時は平安。
京の都にある、みたらしの君のお屋敷に、今日も雲はたなびきたる。
みたらし
のう、お萩。
お萩
はい、みたらしの君。
みたらし
三条の大臣(おとど)から文はないか。
お萩
ありませぬ。
みたらし
さようか。・・・三条の大臣はご高齢。
もう、あの世に詣でてしまわれたのであろうか・・・。
お萩
いえ、ピンピンしておられるそうで。
みたらし
そうか。
お萩
近頃、おのこが生まれたそうでございます。
みたらし
なんと。
お萩
捨てられましたな。
みたらし
な、のたまいそ。・・・あ、そーれ。
お萩
あ、そーれ。
みたらし・お萩  あそれそれそれそれ!
双方、落ち着く間。
みたらし
水無月の入道もすぐ来なくなったし・・・。
やはりここが京のはずれなのが悪いのだろの。
お萩
たしかに、五条や六条であればようございましたが、
なにしろ百十条でございますからな。
みたらし
朝出て、朝に着く距離じゃ。
お萩
まあ、要するに、そこまでする女ではないということでございますな。
みたらし
これこれ。素直な意見は、人を傷つける。あ、そーれ。
お萩
あ、そーれ。
みたらし・お萩  あそれそれそれそれ!
双方、落ち着く間。
みたらし
過去を嘆いても甲斐なし。さ、お萩。文をしたためておくれ。
お萩
男漁りでございますか。
みたらし
言い方。
お萩
は。して、どなたに。
みたらし
近頃京を騒がせているという、光源氏の君じゃ。
お萩
・・・身の程、
みたらし
え。
お萩
いえ、なんとしたためましょうや。
みたらし
・・・逢ひみての のちの心にくらぶれば~
みたらし・お荻    昔はものを おもわざりけり~。
お萩
歌盗みでございますな。
みたらし
ばれたか。
お萩
しかも、逢うてもないのに「逢ひみての」、て。
みたらし
わたくしなりのおとぼけであった。
お萩
わかりにくいことはなはだし。
みたらし
あいわかった。ではこう書いておじゃれ。
「麗しの君。ともに有馬の湯へ参りませぬか?」
お萩
有馬の湯。
みたらし
さよう。あそこは源泉垂れ流しなところじゃ。
お萩
・・・源泉かけ流しでございましょう。
みたらし
あ。
お萩
垂れ流して。
みたらし
しかり。
お萩
では、文を届けてまいりまする。
みたらし
頼んだ。
時の流れがある。
みたらし
あれから三日も経つが・・・。お萩はまだか。
お萩
(妖艶)ただいま戻りました。
みたらし
いかがであった?
お萩
お上手でございました・・・。
みたらし
もしや、そなた、光ぎみと?
お萩
はっ。つい・・・!
みたらし
ぬ、ぬ、ぬ!・・・あ、そーれ!
お萩
あ、そーれ!
みたらし・お萩  それそれそれそれ!
お萩
お許しいただけるので?
みたらし
それそれ言える相手がおらぬようになってしまうのは寂しいからの。
お萩
みたらしの君・・・!寂しい女はもてぬと言いますぞ?
みたらし
な、のたまいそ。
どこかで鷺が鳴くやら鳴かぬやら。
終わり。