- 女
- ええ、ええ。そうですね、固めの枕がお好みでしたら高反発ウレタンがおすすめです。
ポリエステルパイプもお試しいただけますし、よければあちらで実際に横になって、
高さをご調整いたしましょうか? ええ、どうぞ。斎藤さん、お願いしまーす。
いらっしゃいませー。
- 男
- あのー。
- 女
- はい、なにかお探しでしょうか。
- 男
- 実は、ここ最近どうにも眠れなくて。友人に聞いたところ、
枕が合ってないんじゃないかというアドバイスをもらって、ここに来たんです。
- 女
- なるほど。そういう方、大勢いらっしゃいますよ。
- 男
- よかった。
- 女
- 普段はどういった枕をお使いですかね?
- 男
- 恥ずかしい話、座布団を丸めて枕にするような男でして。
- 女
- それはいけませんね。睡眠の質が下がってしまいますよ。
- 男
- 友人にも叱られました。それで、友人にオススメの枕を聞いてみたんです。
- 女
- はい。
- 男
- そしたら、「あたしのひざまくら使ってみる?」って言われて。
- 女
- ……ほう。
- 男
- でも、枕を借りるってのも、気をつかうでしょう?
- 女
- ええ。
- 男
- だから、どこに売ってるか尋ねたんですけど、非売品だって言うんです。
- 女
- ふむ。
- 男
- ここに、ひざまくらは売っていますでしょうか。
- 女
- なるほど。……お客様。
- 男
- やっぱり、手に入らないものなんですかね?
- 女
- いえ、手に入るか入らないかでいえば、手に入るモノではあります。
- 男
- え、ほんとですか!
- 女
- はい、しかし……。
- 男
- ここには、ないってことですかね。
- 女
- ……あるかないかでいえば、あります。
- 男
- えっ。
- 女
- 私のひざまくらですが。
- 男
- お姉さんの?
- 女
- ええ、売り物ではありません。
- 男
- そんな。十万円でも足りませんか。
- 女
- 馬鹿にしないでください。
- 男
- すみません。
- 女
- つかぬことをお伺いいたしますが、そのご友人は女性でよろしいですよね?
- 男
- はい。
- 女
- お二人のご関係はどういった……?
- 男
- いや、ただの友達ですよ、もちろん。だけど……、彼女と知り合ってからどうも眠れなくて。
胸が苦しいというか、なんというか。
- 女
- なるほど。
- 男
- 不思議な存在ではあります。
- 女
- 彼女にひざまくらを提案されて、お客様はどうされましたか?
- 男
- 借りるのもあれだったんで、買い取りならいいかなと思って、
いくらでひざまくらを売ってもらえるか聞いてみました。
- 女
- それはそれは。
- 男
- そしたら、怒って帰っちゃったんです。
- 女
- そうでしょうね。それでは、そのご友人に「お前のひざまくらで眠らせてくれ」と
頼むことをオススメします。
- 男
- しかし、彼女のひざまくらを奪ってしまうなんて。
- 女
- 大丈夫です。彼女にも新しいひざまくらがすぐに届きますよ。
- 男
- えっ。
- 女
- お客様がすでにお持ちですから。グッドラック。
- 以下、BGMとともにフェードアウト。
- 男
- そんな。……よくわからないこと言わないでくださいよ。ひざまくらはここにあるんでしょ?
そこのベッドで試すくらい良いじゃないですか!
- 女
- いけません。
- 男
- お姉さんのひざまくらを試させてくださいよ!
- 女
- ダメです。そういう店じゃありません。
- 男
- だったら何の店なんだよ。
- 女
- 枕の店です。
- 男
- 僕は枕を……!
- 終わり。