- ―夜。男女の前にはコタツの上のクリスマスケーキ。
ろうそくが何本か、ともっている。
ゆれる炎を前にして。
- 男
- メリークリスマス。
- 女
- メリークリスマス。
- ―間
- 男
- 消しいな。ローソク。
- 女
- え?消すの。
- 男
- 消さへんの。
- 女
- 誕生日じゃないんやで。
- 男
- あ、そっか。
- ―間
- 男
- どないすんの。
- 女
- 歌、唄ってえな。
- 男
- え?
- 女
- クリスマスソング。
- 男
- きーよしー。この夜ゥ~。ラララ~。
ラーラァララァラ~。な~んとか~。ど~たら、こ~たら。
- 女
- もうええわ。
- 男
- じゃ・・・。電気つけよっか。
- 女
- うん。
- 男
- ・・・。
- 女
- 何。つけへんの。
- 男
- きれいやな。思うて。
- 女
- うん・・・。
- 男
- 食べるのもったいないな。
- 女
- うん・・・。あたし、おなかへってへんから食べへんよ。
- 男
- ええ~、おれも、さっき食べたとこやし、カレー。
- 女
- 何で、クリスマスにカレーやねん。
- 男
- しゃあないやろ、残ってんのやから。
- 女
- せっかく買うて来たのに。
- 男
- そやから、もうちょっとしたら食べるがな。
あ!なめんなや。
- 女
- うわ、おいしい。
- 男
- 何でそんなことすんねん。
- 女
- ええやないの。私が買うたんやから。
- 男
- ・・・おいしい?
- 女
- うん。
- 男
- ・・・ほな、オレも・・・。(なめて)うーん、ほんまや、おいしい・・・。
- 女
- ね。
- 男
- うん・・・。(と、またなめる)
- 女
- ちょっ、やめえな。きたないやろ。
- 男
- 何で。
- 女
- そこは、あかん。
- 男
- だから、何で。
- 女
- そこは私が食べよ思てたとこやねん。
- 男
- ・・・。何で、そんなこと決めんねん。
- 女
- これ、えらぶ時から決めてたんや、雪ダルマんとこは、私がもらうて・・・。
- 男
- かってに決めんなや。
- 女
- ええやないの。私が買うたんやから。
- 男
- お前な、それ言うたら、何でもゆるされるて思うてるんちゃうんやろな。
- 女
- そうや。
- 男
- これ買うたんが、そんなにえらいんか。
- 女
- えらいんや。
- 男
- もう、ええ。食べへん。絶対に食べへんし。
- 女
- ええよ。食べんとき・・・。
- ―間。男ぶつぶつ、女ぶつぶつ。
―女、フーッと、ローソクを消す。
- 男
- あ、お前。何、消してんねん。
- 女
- ・・・。
- 男
- もう、電気つけるで。
- 女
- 去年は停電やったんやな。
- 男
- え?
- 女
- 去年のクリスマス・・・。停電して・・・。ローソクつけたやん。
- 男
- あ、そうやった?
- 女
- 覚えてへんの。
- 男
- そういうたら、そうやった気もするけど。
- 女
- 私の部屋やったんちがうかな。ケーキはなかったけど・・・。
- 男
- ああ、そうやったかな。
- 女
- 何や、早いな。もう一年たったんやで。
- 男
- うん・・・。・・・つけるで、電気。(と、立って)
- ―と、電灯をつける男。
- 女
- ・・・別に、何もない一年やったけど・・・
それでも一年すぎたことに驚いてまうわ。
- 男
- 何言うてんね。
- 女
- 何もかわってへん。あんたも・・・私も・・・。
- 男
- そんなかんたんにかわるわけないやろ。
- 女
- ま、そやけど・・・。
- 男
- ・・・。
- 女
- あ、私ね。ここに来る途中で、蛇、踏んでもうたんよ。
- 男
- え?蛇?
- 女
- うん。びっくりした。・・・何で、こんなとこに蛇がおるんって思うた。
- 男
- どこで。
- 女
- そこの下の道。・・・しゅるしゅるしゅるっていきなり出て来て、ふんだんよ。
・・・ケーキ、おちそやった。
- 男
- こんな時期に?
- 女
- そうなんよ。それで、びっくりして・・・ふっと思ったんよ。
- 男
- ・・・何を・・・。
- 女
- あんたの顔、思い出せるやろか。
- 男
- ええ?
- 女
- こんな、思いがけず蛇を踏むようなことがあっても、ちゃんとあんたの顔、
思い出せるやろか?
- 男
- ・・・それで、思い出せたんか。
- 女
- 思い出そうとしてるうちに、この部屋に来てもうて、
そしたら、あんたがそこにおって思い出す間もなく、あんたの顔を見てもうた。
- 男
- 何や、それ。
- 女
- あ。あ。あ。・・・雪ダルマ・・・食べんといて。
- 男
- ・・・。
- 女
- もう、ほんま、食べんといてよ。
- 男
- あ。
- 女
- ・・・何?
- 男
- 雪や・・・。雪降ってきた。
- 女
- ウソや。
- 男
- ほんまやて。
- 女
- 何でわかんのよ。
- 男
- ・・・静かになんねん。雪ふると・・・。
- 女
- ・・・。
- 男
- な。・・・静かになったやろ。
- 女
- うん・・・。
- ―間。
と・・・雪がふっているのか?静かである。
音のない世界。声をひそめて女。
- 女
- あ・・・食べんといて・・・あかんて・・・それだけは
食べんといて・・・あかん・・・。・・・ちょっあかんて。
- ―雪が降る。