- 部屋。
男女、話している。
- 女
- それにしてもさあ、気前いいよなあ。
- 男
- ああ、サンタ?
- 女
- うん、サンタ。だってさあ、プレゼントくれんねんで?
- 男
- あー。
- 女
- しかも、見ず知らずの子供に。
- 男
- まあ、確かに、かなりきっぷのよさはあるよなあ。
- 女
- あるよ。
- 男
- こう、太っ腹っていうか。
- 女
- うん。しかも、世界中の子供にやで。
- 男
- あー。
- 女
- 全世界の子供一人一人に、おもちゃとか、お菓子とか……。
- 男
- こう、そこそこ値がはるやつをな。
- 女
- うん。もう、分けへだてなく、あげるっていう。
- 男
- あー。……そう考えたら、確かに、めっちゃ気前のいいオッサンやなあ。
- 女
- やろ?もうだから、「足長おじさん」やね。世界的な。
- 男
- ああ、こう世界の子供たちの、パトロンみたいな。
- 女
- うんうん。
- 男
- メディチ家みたいな。
- 女
- うん……それは分からんけど、でも、すごいよなあ。
- 男
- しかも、さらにすごいのは、そんだけ色々プレゼントしといて、それの見返りを一切、求めへんっていう。
- 女
- あー。
- 男
- もう、あげるオンリーっていう。
- 女
- そっか。向こう、一切得せえへんもんなあ。
- 男
- もう、こっちはただ、ありがたくもらうだけやから。なかなかないよ?こんな世知辛い世の中に。
- 女
- 普通なにかしらこう、取引があるもんなあ。
- 男
- ギブアンドテイクの、テイクが成立してへんから。
- 女
- ギブだけや。
- 男
- うん。しかもその、ギブした子供の笑顔すら、見ようとせえへんから。
- 女
- あー。こう、プレゼント置いて、すぐ帰るっていう。
- 男
- 煙突からな。で、朝おきたら、プレゼントだけが、朝日に輝いてるっていう。
- 女
- あー。じゃあもう、めっちゃええ人やなあ。
- 男
- もうめちゃめちゃええ人。もうだから、完全なる善意?
- 女
- あー、ボランティア。
- 男
- うん、もう子供が喜ぶのを想像するだけで、オールOKみたいな。こっちはもう、ノーリスクハイリターンやから。
- 女
- うんうん。
- 男
- 年に一度の、歳末ジャンボやから。
- 女
- で、しかもそれを、身銭切ってんねんもんなあ。
- 男
- あー、うんうん。
- 女
- 世界中の子供らの分を、全部自分で出してるっていう。
- 男
- もう、マイナスを一手に引き受けてな。もうだから、そういう意味では、キリストやな。
- 女
- うん……キリスト?
- 男
- こう、ありとあらゆる罪を、一人で背負うみたいな。原罪を。
- 女
- あー……、まあ何となく分かるけど。
- 男
- うん。聖人やな。聖なる夜にふさわしいよ。
- 女
- で、なおかつ、そういう苦労を、一切外には感じさせへんっていう。
- 男
- こう、あくまで太っ腹に振舞ってな。
- 女
- うん。粋やなー。
- 男
- 粋やわ。めっちゃいなせ。
- 女
- うーん。
- 男
- もうだからあれやな。考えうる、最高の人格やな。セイント・クロース……。
- 女
- うん、だけど、おらへんねんな。
- 男
- せやねん。
- 女
- 架空の人物やねんな。
- 男
- うん。いたらどれほど素敵かと思いきや、存在せえへんねん。
- 女
- うん。
- 男
- 実在せえへんねん。悲しいかな。
- 女
- っていうか、親やねんな。
- 男
- (笑って)そうやねん。
- 女
- サンタの正体は。
- 男
- あのごっついすばらしい人格その裏は、うちの親やねん。
- 女
- うん。
- 男
- だからあれやな。結局その、世界中の親が、結託して作り上げた、虚像?
- 女
- うんうん。
- 男
- めっちゃ夢のないこと言ってるけど。
- 女
- こう、子供に夢を与えるために、
- 男
- こう、親同士で示し合せて作った、理想の人物みたいな。
- 女
- うんうん。
- 男
- 善意の象徴みたいな。(感心して)そういうことやねんな。
- 女
- ほんで、それがこうじゃあ、親から子に、受け継がれていくっていう。
- 男
- あーこう、世代交代してな。
- 女
- うん、だまされる側からだます側にこう、シフトしていくっていう。
- 男
- 循環してな。(感心して)ようできてるなー。
- 女
- うーん。
- 男
- ものすご巧妙なシステムやな。そやねん、そういうことやねん。あの赤い服の下は、そういうからくりになってんねん。
- 女
- うん。サンタの中身は。
- 男
- うん。ほんで、さらに言うと、その秘密を知ることが、大人への階段になってんねん。
- 女
- あーその、赤い服の下をのぞくことが、
- 男
- こう、割礼みたいな。
- 女
- あー。(笑って)暴いたなー。
- 男
- 暴いたよ。めちゃめちゃ暴いたよ。
- 女
- もう、赤裸々に暴いたな。
- 男
- うん。だって、おかしいもん。そんなプラスのみをもたらしてくれる存在なんて、ありえへんもん。
- 女
- ふつう、どっかでマイナスが付きまとうもんな。
- 男
- うん。それはだから、すべての親が、ちょっとづつ負担してんねん。こう、子供に夢を与えるために。
- 女
- うん。……あんた、いつ気づいたん?
- 男
- ああ、俺?
- 女
- うん。サンタがそうやって、いいひんってこと。
- 男
- 俺は……確か小学校1.2年ぐらいの時かなあ。当時、ビックリマンって、流行ってたやん。
- 女
- あの、シールのやつ。
- 男
- うんうん。俺あれめっちゃ集めてて。それで、クリスマスの時に、こう、親から「今年はサンタさんから何ほしい?」みたいなこと聞かれて、「ビックリマン全種類」って答えてん。そしたら、親が、慌てて。
- 女
- (笑って)あー。
- 男
- リクエストしたら、なぜか親が狼狽してん。でまあ、そのときに、「ああ、サンタっていうのは、こういうことか」っていう。
- 女
- 気づいたんや。
- 男
- システムの片鱗が垣間見えた、みたいな。お前は?
- 女
- 私は、かなりショックやったんやけど。
- 男
- おお。
- 女
- 幼稚園ぐらいのときかなあ。クリスマスで、サンタさんが来るっていうから、すごい、緊張しててんな。
- 男
- うんうん。
- 女
- ほんでもまあ、夜は何とか、寝れたんやけど、夜中、なんか気配を感じて、パッて目がさめてん。
- 男
- おお。
- 女
- そしたらこう、ドアに向かって歩いていく、お父さんの後ろ姿が。
- 男
- うわあ。
- 女
- こう気づかれんようにそおっと。
- 男
- それはショックやなあ。
- 女
- 今だに思い出すもん。
- 男
- こう、忍び足で。
- 女
- うん、しかも結構大またで。
- 男
- あー。
- 女
- その工夫も、なんか悲しいしさあ。
- 男
- それは気をつけんとあかんなあ。
- 女
- うん。トラウマになるから。
- 男
- うーん。……そろそろええかな。
- 女
- ああ……もう、寝てるんちゃう?
- 男
- ああ。
- 女
- 12時やし。
- 男
- よし。……ほな、行こか。
- 女
- うん。
- 男、立ち上がる。
- 男
- まだ秘密を知る歳ではないからな。
- 女
- 気をつけてな。
- 男
- おお。
- 女
- ……っていうか、大丈夫?
- 男
- 大丈夫やって。
- 女
- 私いこか?
- 男
- 何でやねん。俺行くわ。
- 女
- だってなんか危なっかしいし。
- 男
- 大丈夫やっちゅうねん。っていうかサンタは男やから。
- 女
- 関係ないやん。見られへんねんから。
- 男
- いやいや、俺が行きたいねん。
- 女
- 私だって行きたいよ。
- 男
- 俺がサンタやねん。
- 女
- ずるいー。2人でいこか。
- 男
- いやいや。成功率下がるやろ。
- 女
- だって。
- ・
・
・
- END