なんらかの危機を示す爆発音、あるいは警報音。
いかん! 世界が終わってしまう!
いけませんねぇ。
ずっと黙ってたけど、ワシはサエコのことが好きだったんじゃ。
なんと。私もですよ。
なんてことだ。サエコと恋がしたかった。
私も、タクロウさんと恋がしたかったですよ。
今からでも間に合うじゃろうか。
間に合うんじゃないですか。
あなたと、添い遂げたい。
添い遂げましょう。これから。
ではまず初デートじゃ。
どこに行きましょう。
これは付き合う前の初デートじゃ。お互いまだ、様子見のデートじゃ。
映画館なんていかがですか。
いいのう! しかし、劇場が空いとらん! 
タクロウさんと一緒なら、どこでもかまいません。
お茶をしよう。
ええ。
店に入る暇はない。しばし待っとれ。
男、小銭を取り出し、落とす。
いかん、手が震えるの。
焦ることはありませんよ。
男、自動販売機でお茶を買う。
ペットボトルで、すまんの。
いいえ。冷たくて気持ちいい。
次は愛の告白じゃ。二人が結ばれる日じゃ。
ええ。
サエコ、好きじゃ!
タクロウさん、私もですよ。
そして初夜じゃ。二人で過ごす初めての夜じゃ。
恥ずかしいですわ。
サエコ、脱がせるぞ。
優しくしてくださいまし。
で、やりました、と。
やらないんですか?
時間がないからの。そして喧嘩じゃ。
喧嘩ですか?
うまくいくことばかりではない。ときに二人はすれ違い、言い争うこともあるのじゃ。
そんなことあるでしょうか。
あるに決まってるだろう。
私、タクロウさんと言い争うことなんて想像できませんわ。
いいから想像せい!
そんなこと言われたって困ります。
サエコ。
残り少ない時間、喧嘩なんかせずに過ごしたっていいじゃないの!
おおお。カーット! オッケーじゃ! 
カット?
サエコ、すまんかった! わしが間違っていた!
いいえ、いいんですよ。
次は、ええと、次は……。
ふふふ。
何を笑っておる。
タクロウさん。あなたを見ていると、あなたの歩んできた歴史が目に浮かぶようです。
まるでずっと、あなたとともに過ごしてきたかのような気持ちですよ。
サエコ。
タクロウさんは、いかがですか?
わしは……わしも……いや、わしは。わしは、後悔している。
サエコに想いを伝えなかったこの生涯を、悔やんでおる。
タクロウさん、こっちに来てくださいまし。
手をつないでもいいか?
もちろんですよ。
空が、赤くなってきたのう。
あなたの顔も、似たようなものです。
サエコ。……愛してるぞ。
タクロウさん。私もですよ。
終わり。