ここはカフェのテラス席。
以下、脳内での会話。エコーがかかっている。
あのー。
えっ!
おっと、驚かないで。驚かないで。急に申し訳ありません。
なにこれ。頭の中で声がする。
まず、ゆっくりと左を向いてもらえますか。
左……?
男の人がいますよね。
はい。不審な男の人が、一人でミルクティーを飲んでいます。
どうも、はじめまして。
え、あれは、あなたですか。
はい、私です。今、あなたの脳内に直接話しかけています。
脳内に……?
驚かせてしまって申し訳ない。
え、ほんとにあなたですか? まったくこっちを見ませんけど。
シャイなもので、申し訳ない。あなたと目が合うと、緊張してしまうんです。
右手をあげてもらえますか?
はい。
以下、エコーが取れて、普通の声。環境音も聞こえる。
店員
お呼びでしょうか?
あ、すいません。大丈夫です。
再びエコーに。
あ、ごめんなさい。
いえいえ。
余計なことを。
大丈夫です。
それで……、これは一体?
はい。今から私、脳内ではなく、あなた自身に話しかけようと思っています。
はい。
いいですか?
え……、かまいませんけど、なんですか?
連絡先を……、聞いてみたいなと。
あ、そういう……?
はい。
ナンパですか?
まぁ、そのー。
え、これは何ですか? このテレパシーみたいなのは?
これは、……すごいでしょ?
すごいでしょ……?
へへっ…へへへっ……。
何かこう、あなたは、特別な人なんですか?
特別な人?
宇宙人だとか、未来から来たとか。実はあたしの運命の人で、
世界を救うためには今、出会っておかないといけないとか。
私は、普通の電気工事士です。
これは、ただのナンパなんですね?
そうですね。いきなり話しかけるのは、失礼かなと。
はあ。
それでは、いきますね。
あ、しかし、あの、ごめんなさい。
ムム?
彼氏がいるので。
なるほど……。
すみません。でも、このすごい能力には興味があるので……。
あれ…? 聞こえてますか…? もしもし? もしもーし?
以下、エコーが取れて、普通の声。
ぐっ……。ぐうう……。すんすん……。ううぅ……。
あの、連絡先くらいなら、いいですから!
ほんとですか!?
これ、はたから見ると逆ナンみたいで恥ずかしいんですけど。
じゃあ、電話番号言いますね。
はい。
再び、エコー。
ゼロ…ハチ…ゼロ…、
いや、すごいけど。なんなのこれ。きもいんですけど。
END