まぼろし
次の方どうぞ。
曜子
失礼します。
まぼろし
やあ、今日はどうされました。
曜子
微熱が・・・。
まぼろし
下がりませんか。
曜子
はい、一向に。
まぼろし
今日で・・・365日目ですね。
曜子
私、死ぬんでしょうか。
まぼろし
そりゃいつかはね。でも、微熱で死んだ人は聞いたことがありませんよ、ぼかぁ。
ハハ。じゃあちょっと胸の音聞かせてくださいね。
心音が聞こえてくる。最初は普通だが、徐々に常識を超えた速さになってくる。
まぼろし
あああ。
曜子
どうですか?
まぼろし
落ち着いて。深呼吸深呼吸。
曜子
スー、ハー。
まぼろし
ちょっとましになってきた。
曜子
私・・・。
まぼろし
はい?
曜子
先生に胸の音を聞かれると、ドキドキしてしまって・・・。
まぼろし
あ、そういう方もいらっしゃるんですよ。
聞かれていると思うとドキドキする方。大丈夫!普通ですから!
曜子
はい・・・。
まぼろし
しかし微熱以外に所見はないし・・・。風邪か白血病だと思います。
ま、今日もビタミンC出しときますんで、様子見といてください。
曜子
はい。
まぼろし
おだいじに。
曜子、趣深く出ていこうとするが、意を決して振り返る。
曜子
先生。
まぼろし
何でしょう。
曜子
私・・・自分なりにこの病気について考えてみたんです。
そして、一つの答えにたどり着きました。
まぼろし
聞かせてください。
曜子
先生、恋ってご存知ですか。
まぼろし
ああ。あの、色も形もないくせに、やけに我々を苦しめるやつですか。
・・・すいません、かっこつけました。
曜子
いえ。
まぼろし
で?
曜子
それではないかと・・・。
まぼろし
あなたが、かっこつけてるということですか?
曜子
いえ、
まぼろし
かっこつけてて、微熱が出てるってことですか?
曜子
そうではなく。
まぼろし
ですよね。僕もよく合コンでかっこつけますけど、微熱がでたことはないからなあ。
曜子
合コン?
まぼろし
知りません?
異性を漁りたい、盛りのついたオスとメスが入り乱れるところなんですけど。
曜子
そんなとこ行かないで。
まぼろし
行くなったって、ハハ。行きますよ、そりゃあ。ハハ。
曜子
先生、行かないで。
まぼろし
無理無理、ハハハ。で、なんでしたっけ?恋?
曜子
はい。
まぼろし
あ!!!!
曜子
ひいっ。(大声にびっくりした)
まぼろし
恋をしてるんですね、あなた!
曜子
はい!!
まぼろし
ああ。確かに恋と言うのは、ドキドキして、体が熱に浮かされたようになる!!
曜子
はい!!
まぼろし
わかりました。告白しなさい。
曜子
えっ。
まぼろし
この恋に決着をつけない限り、あなたの病は治らない。
曜子
でも・・・!
まぼろし
大丈夫、私が受け止めますから。
曜子
本当に・・・?
まぼろし
はい。
曜子
・・・初めて会った時から、あなたの虜なんです。
まぼろし
すばらしい! この調子で告白してきてください。
曜子
バカー!!
まぼろし
医学部卒なのに。
曜子
ああ・・・。
曜子、倒れる。
まぼろし
君!!
曜子
(心の声)さあ先生。私、息を止めているから、人工呼吸を・・・!
まぼろし
よく寝ているなあ。
曜子
違う!!
まぼろし
うわっ!
曜子
キース!キース!
まぼろし
ダニエル・キイス?
曜子
違う!!
まぼろし
落ち着いて、ほら、ビタミンCでも飲んで。
曜子
ビタミンC、信頼しすぎでしょ!!
終わり。