今から三分後に、あなたをフります。
三分後に、ですか。
はい、三分後に、です。
僕は今から三分後に、あなたにフられる。
準備はいいですか。
精一杯、抵抗してもいいですか。
三分経過するまで、あなたをフることはありません。
なら、今はまだ、あなたは僕の恋人ですよね。
そうですね。
嫌なところがあったなら、直したいと思います。
はい、ぜひそうしてください。次の人が喜ぶと思います。
僕のどこが気に入りませんでしたか。
気に入らないというよりは、あなたよりもいい人と出会いました。
どういった面で、僕よりもいい人でしたか。
あなたよりも優しく、頭が良く、運動もできて、収入が高い人と出会いました。
僕は折り紙が得意です。
手先もあなたより器用です。完全な、あなたの上位互換と出会いました。
顔もかっこいいんですか。
あなたより、顔もかっこいいです。
そんな人、もともとたくさんいたじゃないですか。
だけど、そんな人で、あたしを愛してくれる人は今までいませんでした。
僕がいる。
そうですね。今まではあなたしかいませんでした。
その人に、僕がかなうところは一切ありませんか。
物事の価値には相対性があります。優しさの対義語が厳しさだとすれば、
厳しさについて、その人よりもあなたのほうが上です。
その人よりも、僕の方があなたをよく知っている。
過ごした時間が長いので、そうかもしれません。
だったら、あなたへの理解度は僕の方が上です。
理解度は上かもしれませんが、理解率はその人が上です。
あなたと過ごした一年間で、あなたがあたしについて理解したことを、
その人は数週間で理解しました。また、理解しているとあたしに伝える伝達力も、
あなたよりも上です。
僕はどうしたらいいんだ。
どうすることもできません。あなたをフることはすでに決まっています。
そんなこと、勝手に決めるなよ。
では許可をください。
許可するわけないだろう!
わかりました。
わかりましたって。
だったら、このまま付き合い続けますか。
こんな話をされて、付き合い続けられるわけないじゃないか。
どうしたいんですか。
僕はただ、あなたと、ずっと、あなたのそばにいたかった。
いたかった。今はどうですか。
今は……、もうあなたのそばにはいられない。
あと少しで、あなたをフります。
早くしてくれ。もうどうだっていいんだ。時間なんて待たなくていいから、さっさと、
なに諦めてんの。
え?
たった三分も頑張れないのかよ。
愛する女のために、最後のたった二分ぐらい、背筋伸ばして胸張って向き合いなさいよ。
僕はあなたと、別れたくない。
あたしはあなたと別れたい。
今から六分後、僕はあなたに告白する。
何言ってんの。
うるさい。僕が決めた。あなたの許可なんていらない。
だったら十二分後、あたしはあなたの告白を断る。
二十四分後、もう一度あなたに告白する。
四十八分後、あなたをビンタする。
一時間三十六分後、もう一度君に会いに行く。
二日後、警察に通報する。
一週間後、いや、何年経とうが、僕は、あなたを。
時間だわ。……さようなら。
あなたを奪ったその人の、すべてを僕は越えていく。
待ったりなんて、しないからね。
いいんだ。許可なんて、最初からいらなかったんだから。
終わり。