- 放課後。チャイム。
- 自動販売機
- チャリン、チャリン、チャリン、
- 陸上部員
- あー。うわー。30円足らん。
- 自動販売機
- ・・・。
- 陸上部員
- なあ。ポカリまで30円届かずやわ。
- 自動販売機
- ・・・。
- 陸上部員
- 無視せんといてや。
- 自動販売機
- 120円あればおしるこが買えますよ。左下の。
- 陸上部員
- いやいらんわ。誰が走ったあとにおしるこ飲むねん。
- 自動販売機
- あなたが120円しか持っていないので提案したまでです。
- 陸上部員
- 自動販売機のくせに偉そうなこと言うてんちゃうぞ。
- 自動販売機
- ・・・。
- 陸上部員
- なあってー。もう、喉カラッカラ。ポカリ飲みたい~
- (自販機をバンバン叩く)
- 自動販売機
- ちょっと。こら。やめてください。危ないから。ピッ
- 陸上部員
- あっ
- 自動販売機
- ガシャン、ダン!
- 陸上部員
- ・・・。
- 自動販売機
- ・・・。
- 陸上部員
- ・・・。(出口のフタを開けて飲み物を取る)
- 自動販売機
- ・・・。
- 陸上部員
- ちょもう、おしるこいらんって!
- 自動販売機
- あなたがバンバン叩くから
- 陸上部員
- そもそもなんで学校の自販機におしるこがあんねん。
- 自動販売機
- 堪忍しておしるこ飲んでください。
- 陸上部員
- 高校生で、「あーおしるこでも飲むか」ってなるやつおる?おるかい!
- 自動販売機
- そもそもあんなに走るから喉乾くんですよ。
- 陸上部員
- そりゃあ陸上部やもん!長距離やもん!
- 自動販売機
- 手も足もない私には何が楽しいのやら全く理解できない。
- 陸上部員
- うわ。それもう人生の半分以上損してるで
- 自動販売機
- 毎日毎日走って。何でしたっけ?駅伝?それも一体何がいいのか・・。
あでも、もう3年生なんだから今年が最後ですか。
あなたみたいな乱暴な生徒はさっさと走って引退してしまえばいいのですよ、
- 陸上部員
- 中止。
- 自動販売機
- ん?なんです?
- 陸上部員
- だから中止!!
- 自動販売機
- ・・?
- 陸上部員
- 最後の駅伝。中止なってん。
- 自動販売機
- ・・。
- 陸上部員
- いま、あほみたいって思ってるやろ? 3年間駅伝のために走って。
で、中止になったのにまだ走って。ほんま、あほやわ。
- カラスの鳴き声が響く。
- 陸上部員
- あそこの山。あれを登るはずやってん。タスキ繋いでさ。腕と足振って。
頂上目指して・・。見てみたかったなあ。上からの景色。
- 自動販売機
- ・・・ウゥ。
- 陸上部員
- ・・ん?
- 自動販売機
- ウゥゥゥゥゥ。(自動販売機がわずかに震え始める)
- 陸上部員
- え、なに? もしかして・・泣いてんの?
- 自動販売機
- ウウウウウウウウウゥゥゥゥ!!!!!
- 陸上部員
- ちょ、え。震えてるけど!大丈夫?
- 自動販売機
- ウウウウウウウウ!!!・・ガシュン、ダン!(ポカリ缶が転がり出る)
- 陸上部員
- あ、ポカリ。出てきた。
- 自動販売機
- ガシュン、ダン!ガシュン、ダン!ピーピー!ダダン!ダンクルオステウス!
デベシ!デベソ!ダンボウタイム!サカナクション!ダダンプ!
ダダンプロイスト!ドドドイツソーセージクシュン!バリオ!バリオザムライ!
シンジュ!シンジュパカパカザエモン!ノーベルショウソウザライ!
ソウザイウリバレンゾクジバンチンカ!ババババババブーン!バブミ!・・・・・
- (自動販売機の激しい叫びと共に溢れるようにポカリ缶が出てくる)
- 陸上部員
- (自動販売機の叫びにかぶせるように)ちょ!ちょっと!うわうわうわ!
ポカリめっちゃ出てくる!うわ!体持ち上げられる!体が、どんどん上に!
恥ずかしい!え、山やん!高い高い高い!こわっ。え。はずい!
みんなこっち見てる。なんか叫んでるな。え? 山みたいやんな!
あはは!え!いや、降りるも何も無理やねーーん!
- ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
- 陸上部員
- 自動販売機が吐き出したポカリの缶はたちまち校庭を覆いつくして、
一つの山になりました。青くて、日の光をキラキラと反射させる大きな大きな山です。
学校の人も町の人もどうしたものかと困り果ててしまって、
その後60年間もほったらかしにされたそうです。
いつしかこの地は“ポカリ山”と呼ばれるようになり、
いまではポカリ山を頂上とする市民駅伝大会が開かれています。
- 終わり。