- スナックかバーの扉をバーンと開けて誰かが入ってくる。
- 男1
- メリークリスマスー!!
- 女
- 間
- 男1
- あれ? メリークリスマスー、エブリバディ。
- 女
- あ、びっくりした、松(まっ)ちゃん?
- 男1
- サンタさんです。
- どうしたの松ちゃん、そのかっこう。
- 男1
- 仕事でーす。寒いなぁ。お湯割ね。
- 男
- いつもの焼酎でいい?
- 男1
- はーい。
- 男
- 今日ね、ワインとかシャンパンもあるけど?
- 男1
- 冷えてる?
- 男
- キンキンに。
- 男1
- 凍死しちゃうよ。お湯割りにしまーす。
- 男
- はーい。でもそのかっこうで焼酎じゃ、何か変よね。(お湯をそそぐ)
- 男1
- そう?
- 男
- ウォッカとかジンとかの方がクリスマスらしいんじゃないの?はい、お湯割り、ウメボシダブルね。(グラスを置く)
- 男1
- なに言ってるの梅ちゃん。サンタさんはね、どこの国にも出没できるんだよ。ほら。・・・・・あ。ヒゲが。
- 女
- ヒゲがグラスの中に入ってるわよ。はい、おしぼり。
- 男1
- ありがとう。このヒゲね。顔の半分が白いヒゲ、もう半分は、赤い帽子。体じゅう赤と白のコントラスト。ね。よく考えてあるじゃないの。
- 女
- えー、じゃあ、あれなわけ?サンタのかっこうしてプレゼントを持ってたら、それ、みんな本物のサンタクロースなわけ?
- 男1
- そうだよ。
- 女
- 松ちゃんも?
- 男1
- そう。今日はサンタさんなんです。
- 女
- はい。
- 男1
- え?なに?
- 女
- プレゼントくれるんじゃないの?
- 男1
- ここで?
- 女
- そのでっかい白い袋に入ってんでしょ。
- 男1
- ダメダメ。こんな所じゃダメ。くつしたもないし。
- 女
- しゃ、脱いじゃう。ストッキングでもいい?
- 男1
- ・・・・・・・・・・・・・・・・。
- 女
- どうなの?
- 男1
- ちょっと今、考えちゃってね。ぬぎたての生ストッキングにプレゼントを入れるのって、どんな感じなんだろなって・・・・・。
- 女
- ちょっとお、なにそれ、サンタさんってそんなこと考えてるわけ?
- 男1
- 考えて・・・ません。サンタさんはそんなことは決して・・・考えてません。で、ストッキング何色?
- 女
- 網目の黒。
- 男1
- 黒の網タイツか・・・・・・・・。
- 女
- ほらほら、何か考えてる。
- 男1
- う。やっぱり考えてる。いかんいかん。アルコールが足りないのかも知れない。
- 飲む。
- 女
- サンタが焼酎飲んで妄想をふりはらおうとしてる。何かつまみ出そうか?小イモの煮たやつとかあるけど。
- 男1
- いいね。ちょうだい。
- 女
- はいはい。サンタさん。もう顔、顔赤くなってるわよ。
- 男1
- それも計算のうち。サンタさんは赤ら顔。トナカイもほら赤いんだよ鼻は。
- 女
- はい、小イモ、山盛りー。
- 男1
- おお、いいねー。いただきまーす。
- 扉がバーンと開いて、男2が入ってくる。
またサンタさんである。
- 男2
- いいかな、はじめてなんだけど。
- 女
- もちろんですとも、あはは・・・。今日はサンタさんのお客様が多い日だわ。あはは・・・。
- 男2
- やあ!
- 男1
- や、やあ(口に小イモが入ってる)
- 男2
- 休憩かい?
- 男1
- う、うん。(小イモが入ってる)
- 男2
- 彼が飲んでる飲み物はなに?
- 女
- 焼酎です。
- 男2
- 蒸留酒のようだな。オレもそのチェリーの入ったカクテルをもらおう。
- 女
- はい。お湯割りにウメボシ入れたやつですね。
- 男2
- ウメボシ?あ、ああ、それをもらおう。
- 女
- はーい。
- 男2
- 長いの?この仕事。
- 男1
- あ、ああ。もう5年くらいやってるかな。
- 男2
- まだ5年なのか。それじゃまだ楽しいだろう?
- 男1
- そうでもないよ。仕事だし。あんたは?
- 男2
- 二百年くらいだ。そろそろ転職を考えた方がいいかも知れん。
- 女
- プフフ、アハハハ・・・。二百年?アハハハ・・・。
- 男2
- なに?
- 女
- いえ、あの、えーと、あの、ずいぶん長いんですねぇ。
- 男2
- いやあ、たいした事はない。オレの部隊には五百年ってやつもいるよ。
- 男1
- 五百年・・・
- 男2
- すごいだろ?インカ帝国の財宝はみんなオレのプレゼントだって言ってるよ。
- 男1
- そんなバカな。
- 男2
- 本当にな。ウソつくにしてももう少し気のきいたウソがつけないのかね。サンタは子供にしかプレゼントできないのに。
- 女
- じゃあ、私なんかだともらえないわけ?
- 男2
- もらえない。たとえばオレがあんたに何かプレゼントするとするだろ?どんな感じ?
- 女
- もちろんうれしいわ。
- 男2
- それだけ?
- 男1
- それだけ?
- 女
- な、なによ。他に何があるの?
- 男2
- 何か感じないか?男だよ。サンタだって。男が女にプレゼントするんだよ。何かあると思うじゃないか。
- 女
- 思うかなそんな事。
- 男1
- あー、サンタは男じゃないと思ってるんだ。
- 女
- だってサンタクロースを男だなんて思ったことないもん。
- 男1
- ひどい・・・。
- 男2
- 落ち込むんじゃないサンタ君。OK?よくあることなんだ。
- 男1
- だって・・・。
- 男2
- 考えても見給え、サンタは夜中に君の寝室にしのび込むんだぞ。そして、あられもない寝姿の君を見ながら、脱ぎ捨てられたストッキングにプレゼントを入れる。そのまま立ち去ろうと思うんだが、君の無防備な姿を見ているうちに、つい・・・。
- 女
- 変質者じゃないの、それじゃあ。
- 男1
- もうひとつプレゼントをストッキングに入れたくなる。このプレゼントは最初に入れたものとは意味がちがうわけだ。
- 女
- どういうこと?
- 男2
- 最初のは、この一年がんばろうと思ってお勉強とか、お手伝いとかした君へのご褒美。次のは、見返りを求める男のメッセージだ。
- 女
- 何がちがうの?その2つのプレゼント。
- 男1
- だから意味がちがう。
- 女
- 中身は?
- 男2
- 中身は同じ。ぬいぐるみとか、バービー人形とか。
- 女
- なんだ、中身はいっしょかあ・・・。なんだぁ・・・。
- 男1
- 梅ちゃんて、現実的なんだなぁ。
- 女
- でもちょっと考えちゃうわね。みんなひとつずつしかプレゼントもらってないのに。
どうして私だけ2つなんだろって・・・。
- 男2
- そう。「ひょっとしてサンタさん私に特別な感情をいだいてるのかしら?」とか考える。大人だから。?
- 女
- そうね。
- 男2
- だからサンタは大人にプレゼントしない。ややこしい事が起こりそうだから。
- 女
- うーん。少しわかった気がする。
- 男2
- おっと、時間だ。もう、子供達は眠りについた頃だな。3丁目から5丁目までがオレの担当だから、そろそろ行かないと終わらないぞ。
- 女
- なんか新聞屋さんみたいね。
- 男2
- 悲しくなるような事、言わないでくれ。実は、キューピーに転職しようと思ってはいるんだ。
- 男1
- キューピー?
- 男2
- 言っとくがマヨネーズじゃないぞ。No、No、OK?じゃ、失礼する。(扉まで行き)メリー・クリスマス!!
扉を開けて男2、去る。
- 女
- ふふふ。おもしろかった。誰なんだろうあの人。
- 男1
- あ、お金もらわなかった。
- 女
- あ、いいの、いいの。サンタさんなんだから。
- 男1
- それはラッキーだ。・・・え、あれ?この袋・・・?あ。あいつ、まちがえて持って帰ったんだ。
- 女
- えー?!ちょっと、サンタさーん。サンタさーん!
- 女、扉を開けるが、もう誰も居ない。後ろからクリスマスの音が流れ込む。
- 男1
- 居ない?
- 女
- 居ないわ。
- 男1
- これ・・・・。
- 女
- なに?
- 男1
- 梅ちゃんへのプレゼントじゃないかな?
- 女
- え?私に?
- 男1
- カードが入ってる。キューピーの。「これは内気なサンタクロースから君へのプレゼントである。実は去年の12月から彼の部屋にあったものだが・・・・え?!」
- 女
- 「もちろん、ややこしい事を起こすためのものである。見るに見かねて、私、サンタクロースが君にとどけることにした。世話やかすんじゃない。いそがしんだぞ、オレは」
- 男1
- 内気なサンタクロース
- 女
- 誰かしら、内気なサンタクロースって。
- 男1
- 誰って・・・・・。
- 終わり