- 春を告げる風や鳥が鳴いている。
- はる
- 暖かくなったり、寒くなったりくるくるくるくる繰り返して三寒四温、春、ですね。
- 先生
- ですね。
- はる
- 先生んとこもそうですか
- 先生
- もちろん、私もそうですよ、同じ日本じゃないですか。
- はる
- 春夏秋冬、おんなじですか。
- 先生
- まあそりゃあ、あなたのところと私のところは距離がありますから。でもね。
- はる
- でも、ですね。
- 先生
- ですよ。
- はる
- 私、日本が好きですよ。
- 先生
- あら、よその国で暮らしたことがおありですか。
- はる
- はい!実は。
- 先生
- 私はないんですよ。出たことないなあ。
- はる
- 不思議なんです。あそこで暮らしてたときに使った言葉、日本語じゃないんですけど、
あそこでできた友達ももちろん日本語じゃないんですけど、でもね、思い出す、
かわした言葉はなぜかアイウエオで覚えてるんです。愛してる、も、さようなら、も。
- 先生
- I LOVE YOUじゃないんですね。
- はる
- ないんです。全部日本語なの。
- 先生
- それは不思議だなあ。
- はる
- つくづく日本人なんだと思います。私。
- 先生
- そういえば、この猫も確かに、アイウエオで喋ってる気がしますね。
- はる
- ニャーじゃないんだ。
- 先生
- ニャーだけじゃないんですよ。
- はる
- 聞こえてくる音だけじゃないんですね。
- 先生
- 不思議ですね。アイウエオ。
- はる
- 不思議です。アイウエオ。・・・ねえ、先生。
- 先生
- はいはい。
- はる
- 先生はいつか死にますか。
- 先生
- そりゃあまあそりゃあね。
- はる
- いつ、死にますか。
- 先生
- これは難しいな。でも、これだけは確かです。
- はる
- はい。
- 先生
- 君が死ぬときに、私もきっと、死にますね。
- はる
- じゃあ私が生きている間は、死にませんか。
- 先生
- はい。もちろんです。私はずっと、生きてますよ。
- はる
- それってすごい!
- 先生
- アッハッハッハッハー!すごいでしょう!
- はる
- すごーーーい!!
- 恋人
- はるーーー!!
- はる
- なにー!?
- 恋人
- いつまで空見てぼーっとしとるんや。いこうや。ほら。
- はる
- ちぇー。ゆきちゃんはほんませかせかしとんなあ。
- 恋人
- 団子屋、閉まるやないか。ほれ、あんな行列できて。売り切れてまうぞぉ。
- はる
- ほんまや! じゃ、先生。私行きます。
- 先生
- ほい。いってらっしゃい。またいつでもね。私のすみかは、
- はる
- 私の心。そうでしょう。
- 終わり。