- 激動のクラシック音楽が流れる。場所は高級レストラン「メタモルフォーゼ」。
- はるか
- えっ?朔太郎さん、今なんとおっしゃいました?
- 朔太郎
- ですから・・・破談にしていただきたいと。
- はるか
- ・・・ご冗談、
- 朔太郎
- 冗談じゃありません。
- はるか
- 信じられませんわ。だって、私となら何があっても生きてゆけると・・・!
あの言葉は偽りだったのですか?
- 朔太郎
- 失礼します!(立ち上がり、去ろうとする)
- はるか
- 待って!(朔太郎の手を掴む)涙・・・!
- 朔太郎
- (自分の頬を零れ落ちる涙に気が付く)はっ。
- はるか
- 朔太郎さん、本当のことをおっしゃってください。何があったのですか?
- 朔太郎
- ・・・本当のことを言えば、あなたに嫌われてしまう。
- はるか
- 私の愛がそんなに軽いものだとお思いですか!!
- 朔太郎
- はるかさん・・・!では申し上げます。・・・実は僕は・・・カメムシなのです。
- はるか
- ・・・は?
- 朔太郎
- (ゆっくり言う)じつは、ぼくは、
- はるか
- いえ、ちゃんと聞こえはしました。
- 朔太郎
- よかった。
- はるか
- ・・・カメムシ?
- 朔太郎
- はい。
- はるか
- 人間に見えますが。
- 朔太郎
- 前世です。前世がカメムシなのです。
- はるか
- ・・・えっと、
- 朔太郎
- 嫌いになったでしょう。
- はるか
- えっ。
- 朔太郎
- 前世がカメムシだった男なんか、願い下げですよね。
- はるか
- 待ってください。まだそこまでついていけてないんです。
- 朔太郎
- ああ。
- はるか
- 前世が、カメムシだったと。
- 朔太郎
- はい。昔から不思議に思っていたんです。
夢の中で僕は、なぜだか秋口に洗濯物に引っ付いている。
そして僕を見つけた人間は一様に嫌な顔をし、ベランダで僕をそっと追い払う。
- はるか
- カメムシだわ。
- 朔太郎
- そして昨夜の夢。僕はなぜだかビンに入っていた。
そして人間が、蓋を開けて僕をつついた。僕は何かを発射した。
すると、その匂いで僕自身が死んでしまった。
- はるか
- カメムシだわ。
- 朔太郎
- そして気が付くと神様がいて、来世は何になりたいかと聞いてきたので、
僕は人間と答え・・・もうわかったでしょう。
- はるか
- なるほど・・・。
でも、その、今現在人間でいらっしゃるんだから、関係ないんじゃありません?
- 朔太郎
- あのね、前世がカメムシってことは、
いつカメムシに変身するかわからないってことなんですよ!!
- はるか
- そんなことあります?
- 朔太郎
- あるんだブブ・・・!
- はるか
- ブブ?
- 朔太郎
- あれ?僕は何をブブ。ブブブブ。
- はるか
- なんだか、カメムシの羽音のような。
- 朔太郎
- もうか。
- はるか
- えっ。
- 朔太郎
- もう変身してしまブーン。
- はるか
- ウソでしょ?
- 朔太郎
- あああ・・・。はるかさん、僕はどうしたらいいんだブブ。
- はるか
- しっかりして。
- 朔太郎
- 怖い。僕は、カメムシになったらどうブブブ、ブッブブッブ。
- はるか
- (言ってることが)わからない。
- 朔太郎
- ああ、愛してほしいはるかさん、僕がカメムブブブーブ、ブブブッブーン。
- はるか
- なんとなくわかったわ。
私、あなたがカメムシになっても、愛せるかどうか、やってみる!
- 朔太郎
- たのブブブ!!!うっ!!あああ~!
- 朔太郎、カメムシに変身する(ブウン、とかいう音、する?)
- はるか
- カメムシ!!
- 客席から、「えっ?」「男が、カメムシに・・・」「きゃー!」などの声が聞こえる。
- はるか
- だい、大丈夫、これは、朔太郎さん、これは、朔太郎さん・・・!す、すきよ・・・。
- 朔太郎
- (思念の声)はるかさん、こんな僕でも君は!大好きだよ!
- 朔太郎カメムシ、はるかに向かって飛んでくる。
- はるか
- やだ、カメムシ!!
- はるか、カメムシを思わずつぶしてしまう。
- はるか
- あっ、しまった!!朔太郎さん!・・・クサっ!!カメムシ、クサっ!!
・・・まあ、カメムシじゃ、結局無理か・・・。
-
終わり。