いきなりドラマチックな音楽。はでな潮騒!!
万次郎
奇跡が起きた。乗っていた船が流され、
どこやわからんが多分南の島に流されて以来30年、
たった一人で生きてきた俺の目の前に・・・今・・・ボロボロの船に乗った女が
・・・近づいてくる・・・!神は、おわしたもうたか!!!
富子
奇跡が起きた。20年間、どこの岸にもたどり着かず、たった一人で漂流してきた私の前に、
今、男がいる。私はこの
万次郎
30
富子
20
万次郎・富子
年間、ずっと考えていた。もし誰かが
万次郎
この島に、
富子
私の前に、
万次郎・富子
やってきてくれたら、それがもし、女(男)の人だったら、
俺(私)たちは、運命の二人だ!
万次郎
女は島に降り立った。
富子
男は、こちらに歩いてきた。
波の音。風の音。万次郎が歩み寄る、足元の砂の音。
万次郎と富子、人語を話すのがあまりに久しぶりすぎて、
「あ・・・あ~」「あ、あ、あ。」とかしかしばらく言えないが、
感動しているようである。しかし、しばらくして、
万次郎・富子
・・・好みじゃない!!!
富子
なんでえ??
万次郎
そっちもですか。
富子
すいません!
万次郎
いえいえ、こちらもなんで!
富子
あああ。あのね、私、20年も一人で、
万次郎
僕は30年。
富子
なのに、なのに、私、どうしてあなたのこと、全然好きになれなさそうなんでしょう!!
万次郎
僕もなんですよ。ぜんぜんそそられない!
富子・万次郎
神様―!!
南の空に、二人の声がこだまする。
万次郎
あ、お名前は?
富子
あ、富子って言います。
万次郎
あ、万次郎です。
富子
あ、どうも。
万次郎
どうも。
カモメの声。
万次郎
いやでも、久しぶりに人と話せてうれしいです。人類は、元気ですか?
富子
えっ?
万次郎
えっ?
富子
・・・滅びましたよ?
万次郎
(変な声が出る)
富子
えっ、あっ、はい。20年前に。
万次郎
うそお!!
富子
ほんとです。AIが暴走して、わりとあっさり。
万次郎
・・・つまり僕たちは、地球最後の男と女・・・。
富子
はい・・・。
万次郎
子孫を残さないと・・・。
富子
なんとかして・・・。
波の音が聞こえる。
万次郎
さとみ!
富子
えっ、私、富子・・・。なるほど、石原の。
万次郎
さとみぃ!
富子
そういう作戦。・・・一生(いっせい)!!いっせえいい!!
万次郎
さとみぃぃ!! ・・・ダメだ!
富子
ダメですね!
二人「おお~!!」と気合いをいれる。
万次郎
富子さん!!
富子
万次郎さん!!
万次郎・富子
・・・ダメだ!
富子
しょうがないですよ。そもそも気合でやることじゃないし。
万次郎
このままじゃ絶滅じゃないか!!・・・うっ。体が・・・ああ・・・!
富子
万次郎さん、ぶ、分裂してる!!
万次郎、分裂して二人になる。
万次郎(声二重)
あれ、俺?
富子
万次郎さんが二人に!!
万次郎(声二重)
(再び苦しむ)ああ・・・!
万次郎(声四重)
あれ?
富子
万次郎さんが四人に!
万次郎
そういう富子さんも。
富子(声四重)
はっ。
万次郎
・・・奇跡だ!!
富子
これから、人類は分裂で増えるんですね。
万次郎
神よー!
富子
なんとかなるもんだね!どうしようもない状況でも!
終わり。