日本のどこかにある公園。子供たちの笑い声が聞こえる中、
インタビュアーがベンチに座っている仲良さそうな老夫婦に声をかける。
(以下、インタビュアーの声は聞こえませんが、老夫婦がインタビューされているさまです。)
老妻
ああ、こんにちは。・・・ええ。どうぞ。・・・そんなに素敵?このお洋服。やだ。
老夫
若い人に褒められてよかったな、母さん。
老妻
もう、お父さん。・・・ええ、夫婦ですよ。・・・もう、50年になるかしら。
仲良さそうに見える?まあ。
老夫
愛してるよ。
老妻
もう。・・・まあ、そうなの。大学で、仲のいい夫婦の秘訣を研究してらっしゃるの。
老夫
我々でお役に立てますかどうか。いや、いいですよ、もちろん。
老妻
ええ。
老夫
・・・ああ。私はね、ずっと看護師をしておりましてね、
・・・ビンゴ!この人は入院患者だったんですよ。
老妻
盲腸でね。
老夫
それでまあ、結婚いたしまして、子供も二人できたんですが、てんやわんやな生活でした。
・・・まあ、二人で残り超えた、というよりは、勝手に時がたっておった感じです。
・・・夫婦の危機?そうですなあ・・・(老妻に)何かあったかな?
老妻
ほら、あれですよ、あなたが女に・・・
老夫
ああ。あれは40になったころでしたか。ある若い女に夢中になったことがありましてな。
それを皮切りに、もう、いろんな女が気になりだしました。
心の中に急におっさんが出てきた感じです。そのおっさんが私に言うんですな。
「若い女っていいな。」と。不思議ですなあ、自分にも若い女だったころはあったはずなのに。
老妻
あ、この人ね、女なのよ。
老夫
実はおばあちゃんなんです。
老妻
そうよね、ビックリするわよねえ。それで、私が、おじいちゃんなの。
ごめんなさいね、驚かせて。
老夫・老妻  (笑う)
老夫
それから、心の中のおっさんはだんだん大きくなっていきましてね、
仕事中にもでてくるんですよ。それまで結構セクハラされてたんですけどね、
どこかにおっさんを感じるんでしょう、ピタっとなくなりました。
おっさんはおっさんに欲情しない、そういうことでしょうな。
老妻
最初はいやでしたよ。妻がおっさんになったんですからね。
でも、だったら、私も心におばさんを飼ってみようかなって。
でも、それよりは、お姉さんを飼う方が楽しそうだと思って、そうしてみたの。
そしたらね、チョコレートとか、スコーンとかが、キラキラ輝いて見え始めたの。
ああ、若い女の子って、こんな世界に生きてるのねってびっくりしたわ。
それからすっかりお姉ちゃんなの。
老夫
私も、その心の中のお姉ちゃんに欲情しましてね、それで今でも仲がいいんですよ。
あっと言う間に50年たちました。心の性別も変わりました。
人生、思ったようにはいかんもんですが、楽しいもんです。
老妻
生まれ変わったらまた夫婦になりたいか?・・・それは、せっかくだから別の人がいいわ。
老夫
私も同意見です。せっかくなら、いろんなケーキを試したいもんですからな!
老夫・老妻、笑っている。
終わり。