―夜。男女の前にはコタツの上のクリスマスケーキ。
  ろうそくが何本か、ともっている。
  ゆれる炎を前にして。
メリークリスマス。
メリークリスマス。
―間
消しいな。ローソク。
え?消すの。
消さへんの。
誕生日じゃないんやで。
あ、そっか。
―間
どないすんの。
歌、唄ってえな。
え?
クリスマスソング。
きーよしー。この夜ゥ~。ラララ~。
ラーラァララァラ~。な~んとか~。ど~たら、こ~たら。
もうええわ。
じゃ・・・。電気つけよっか。
うん。
・・・。
何。つけへんの。
きれいやな。思うて。
うん・・・。
食べるのもったいないな。
うん・・・。あたし、おなかへってへんから食べへんよ。
ええ~、おれも、さっき食べたとこやし、カレー。
何で、クリスマスにカレーやねん。
しゃあないやろ、残ってんのやから。
せっかく買うて来たのに。
そやから、もうちょっとしたら食べるがな。
あ!なめんなや。
うわ、おいしい。
何でそんなことすんねん。
ええやないの。私が買うたんやから。
・・・おいしい?
うん。
・・・ほな、オレも・・・。(なめて)うーん、ほんまや、おいしい・・・。
ね。
うん・・・。(と、またなめる)
ちょっ、やめえな。きたないやろ。
何で。
そこは、あかん。
だから、何で。
そこは私が食べよ思てたとこやねん。
・・・。何で、そんなこと決めんねん。
これ、えらぶ時から決めてたんや、雪ダルマんとこは、私がもらうて・・・。
かってに決めんなや。
ええやないの。私が買うたんやから。
お前な、それ言うたら、何でもゆるされるて思うてるんちゃうんやろな。
そうや。
これ買うたんが、そんなにえらいんか。
えらいんや。
もう、ええ。食べへん。絶対に食べへんし。
ええよ。食べんとき・・・。
―間。男ぶつぶつ、女ぶつぶつ。
―女、フーッと、ローソクを消す。
あ、お前。何、消してんねん。
・・・。
もう、電気つけるで。
去年は停電やったんやな。
え?
去年のクリスマス・・・。停電して・・・。ローソクつけたやん。
あ、そうやった?
覚えてへんの。
そういうたら、そうやった気もするけど。
私の部屋やったんちがうかな。ケーキはなかったけど・・・。
ああ、そうやったかな。
何や、早いな。もう一年たったんやで。
うん・・・。・・・つけるで、電気。(と、立って)
―と、電灯をつける男。
・・・別に、何もない一年やったけど・・・
それでも一年すぎたことに驚いてまうわ。
何言うてんね。
何もかわってへん。あんたも・・・私も・・・。
そんなかんたんにかわるわけないやろ。
ま、そやけど・・・。
・・・。
あ、私ね。ここに来る途中で、蛇、踏んでもうたんよ。
え?蛇?
うん。びっくりした。・・・何で、こんなとこに蛇がおるんって思うた。
どこで。
そこの下の道。・・・しゅるしゅるしゅるっていきなり出て来て、ふんだんよ。
・・・ケーキ、おちそやった。
こんな時期に?
そうなんよ。それで、びっくりして・・・ふっと思ったんよ。
・・・何を・・・。
あんたの顔、思い出せるやろか。
ええ?
こんな、思いがけず蛇を踏むようなことがあっても、ちゃんとあんたの顔、
思い出せるやろか?
・・・それで、思い出せたんか。
思い出そうとしてるうちに、この部屋に来てもうて、
そしたら、あんたがそこにおって思い出す間もなく、あんたの顔を見てもうた。
何や、それ。
あ。あ。あ。・・・雪ダルマ・・・食べんといて。
・・・。
もう、ほんま、食べんといてよ。
あ。
・・・何?
雪や・・・。雪降ってきた。
ウソや。
ほんまやて。
何でわかんのよ。
・・・静かになんねん。雪ふると・・・。
・・・。
な。・・・静かになったやろ。
うん・・・。
―間。
と・・・雪がふっているのか?静かである。
音のない世界。声をひそめて女。
あ・・・食べんといて・・・あかんて・・・それだけは
食べんといて・・・あかん・・・。・・・ちょっあかんて。
―雪が降る。