほんでもまあ、夜は何とか、寝れたんやけど、夜中、なんか気配を感じて、パッて目がさめてん。
おお。
そしたらこう、ドアに向かって歩いていく、お父さんの後ろ姿が。
うわあ。
こう気づかれんようにそおっと。
それはショックやなあ。
今だに思い出すもん。
こう、忍び足で。
うん、しかも結構大またで。
あー。
その工夫も、なんか悲しいしさあ。
それは気をつけんとあかんなあ。
うん。トラウマになるから。
うーん。……そろそろええかな。
ああ……もう、寝てるんちゃう?
ああ。
12時やし。
よし。……ほな、行こか。
うん。
男、立ち上がる。
まだ秘密を知る歳ではないからな。
気をつけてな。
おお。
……っていうか、大丈夫?
大丈夫やって。
私いこか?
何でやねん。俺行くわ。
だってなんか危なっかしいし。
大丈夫やっちゅうねん。っていうかサンタは男やから。
関係ないやん。見られへんねんから。
いやいや、俺が行きたいねん。
私だって行きたいよ。
俺がサンタやねん。
ずるいー。2人でいこか。
いやいや。成功率下がるやろ。
だって。


END