- 女
- 今から三分後に、あなたをフります。
- 男
- 三分後に、ですか。
- 女
- はい、三分後に、です。
- 男
- 僕は今から三分後に、あなたにフられる。
- 女
- 準備はいいですか。
- 男
- 精一杯、抵抗してもいいですか。
- 女
- 三分経過するまで、あなたをフることはありません。
- 男
- なら、今はまだ、あなたは僕の恋人ですよね。
- 女
- そうですね。
- 男
- 嫌なところがあったなら、直したいと思います。
- 女
- はい、ぜひそうしてください。次の人が喜ぶと思います。
- 男
- 僕のどこが気に入りませんでしたか。
- 女
- 気に入らないというよりは、あなたよりもいい人と出会いました。
- 男
- どういった面で、僕よりもいい人でしたか。
- 女
- あなたよりも優しく、頭が良く、運動もできて、収入が高い人と出会いました。
- 男
- 僕は折り紙が得意です。
- 女
- 手先もあなたより器用です。完全な、あなたの上位互換と出会いました。
- 男
- 顔もかっこいいんですか。
- 女
- あなたより、顔もかっこいいです。
- 男
- そんな人、もともとたくさんいたじゃないですか。
- 女
- だけど、そんな人で、あたしを愛してくれる人は今までいませんでした。
- 男
- 僕がいる。
- 女
- そうですね。今まではあなたしかいませんでした。
- 男
- その人に、僕がかなうところは一切ありませんか。
- 女
- 物事の価値には相対性があります。優しさの対義語が厳しさだとすれば、
厳しさについて、その人よりもあなたのほうが上です。
- 男
- その人よりも、僕の方があなたをよく知っている。
- 女
- 過ごした時間が長いので、そうかもしれません。
- 男
- だったら、あなたへの理解度は僕の方が上です。
- 女
- 理解度は上かもしれませんが、理解率はその人が上です。
あなたと過ごした一年間で、あなたがあたしについて理解したことを、
その人は数週間で理解しました。また、理解しているとあたしに伝える伝達力も、
あなたよりも上です。
- 男
- 僕はどうしたらいいんだ。
- 女
- どうすることもできません。あなたをフることはすでに決まっています。
- 男
- そんなこと、勝手に決めるなよ。
- 女
- では許可をください。
- 男
- 許可するわけないだろう!
- 女
- わかりました。
- 男
- わかりましたって。
- 女
- だったら、このまま付き合い続けますか。
- 男
- こんな話をされて、付き合い続けられるわけないじゃないか。
- 女
- どうしたいんですか。
- 男
- 僕はただ、あなたと、ずっと、あなたのそばにいたかった。
- 女
- いたかった。今はどうですか。
- 男
- 今は……、もうあなたのそばにはいられない。
- 女
- あと少しで、あなたをフります。
- 男
- 早くしてくれ。もうどうだっていいんだ。時間なんて待たなくていいから、さっさと、
- 女
- なに諦めてんの。
- 男
- え?
- 女
- たった三分も頑張れないのかよ。
愛する女のために、最後のたった二分ぐらい、背筋伸ばして胸張って向き合いなさいよ。
- 男
- 僕はあなたと、別れたくない。
- 女
- あたしはあなたと別れたい。
- 男
- 今から六分後、僕はあなたに告白する。
- 女
- 何言ってんの。
- 男
- うるさい。僕が決めた。あなたの許可なんていらない。
- 女
- だったら十二分後、あたしはあなたの告白を断る。
- 男
- 二十四分後、もう一度あなたに告白する。
- 女
- 四十八分後、あなたをビンタする。
- 男
- 一時間三十六分後、もう一度君に会いに行く。
- 女
- 二日後、警察に通報する。
- 男
- 一週間後、いや、何年経とうが、僕は、あなたを。
- 女
- 時間だわ。……さようなら。
- 男
- あなたを奪ったその人の、すべてを僕は越えていく。
- 女
- 待ったりなんて、しないからね。
- 男
- いいんだ。許可なんて、最初からいらなかったんだから。
- 終わり。