- クリスマスイブの夜
トナカイがジングルベルを歌いながら
サンタの乗ったソリが行く シャンシャン鈴を鳴らして
- チビサンタ
- 鈴鐘通り3丁目担当。チビサンタ7号、行ってまいります。パラシュート装着。準備完了。3・2・1・バンジー!
- ひゅーんとソリからパラシュートで飛び降りた
- チビサンタ
- ぴゅーん。いやっほーぅ。待ってろよ~、みんなぁ~…
- ジングルベルが鳴る街へ降りていく
雲を抜けて、無数の屋根が見える
夜はどんどん更けて
やがてどんどん空が白んでいく
自分の部屋でトトは目を覚ました
- トト
- う…う~ん…ふわぁ…あっ!プレゼント!
- パタパタと部屋の中を探し回る
- トト
- どこ?どこ?プレゼントどこ?…あれぇ…サンタさん…トトのこと忘れてるの?
- ぱふんとベッドにつっぷした
- トト
- ない、ない、ない。…あれ?何?これ…
- 枕の上にあるものをひとつづづ取り上げた
- トト
- 白、黄色、ぴんく、…枕の上に…こんぺいとう?ううー…こんなのいらなーい。こんなんじゃなーい!
- と、みっつのこんぺいとうを壁に投げつけた
- トト
- トトがお願いしたのはこんぺいとうじゃないもん。サンタさんの、ばーかー!
- キンコーンと玄関のベルが鳴る
- トト
- はぁ!もしかして新しいプレゼント持って来てくれたのかな?
- トントンと急いで階段を駆け下りて勢いよくドアを開ける
- トト
- どなたですか?プレゼントなら…
- チビサンタ
- 自分やー、人がせっかく用意したプレゼント投げ捨てるてどういうことやねん?
- トト
- あれぇ?誰もいませんねぇ。
- チビサンタ
- ここやここ!どこ見とんねん!下や、下!下やっちゅうてんねん!
- トト
- はあっ!!
- チビサンタ
- 何が気にいらんねんな?
- トト
- ちっちゃーい。
- チビサンタ
- 俺、今日は納得行くまで帰らんで。ちょっと上がらしてもらうわ。
- トト
- ちっちゃい、ちっちゃい。チビサンタさん?
- チビサンタ
- 星が欲しいって何やねん?見てみろや、そっくりやろ?星とこんぺいと…ああ、ああ。
- トト
- かるーい。
- チビサンタ
- うわ、放せ。持ち上げんな。…おおっと。落とすなよ。お前の手小さいねんから。
- トト
- あのね、トトが欲しいのはこんぺいとうじゃないの。
- チビサンタ
- 分かってるわ。俺だって必死で考えてんぞ。お前だけやで。3丁目の中であんな抽象的なプレゼント欲しいって言うたんは。なんや?他はけーたいとか、分かりやすかったわ。
- トト
- だって…欲しいものはひとつだけだもん。
- チビサンタ
- 星て…俺にどうせー言うねん?俺に何万光年も旅して星取って来いいうんか?
- トト
- こんぺいとうはお星さまじゃないもん。
- チビサンタ
- そうや。だから代用品になるようなもん頭ひねって考えだしたのに。のに…のに…
- トト
- チビサンタさん?どうしたの?泣いてるの?
- チビサンタ
- お前がいらんとか言うから、俺サンタの統領から怒られたんやぞ。
- トト
- とーりょー?
- チビサンタ
- そうや。サンタの統領がおって、ほんで俺らチビサンタが担当の町内にプレゼントくばるねん。パラシュート開いて降りていくねん。でもなぁ、何か俺失敗多くてなぁ、今度失敗したらサンタ、クビになるって言われてた時に…お前叫んだやろ、さっき。
- トト
- うん?
- チビサンタ
- サンタさんの、ばーかーって。あれ、統領のところまで届いたんやぞ。はぁー…サンタ家業も今苦しいのに…俺リストラ第一号やんけ…
- トト
- ごめんなさい。トトのせい?
- チビサンタ
- お前のせいや。
- トト
- お願いしてあげる。
- チビサンタ
- え?
- トト
- サンタのとーりょーさーん!
- チビサンタ
- わ!あほか、やめろ!何言うねん?
- トト
- トトからのおねがいーでーす。くびにするのはやめてくださーい。
- チビサンタ
- えらいストレートにお願いするな。
- トト
- どうかな?とーりょーさんに届いたかな?
- まっかなおっはなの~と携帯が鳴る
- チビサンタ
- はい、もしもし…あ!統領!え?ええ!分かりました。はい。はい。がんばります。!
- トト
- お電話?
- チビサンタ
- よし!よし、よし、よぉーし!まだ俺にも運があったわ。あんたのおかげやで。
- トト
- どうしたの?
- チビサンタ
- 一回だけチャンスくれるって。
- トト
- ちゃんす?
- チビサンタ
- お前が喜ぶプレゼント渡せたら、サンタ続けてもええって。
- トト
- よかったねぇ。トトもよかったねぇ。じゃあ、ちょうだい。お星さま。
- チビサンタ
- そう、問題はそれや。こんぺいとうでもあかんかったやろ?
- トト
- お星さま、はやく。
- チビサンタ
- 分かった。あれやな?でっかいツリーのてっぺんについてるやつ。
- トト
- あ…
- チビサンタ
- で?どこのが欲しいねん?ディズニーのか?USJか?マイナーなところちゃうやろな?
- トト
- 違う。
- チビサンタ
- ほな、あれや。乙女チックなやつで、ほら、沖縄の…そう!星の砂やろ。あれ安いもんやで?
- トト
- 違う。
- チビサンタ
- じゃあ、直球勝負でプラネタリウムの招待券か?それか…家庭で見える簡易プラネタリウムか?
- トト
- 全然違う。
- チビサンタ
- お前、子供やろ。ほんで最近大人っぽいもんに憧れてるな?その顔は。分かった、OK、みなまで言うな。
- トト
- 分かった?
- チビサンタ
- これはナゾかけやな?星が欲しいとかロマンチックなこと言いながら、その星はマークのことやろ?そうや、コンバースが欲しいんやな?どうや?
- トト
- こんばーす?
- チビサンタ
- 違うんか?
- トト
- 違う…
- チビサンタ
- やめよ。
- トト
- え?
- チビサンタ
- 星、やめよ。他のにして。な?
- トト
- いーや。
- チビサンタ
- いいやん。星以外やったら何でもええから。
- トト
- いや、いや、お星さまがいいの!
- チビサンタ
- 何でやねん?何で?何で!何で星やねん?!それが不思議で意外やわ。
- トト
- だって…
- チビサンタ
- もう星にこだわるな。そんなちっちゃいころから頑固やったら先が思いやられるで。
- トト
- だって…
- チビサンタ
- あかん、あかん。星なんか無理や。
- トト
- …おじーちゃん…
- チビサンタ
- あん?
- トト
- おじーちゃんは、お星さまだからって…
- チビサンタ
- あ…
- トト
- お星さまもらったら、おじーちゃんに、会えるかなって…
- チビサンタ
- …あ、えー…困ったな…
- トト
- 無理なんだったら、もういい…
- チビサンタ
- いや、無理っちゅうかな、それは、ほら、俺らの管轄じゃないし、どっちかっていうと神様のほうで…えーっと…弱ったな…
- トト
- もう、いい。無理なことくらい、わかるもん。
- チビサンタ
- そんなさみしいこと言うなや。
- トト
- こんぺいとうで、がまんする。
- チビサンタ
- でもそれは、今見るとえらい品粗な感じが…
- トト
- 降ってきたらいいのに。
- チビサンタ
- え?
- トト
- 遠いお空できらきらしてるだけじゃなくて、降ってきたらいいのに。そしたらきっとおじーちゃんも、降ってくるのに…
- チビサンタ
- 降ってくる…
- ぴかーっとチビサンタの頭に電球が光る
- チビサンタ
- お!そうや。そうやで。ちょっと失礼するで。
- と、トトの手から飛び降りた
- チビサンタ
- よっと。
- ぴょんとかわいい靴の音
- トト
- ?チビサンタさん、どこ行くの?
- チビサンタ
- 一年。
- トト
- え?
- チビサンタ
- 一年だけ待ってくれな。
- トト
- いちねん?
- チビサンタ
- 来年のクリスマスには絶対星プレゼントするから。
- トト
- らいねん?
- チビサンタ
- そう、来年の、いやいや、来年だけちゃうわ。毎年、毎年でもかまへんか…クリスマスな。そうやな、12時ちょっきりや。
- トト
- どうなるの?
- チビサンタ
- 12時ちょっきり、空見とけ。絶対やぞ。来年も、その次も、その次の次も。
- トナカイがジングルベルを歌いながら
サンタの乗ったソリが行く シャンシャン鈴を鳴らして
- チビサンタ
- 鈴鐘通り3丁目担当。チビサンタ全員集合。パラシュート装着。準備完了。集団バンジー行きます。
- チビサンタ6
- ねぇ。チビサンタ7号、全員でダイブして何か意味あるの?
- チビサンタ5
- 何か去年約束したらしいですよ。
- チビサンタ4
- 約束って何を?
- チビサンタ3
- 星を降らすんだってさ。
- チビサンタ2
- 星?どこにあんだ?
- チビサンタ1
- みんなパラシュート確認しろよ。
- チビサンタ
- 星?星ならあるやんけ。この日はどこの街にもチビサンタがパラシュートで降りんねんから。みんな一斉に降りたらええねん。行くぞ。3・2・1・バンジー!
- ひゅーんと何人ものチビサンタがパラシュートで飛び降りた
- チビサンタ
- ぴゅーん。いやっほーぅ。見てるか~?あのチビさん。見えてるか~?星が降ってきたぞー!
- 何人もの何人ものチビサンタが街へと向かう
ジングルベルが鳴る街へと降りていく
雲を抜けて、無数の屋根が見える
見上げると、それは流星のようだ。
- トト
- あ…うわぁ…
- トトはいつまでも、その空を見上げた
- おしまい