遠い海辺の街の駅へ。終電間近の時間。高校生たち。
来るときは全然そんなこと思わなかったのに、今は寂しいと思っている。
寂しいと思っているのは、約束が、いやそんな大袈裟なものじゃなかったな、
でも他に当てはまる言葉がないから約束ってしておくけど、
その約束が果たされなかったからじゃない。
始めから、この約束は破られるだろうなって思っていたし。
私と家出がしたいだなんて、生きていることの退屈さから一緒に抜け出そうだなんて、
そんな過激なことを言っても、私は君のすぐ甘える部分を知っているから、
絶対に最後までやりとげることはないとわかっていた。だから、そのことは寂しいと思ってない。
君が浜辺で寒くなってきたって何度も言い始めたくらいから、私は家に帰る覚悟をしていたし、
電車が終わって帰れなくなる時間が近付いてきて、どうしようって小声で言ったのも聞こえてた。
だから、私は、今だったらまだ帰れるけどどうする?って助け船をだしてあげたし、
君はそうしようかって私の助け船に乗った。すごくホッとしたような顔をして言った。
いま、私たちは、終電に乗るために駅に向かって歩いている。
どうせ帰ることになると思ってたから、そのことは寂しくない。どうせ明日学校で会えるんだし。
それに手を握ってくれているから心細くもない。
寂しいのは、心細いのは、ほとんどのお店が閉まっているから。
コンビニとかコインランドリーとか居酒屋くらいしか開いてない。
来るときは開いてたのに、もう私たちとは関係がないみたいにして閉まっている。
実際、私がどんなに切望したって閉まっているお店からはなにも買えない。
私と浜辺から駅までの間の閉まっているお店とは、関係が持てない。
寂しいとか心細いとか思っている頭の残りの部分が勝手に考える。心配されてるだろうな。
誰に? まあ、誰にでも。心配なんかしなくてもいいのにな。
私には君がついてるから、君が手を握ってくれているから、大丈夫だ。
少し本気で家出をしたくなっている。
退屈なんて思ったこともなかったのに、退屈から抜け出したいって本気で思い出している。
家出なんてしないけど。できなかったけど。寂しいよ
ごめんな
いいよ
無理矢理連れ出してごめんな
いいよ。明日、学校来る?
うん
寒かったね
もっと厚着してこればよかった。今度は厚着して挑もう
今度って?
え?
ねえ、今度って?
終わり。